“We are top of the league, we are top of the league!”

 これは、プレミアリーグの試合会場でお馴染みのチャントの1つだ。

 まだ1年も経っていないとは思えないほど昔のように感じるが、観衆で埋まるスタジアムが当たり前だったイングランドのトップリーグではシーズン開幕直後に、中小クラブや後半戦で優勝争いを演じるビッグクラブのサポーターが、国内サッカー界の頂点に立つ快感をスタンドで歌っていたものだ。

 今季の第8節初日となった11月8日、2−0で勝利したホームでのニューカッスル戦後に首位に立ったサウサンプトンのファンも、無観客試合が続く状況でなければ、セント・メリーズ・スタジアムで陽気に「リーグ首位だ!」と連呼していたことだろう。

 その合唱に、三日天下は覚悟の上という自虐的ユーモアが混じっていたであろうことも想像に難くない。

 実際のところは“二日天下”だった。同節の10試合が終わると、好調レスターに首位を明け渡し、トッテナムとリバプールにも抜かれて4位まで順位を下げている。それでも、ファンにとっては上々の立ち上がりと言える。

「ファンは、順位表を写真に収めたりして」

 サウサンプトンは、1992-93シーズンに始まったプレミア史上で29番目の首位経験者。つまり、今季までの28年間に所属した計49クラブのうち、半数近くのクラブが知らないままの首位の快感を味わったことになる。

 ラルフ・ハーゼンヒュットル監督はニューカッスル戦後にテレビカメラの前に現れると、この時点での首位の意義の薄さは認めつつも「ファンは、順位表を写真に収めたりして喜んでくれるだろう」と笑顔で語っていた。

 そうしたファン心理は理解できる。個人的に贔屓のチェルシーが首位という嬉しさを初めて体験したのは22年前の12月のことだ。

 当時ビッグクラブでも強豪でもなかったチェルシーは、首位とも縁がなかった。ところが、1998-99シーズンの半ば、ホームでのトッテナム戦で勝ち点3を奪えば、首位に浮上してクリスマスを迎えられる可能性が生まれた。

 チームも意識していたのだろう。後半も残りわずかとなった頃に先制点が生まれると、すでにベンチに下がっていたジャンフランコ・ゾラが、ベンチを飛び出してまでゴールを決めたグスタボ・ポジェに抱きつき、主審に怪訝そうに見られていたことを覚えている。

 当時の携帯にスクリーンショットの機能があれば、スタンドにいながらもネットで情報を確認できる環境があれば、間違いなく最新の順位表を写真に記録していたはずだ。

大統領選に絡めて“STOP THE COUNT”

 サウサンプトンの選手たちも、勝てば首位という考えがあったに違いない。

 第5節のチェルシー戦で2 度のビハインドから追いついき(3−3)、続くエバートン戦(2−0)とアストンビラ戦(4−3)では、開幕ダッシュに成功した両チームを倒して自信を増していた。

 ニューカッスル戦を前にした状況は、首位リバプールと3ポイント差で得失点差は同じ。当日リバプールは試合がなかったため、勝てば首位に立てる。実際、フルタイムを終える8分前に勝利を確定するチーム2点目を決めたスチュアート・アームストロングには、他のフィールド選手9名全員が駆け寄る祝福ぶりだった。

 クラブの公式アカウントからは、勝ち点16ポイントの自軍が首位にいるリーグ順位表の写真が、試合終了から20分足らずでツイートされもした。添えられていたメッセージは、“STOP THE COUNT”。

 昨季は獲得するまで18試合を要した16ポイントに8試合で到達したサウサンプトン。これ以上ポイントを獲得するチームが出なければ、プレミア首位のままでいられるわけだ。

 ちなみに“STOP THE COUNT”は、前日にライバル勝利の兆しが見えた選挙で開票ストップをツイッターで訴えた、米国大統領に対するブラックジョークでもある。

 世界各国と同様、大統領選挙の成り行きを見守っていた英国は、2度目のロックダウン開始から2日が経っていた。パブは閉まり、家族以外とはテレビ観戦も許されない事態。サウサンプトンの地元ファンはもちろん、明るい話題に飢えていた全国各地の庶民からも「最高の当て擦り」と歓迎される吉報となった。

 サウサンプトンにとっては、「金曜ナイターの悪夢」を葬り去る首位浮上でもあった。同じく金曜の夜に行われたホームでのレスター戦で、1885年に始まったクラブ史上最悪の大敗(0−9)を喫したのは昨年の10月後半。クラブのフロント陣は、ハーゼンヒュットル体制を辛抱強く見守ってきた自らの正しさを、改めて確認したことだろう。

