2022年ワールドカップ(W杯)南米予選第4節を終えて、FIFAランキング60位の小国が旋風を巻き起こしている。

 面積が日本の4分の3ほどで、人口約1750万人のエクアドル。赤道直下に位置し、国名はスペイン語で「赤道」を意味する。

 10月8日の第1節(アウェー)でアルゼンチンに“疑惑のPK”で0−1と惜敗したが、5日後、堅守に定評があるウルグアイを4−2と粉砕。今月12日、標高約3700mの“地獄の高地”ラパスでボリビアに3−2で逆転勝ち。これだけでも十分すごいが、その5日後、FIFAランキング10位のコロンビアを6−1と叩きのめした。

先進的な戦術というわけではないけど

 ブラジルとアルゼンチンに次ぐ3位で、総得点13はブラジルの12点を上回り最多だ。

 とはいえ、先進的な戦術を使うわけではない。相手ボールが自陣に入ってからプレスをかけ、守備ブロックを敷く。ただ、個々の選手のスピードとパワーが素晴らしく、球際が非常に強い。

 アルゼンチンのFWリオネル・メッシ(バルセロナ)、ウルグアイのFWルイス・スアレス(アトレティコ・マドリー)、コロンビアのMFハメス・ロドリゲス(エバートン)らスーパースターを徹底的にマークし、パスもシュートもほとんどブロックしてしまう。

 攻守に貢献する19歳のセントラルMFモイセス・カイセード(インデペンディエンテ・デル・バレ)が攻撃の起点となり、視野が広いベテランMFアンヘル・メナ(レオン)が組み立て、パワフルなCFミカエル・エストラーダ(トルーカ)らが決める。20歳のFWゴンサロ・プラッタ(スポルティング)はスピード豊かなウイングで、途中出場4試合で2得点をあげている。

 この国は、長いこと南米の“お荷物”に近い存在だった。南米予選では、1998年まで不参加や予選敗退を繰り返した。

 2002年大会の南米予選を突破して悲願のW杯初出場を果たしたが、グループステージ(GS)で最下位敗退。2006年大会で初めてベスト16入りしたが、2010年大会は南米予選で消え、2014年大会は本大会のGSで敗退。2018年大会は南米予選で8位(全10チーム)に沈んだ。昨年のコパ・アメリカ(南米選手権)では、若手主体の日本と引き分けてグループ最下位だった。

クライフの息子は1試合も指揮せず辞任

 その後は監督を解任し、臨時監督を経て今年1月、オランダが生んだ伝説の名手にして名監督だったヨハン・クライフの息子ジョルディ・クライフを鳴り物入りで招聘。ところが、1試合も指揮を執らないまま辞任してしまう(サッカー協会の内紛を知って嫌気がさした、という説がある)。ようやく8月末、アルゼンチン人のグスタボ・アルファロ(58)を新監督に就けた。

 アルファロはアルゼンチン国内の中小クラブの監督を歴任すると、2007年にアルセナル(アルゼンチン)を率いてコパ・スダメリカーナで優勝。昨年は名門ボカ・ジュニオルズを指揮した。

 強化試合をする時間がなく、ぶっつけ本番で南米予選に臨んだにもかかわらず、この結果を出した。地元メディアは監督を「魔術師」と崇め、代表チームを「暴風雨」と呼んで大はしゃぎ。国民も有頂天だ。

コロンビアは国民から叱り飛ばされた

 一方、「暴風雨」になぎ倒されたコロンビアは、地元メディアと国民から「恥を知れ」、「ふがいないにもほどがある」と叱り飛ばされている。

 2014年と2018年のW杯で連続して日本と同組に入り、日本のファンにもお馴染みの国だ(2014年はコロンビアが4−1で大勝したが、2018年は日本が2−1と雪辱)。

 ハメス・ロドリゲス、MFフアン・クアドラド(ユベントス)ら欧州ビッグクラブで活躍するスターを擁する攻撃陣は、南米有数。かつては守備と精神面に弱点があったが、2012年から2018年まで監督を務めたアルゼンチン人の名将ホセ・ペケルマンの指導でこれらの課題が克服されつつあった。

 今回の南米予選でも、第1節はベネズエラにホームでFWルイス・ムリエル(アタランタ)の2得点などで3−0と快勝。次節では、敵地でチリと2−2で引き分けた。

 ところが、第3節(ホーム)のウルグアイ戦で守備が乱れて0−3と完敗。これでチーム全体が自信を失い、エクアドル戦では守備が崩壊して前半39分までにまさかの4失点。カルロス・ケイロス監督は、直後の2分間に4人を代えるなど苛立ちを隠せなかった。

カルロス・ケイロス監督は解任必至か

 ケイロス監督は、ポルトガル代表、名古屋グランパス、レアル・マドリー、イラン代表などの監督を歴任した名将で、昨年2月からコロンビア代表を率いる。

 エクアドル戦後、「この2試合の結果はとても重い。責任はすべて私にある」と沈痛な表情で語っており、国内メディアは解任必至と伝えている。

ハメスはレアルでの不遇時でもエースだったが

 エースのロドリゲスは、天才的なボールタッチから多彩なパスを繰り出し、シュートを叩き込む。22歳で迎えた2014年W杯で、5試合で6得点をあげて得点王。ラウンド16のウルグアイ戦で後方からのパスを胸でトラップし、左足で放ったボレーシュートは大会ベストゴールの1つだった。

 ところが、直後に移籍したレアル・マドリーでジネディーヌ・ジダン監督の信頼が得られず、出場機会が少なかった。ただしそのような時期でも代表では主将を務め、攻撃の中心を担った。

 今年9月にエバートンへ移籍し、以後はレギュラーとして活躍する。ところが、南米予選の第3節と第4節では精彩を欠いた。

 2014年W杯を境に伸び悩んでいるが、コロンビアが2022年W杯に出場するためにはこの男の奮闘が不可欠だ。

 南米予選は、今年10月から2022年3月までの1年半に参加10カ国がホーム・アンド・アウェーの総当たりで対戦。4位までがW杯出場権を獲得し、5位が大陸プレーオフに回る。ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイの3強が順当に勝ち上がるとすると――残り7カ国で1.5枠を争うことになる過酷な大会だ。

コウチーニョ&ネイマール抜きでも強い

 第4節を終えて、ブラジルが全勝で首位。第3節と第4節はネイマール(パリ・サンジェルマン)とフィリペ・コウチーニョ(バルセロナ)という攻撃の主力を故障で欠いたが、選手層の厚さで乗り切った。

 アルゼンチンはエース・メッシが二重、三重のマークを受けたが、若手のラウタロ・マルティネス(インテル)らの成長と安定した守備で3勝1分の2位につける。そして3位がエクアドルで、以下、パラグアイ、ウルグアイ、チリ、コロンビアの順に続く。

 ウルグアイは、第3節コロンビア戦でエディンソン・カバーニ(マンチェスター・ユナイテッド)、スアレスの両エースの得点などで快勝したが、第4節ではスアレスが新型コロナウイルス感染のため欠場し、守備のミスもあってブラジルに完敗した。

 南米予選は来年3月下旬に再開され、第5節でアルゼンチンとウルグアイが、第6節でブラジルとアルゼンチンが激突する。

 ブラジルとアルゼンチンの両横綱は今後、どう戦うのか。出遅れたウルグアイ、コロンビアはどう巻き返すのか。「暴風雨」エクアドルは今後、厳しくマークされる状況で、引き続き力を発揮できるのか……。

“フットボール熱狂大陸”南米が、さらにヒートアップするのは間違いない。

文=沢田啓明

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