自信に満ちて相手を見下ろして戦うソフトバンク。重圧が重圧を呼んで相手の影がどんどん大きくなってしまった巨人。それが日本シリーズの第1戦だった。

 ソフトバンクが千賀滉大投手、巨人が菅野智之投手という両エースの激突となった日本シリーズ初戦は、昨年4連勝で日本一に輝いたソフトバンクが5対1で完勝した。

 屈辱の4連敗。勝負の裏には巨人選手たちに、その昨年のトラウマが大きな影を落としているように見えた。

 その影が端的に出たのが菅野のピッチングだったのではないだろうか。

抜け気味のボールが増えて、痛打される場面も

 今季は開幕から13連勝を飾り、リーグ連覇の原動力となった右腕だが、連勝中も決して絶好調というわけではなかった。

 今季は昨年、痛めた腰への負担を軽減するために、腕から始動するフォームに改造。そのお陰でほぼフルシーズン、故障によるリタイアもなくマウンドに立つことができた。

 またこの改造でボールの威力は増したことも確かだが、その反面、生命線の真っ直ぐとスライダーに抜け気味のボールが増えて、そこを痛打される場面が見られてもいた。

 そこでシーズン中はピッチングの組み立てを変え、序盤からフォークを多投するなど、これまでの真っ直ぐとスライダーというイメージを崩すことで連勝街道を走ってきた面もあった。

先発した菅野智之 (C)Naoya Sanuki

 だがこの日の菅野は、「1球の失投も許されない」「絶対に先に点をやれない」という強い意志を感じさせる気迫のマウンド。だからこそ立ち上がりは真っ直ぐとスライダーを軸に、王道ピッチングでソフトバンク打線に立ち向かっていった訳である。

6回に失った2点が巨人の致命傷だった

 マークしていた柳田悠岐外野手には初回の第1打席で徹底した内角攻め。その後への残像を意識したピッチングで、最後も膝下のスライダーで空振り三振に仕留めた。ただ、立ち上がりから全体的にボールは抜け気味で高く、2回にその抜けたスライダーを栗原陵矢外野手に2ランされた。

 そうして4回にも栗原にインコースの真っ直ぐが浮いたところを右翼線に二塁打されて、迎えた6回だ。

 2死から柳田への死球とジュリスベル・グラシアル外野手の右前安打の一、三塁となった栗原の3度目の打席。2ボール1ストライクから、またもフォークが高めに浮いたところを左中間に運ばれ2人の走者が一気に生還した。

 ここで失った2点が巨人の致命傷だった。

あの菅野が3度も同じ打者に失投を繰り返して打たれた

 普段通りを目指したが、普段通りではなかった。抜けたボールがあるのは今季の菅野。そう考えれば2回の2ランは、ある意味、想定内の仕方のないものだったかもしれない。

 ただ、いつもなら勝負所では意思の通った力のある球を投げて相手をねじ伏せてきた。それが菅野という投手の真骨頂のはずなのだ。

 しかし栗原の3度目の打席はねじ伏せにいったが、ボールが全て思ったより高めに浮いて打ち崩された。あの菅野が3度も同じ打者に失投を繰り返して打たれたのである。

 普段の投球ではなかった。

 それが4連敗の重圧。強いソフトバンクの影がどんどん大きくなって、必要以上に意識してしまった結果だった。

 思い出すのは工藤公康監督と原辰徳監督がそれぞれのチームの投打の主力選手として対戦した90年の日本シリーズだ。

斎藤雅樹を軸に槙原寛己、桑田真澄の3本柱がいたが……

 藤田元司監督が率いたこの年の巨人は、前年には近鉄を破って日本一に輝くなど決して弱いチームではなかった。

 エースの斎藤雅樹を軸に槙原寛己、桑田真澄の3本柱を中心とした2桁勝利投手5人を輩出した強力投手陣。打線も4番の原辰徳を中心にウォーレン・クロマティ、岡崎郁に駒田徳広、川相昌弘に篠塚利夫(現・和典)ら錚々たるメンバーでペナントレースは圧勝。9月8日に史上最速で優勝を決めて日本シリーズに臨んでいた。

