直近のJ1リーグでは9試合を8勝1分けというハイペースで勝ち点を積み上げ、セレッソ大阪と並んで2位に浮上したガンバ大阪。試合のたびに前線の顔ぶれが変化し、三浦弦太と昌子源という代表クラスのCBを負傷で欠きながらも、守備陣は大崩れすることなく、前節は今季公式戦で2度敗れている柏レイソルに2対1で勝ち切った。

「過密日程で試合が早くやって来る中で、全ての選手の力が必要」と宮本恒靖監督は今季、選手の疲労度や対戦相手との相性を見極めながら、巧みなマネージメントを見せ始めている。

 そんな指揮官にとって、フィールドプレーヤーで唯一、替えが効かない存在が井手口陽介である。

堂々たる大黒柱に成長した

 言葉数は決して多くないが、今季積み上げてきた数字は雄弁だ。

 フィールドプレーヤーでは倉田秋とともに唯一全24試合に出場し、出場時間数はチーム最多の2099分。今や押しも押されもしない堂々たる大黒柱に成長した。

 そのプレースタイルは今更、説明するまでもないだろう。人間の肺は2つ、という常識を疑いたくなるほどの驚異的なスタミナでピッチ狭しと駆け回るのが井手口のスタイルだ。

 連勝街道を走り始めたガンバ大阪は基本的に4バックを採用しており、チームの好調を支えるのは井手口と大卒ルーキーの山本悠樹で構成するボランチコンビである。

「軍犬」としてチーム戦術を遂行

 本来はパスを持ち味とする山本だが「陽介くんが前に行った時は、僕が後ろに引いてリスク管理をしています」と話すように、井手口が持ち前の機動力を発揮して、相手の攻撃の芽を摘みながら、攻撃にも関与。野に放たれた猟犬さながらに、ピッチを駆ける井手口の走行距離は毎試合、チーム屈指のデータを残している。

 そんな井手口が新境地を見せたのが柏レイソル戦のプレーだった。


 走行距離11.7キロは両チームを通じて最長だったが、スプリント回数は井手口らしからぬ11回にとどまった。しかし、この試合で井手口に課されていたのはバイタルエリアのケアと、相手のキーマン、江坂任を封じることだった。

 野性味溢れるプレーが持ち味の猟犬は、この日、規律に従う「軍犬」としてチーム戦術を忠実に遂行したのだ。

11回のスプリントに秘めた貢献度

 もっとも、11回のスプリントには、今季随所で見せ始めている攻撃面での貢献度も含まれている。

 1試合平均のインターセプト数もリーグ3位の井手口は、相手にボールを握られる時間帯が続いた柏レイソル戦の後半、自らのボール奪取を攻撃へのスイッチにつなげていた。

 後半だけで実に4度、カウンターの起点になった彼がとりわけ驚異的なのは、必ず相手ゴール前まで顔を出し、攻撃に厚みをもたらしている点だ。

 ガンバ大阪のジュニアユースとユースではそれぞれ背番号10を託されていた紛れもない技巧派だが、今季はロングパスや前方でのパスワークにも巧みに絡み、単なるハードワーカーでない一面も見せている。

 宮本監督も言う。

「陽介らしい、中盤のダイナモのような動きがたくさん見られますけど、インサイドハーフでも、川崎戦のようにアンカーでもいい仕事をしてくれているなと思って見ています」

ヤット、二川も指揮官の哲学を体現

 強かったガンバ大阪にはいつも、指揮官の哲学をピッチ上で体現するMFが中盤に君臨していた。

 西野朗監督が作り上げた魅惑の攻撃サッカーには二川孝広(現FCティアモ枚方)が不可欠だったし、長谷川健太監督が「ポジション名はヤット」とさえ評し、単なるボランチの枠組みを超えた働きを見せたのは遠藤保仁(現ジュビロ磐田)だった。

 そして今、「奪ってから速く」を標榜する宮本ガンバのスタイルを支えるのが井手口である。

 今も、口数は決して多くはないが、口下手だったルーキー当時と異なり、取材で問われたことに対しては明確な思いを語る24歳。チームの中心選手であることの自覚は、その背番号が物語る。

背番号15を選んだのにはワケがある

 昨年8月、失敗だった欧州での挑戦に一旦ピリオドを打ち、ガンバ大阪への復帰を決断した井手口が背番号15を選んだのにはわけがある。

「コン(今野)さんが長年つけて来た背番号やし、ああいうもの凄い選手の後を継げるのはいいかなって思って、15番をつけました」(井手口)

 7月にガンバ大阪を離れジュビロ磐田を新天地に選んだ今野泰幸の番号をあえて選んだわけだが、飛び級でトップ昇格した2014年当時、ボランチでコンビを組んでいた遠藤と今野は超えたくても超えられない高すぎる壁だった。

「いなくてもタイトルが取れるように」

 そんな井手口が遠藤の期限付き移籍が決まった直後、改めて秘めた思いを口にするのだ。

「2人(遠藤と今野)を超えたい、レギュラーを取らないと意味がないと思ってやってきましたけど、ガンバを引っ張ってきてくれたのはヤットさん。ヤットさんが中心となってタイトルを全て奪って来ているので、いなくてもタイトルが取れるように頑張って行きたい思いもあります」

 今野のように相手の攻撃の芽を摘み、遠藤のように決定的なパスも出す――。凄みさえ見せ始めているハイブリッドなボランチは、ガンバ大阪復権の旗頭になる。

文=下薗昌記

photograph by J.LEAGUE