早期解任になっても不思議ではなかったが

 オーストリア人指揮官は、もうすぐ就任2年目が終わろうとしているが、監督の短命が珍しくないプレミアだけに早期解任となっても不思議ではなかった。

 第15節から采配を振った一昨季は、18位で引き継いだチームを残留に導きはしたが、5試合連続で勝ち星のない低調な16位フィニッシュだった。初めてフルシーズンを戦った昨季は2連敗スタート。レスター戦での記録的大敗は、リーグ戦で2カ月ほど白星がなく、降格圏内に落ちていた時期の出来事でもあった。

 その間のチェルシー戦(1−4)を観た限りでは、監督がハーゼンヒュットルである意味自体が感じられなかった。2点をリードされた時点で諦めたように見えたチームは、監督交代直後にあった果敢なプレッシングや、一気に攻め崩すためのオーバーロード(※選手を集中させるエリアを作る戦法)など、ハーゼンヒュットル監督が志向するスタイルが見られなくなっていたからだ。

 ただ振り返ると、3バックから現在の4-4-2へシステムも変わる中で、スタイルを植え付けるのに時間がかかったということなのだろう。

 アタッキングサードでの激しさが攻守両面で見られるようになったのは、引き分けに終わった昨年11月後半のアーセナル戦(2−2)あたりから。今年1月には敵地での逆転勝利(2−1)でレスターに軽く借りを返し、コロナウイルス感染拡大による中断後はマンチェスター・シティ戦での3ポイント獲得(1−0)を含む5勝3分1敗で、その機能性と自信を高めていた。

イングスを失うはめになったのだが

 そして先のニューカッスル戦は、ハーゼンヒュットル色がチーム全体に浸透し始めていることをうかがわせる完勝でもあった。

 サウサンプトンは、アストンビラとの前節でキーマンのダニー・イングスを失うはめになっていた。膝の半月板の手術を余儀なくされたエースは、開幕7試合で5得点2アシストという得点源である以上に、最前線からの果敢で献身的なプレッシングでチームを機能させていた重要人物だ。

 リバプール時代は2度に渡る膝の大怪我もあって真価を示すことができなかった。だが、ユルゲン・クロップ向きのストライカーとして期待された理由を今、サウサンプトンの前線で実証している。

 イングス欠場の穴を埋めたのは、前月に移籍加入したばかりのセオ・ウォルコットだ。それまで2年9カ月を過ごしたエバートンで復活したとは言い難い31歳は、ユース出身の10代だった当時頭角を現したサウサンプトンで2度目のホームデビューを飾り、ハーゼンヒュットル軍の一員としてイングスの代役を務めた。

ウォルコットが2トップの一角として機能

 チームは攻撃的な左SBライアン・バートランドも怪我で欠いていた。それでもウォルコットは2トップの一角で機能したのが大きかった。

 バートランドの代わりにCBジャック・スティーブンスが起用され、右SBカイル・ウォーカー・ピータースのオーバーラップの頻度が増した。

 また右ウインガーのアームストロングはインサイドに下がる姿が見られ、普段より高い位置を意識できたジェイムズ・ウォード・プラウズとオリオル・ロメウの両センターハーフも守備的なスティーブンスの存在で普段より高い位置をとれた。ウォルコットは彼らと絡みながら、チェ・アダムスとコンビで大きく貢献したのだ。

 前半早々の7分、先制ボレーを決めたアダムスが右足で捉えたクロスは、ウォーカー・ピータースとの連動でボールを奪ったウォルコットによる折り返し。終盤の82分には中央からドリブルで斬り込むと相手DF陣のもたつきを誘い、アームストロングに追加点のチャンスを与えた。

 名前を挙げた7選手に、代表レベルでも主力と呼べる者はいない。スペイン人のロメウ以外はイングランド人だが、28歳で最盛期のイングスも、今年10月にオーバーヘッドで初得点を決めたウェールズ戦が代表3試合目。クラブでキャプテンを務める26歳のウォード・プラウズにしても代表キャリアは4試合で、1度しか先発していない。

 それでもサウサンプトンは、残留争いに巻き込まれかねない中位以下グループの「同類」と思われたニューカッスルよりも、明らかにレベルが上のチームと見受けられた。

 サウサンプトンは今、2012年に8年ぶりの復帰を果たしたプレミアで、トップ6争いの常連へステップアップを遂げ、欧州の舞台に定着する野望を抱いている。

 選手が身に纏うユニホームの襟元にも、ファンが首に巻くマフラーにも、スタジアムへ続く陸橋の壁にも記されている“WE MARCH ON”のスローガンを地でいくように、愛称“セインツ(聖者)”が勇ましく「行進」しているとまでは言えないかもしれない。

 とはいえ、目標に向かってジワジワと歩を進めてはいる。今季8節で経験したプレミア首位は、今年12月に就任3年目に突入するハーゼンヒュットルが率いるサウサンプトンにとって、一時的であっても、通過した意義のある道標としても喜ばしい。

文=山中忍

photograph by Getty Images