 一方の西武は、まさに黄金時代の真っ只中。前年こそ近鉄の“いてまえ打線”に苦杯を舐めたが、85年からリーグ4連覇して、そのうち3度の日本一と最強を誇った。

 勝ち方を知っているチームというところは、いまのソフトバンクにつながるものがあったかもしれない。もちろん個々の選手を見ても秋山幸二、清原和博、オレステス・デストラーデに石毛宏典、辻発彦、伊東勤らを擁した強力打線に、投手陣もエースの渡辺久信に若かりし工藤公康、さらには郭泰源に潮崎哲也らを揃えて選手層の厚さを誇るチームでもあった。

逆に自分のピッチングを見失うことになった

 その西武に挑んだ巨人だが、優勝から日本シリーズの間に相手を研究し尽くしたことで、逆に相手が大きくなってしまった。

 特に投手陣は清原の秋山の、デストラーデのホットスポットを徹底的に頭に入れたことで、「そこには投げてはいけない」と逆に自分のピッチングを見失うことになってしまった。

 その結果、初戦に槙原がデストラーデに強烈な本塁打を浴びて落とすと、失ったシリーズの流れを1度も取り戻すことなく4連敗で敗れ去った。

 西武を巨大化し過ぎたことで自滅した——それが90年の屈辱の4連敗の背景だとすれば、強いソフトバンクという去年のイメージをどう払拭して戦いに臨めるか。

 巨人にとっては去年の4連敗の影をどう消し去って、自分たちの野球ができるかが勝負のはずなのだ。

ソフトバンクの影に巨人ナインが怯えている?

 しかし初戦の菅野のピッチングを見ると、やはり影を消し去るどころか、むしろ大きくなったソフトバンクの影に巨人ナインが怯えているようにさえも見える。

 逆にソフトバンクは王者の余裕で巨人を飲んでかかっている。

 千賀は決して絶好調ではなかった。

7回無失点に抑えた千賀滉大 (C)Hideki Sugiyama

 巨人打線が低めを徹底して捨てて、フォークを見切られた。真っ直ぐも高めに浮いて制球ももうひとつだった。それでもそれならとばかりに力でねじ伏せにかかって7回を無失点で抑え切った。

 そこから5点差があってもリバン・モイネロ投手とクローザーの森唯斗投手へと万全の継投で逃げ切った。

「千賀がよく投げてくれたし、栗原もよく打ってくれた」

 投打のヒーローをこう称えた試合後の指揮官はこう語っている。

「みんなが勝つんだという強い気持ちを持ってやってくれた結果だと思う。我々の目標はあくまで4年連続日本一ですから」

場合によっては菅野の中3日での登板の可能性を示唆

 打倒巨人ではない。相手がどこだろうと日本シリーズという舞台で、勝ち切ることだけを目的に戦うという意思表示だった。

 一方、初戦を落として、改めてソフトバンクの印象を問われた原監督は言葉が少ない。

言葉が少なかった原監督 (C)Nanae Suzuki

「まだ何とも言えません。大したことないなとか、強いなとかそんなこと言えません」

 さらに相手のパワーについて聞かれると「分かりません。その辺は終わってから話しましょう」と口をつぐんだ。ただ、4点差となった直後の6回、87球で降板させた菅野に対しては「トータルでということを考えて最善策ということ」と中4日、場合によっては中3日での登板の可能性を示唆して球場を後にした。

 初戦を終えてなお巨大化していく王者・ソフトバンクの影を消しさって自分たちの野球ができるのか。巨人の救いは、去年のシリーズで沈黙した坂本勇人内野手と丸佳浩外野手に初戦で1本が出たことだった。

 やはり巨人がこの苦境を脱するのは、シーズン中と同様に打線で窮地を切り開くしかないのだろう。

文=鷲田康

photograph by Hideki Sugiyama