2020年、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。プロ野球部門の第1位は、こちら!(初公開日 2020年11月23日)。

 わずか39秒の中に巨人・原辰徳監督の屈辱が詰め込まれていた。

「やはり流れがこっちに来ないというかね。最初に渡してしまったというね。(移動日で)明日1日ありますから。猛練習して、明後日に備えますよ。以上!」

 京セラドームの一塁側通路。

 新型コロナウイルスの感染予防で取材人数が制限されているため、監督を取り巻く記者はわずかに5人しかいなかった。そのことがせめてもの救いだったようにも思えた。

 取材に立ち会った記者によると至って穏やかな口調だったが、顔は少し紅潮していたという。

アッという間に鷹打線の奔流に飲み込まれた

 前日にエースの菅野智之投手がソフトバンク打線の餌食となり、この日も先発の今村信貴信投手がアッという間に鷹打線の奔流に飲み込まれた。

 1回に1死から2番の川島慶三内野手を歩かせると、3番の柳田悠岐外野手にセンターオーバーの二塁打を打たれて先制を許す。

 その後、4番のジュリスベル・グラシアル外野手の内野安打を二塁・吉川尚輝内野手が悪送球して2点目が入り、前日のヒーロー・栗原陵矢外野手の右前安打でさらに一、三塁とされて内野ゴロの間にこの回3点目を献上。

 2回に9番の甲斐拓也捕手に真っ直ぐを狙われたフルスイングで中越え本塁打を許した。

 3回には2番手の戸郷翔征投手も捕まった。

 グラシアルに左翼席にライナーで突き刺さる2ランを浴びた時点で、実質的に試合は終わった。その後は指名打者アルフレド・デスパイネの満塁弾に守備の乱れなどのミスも出て13失点。

満塁本塁打を放ったデスパイネ (C)Hideki Sugiyama

 巨人の日本シリーズでの失点記録を更新する大敗で2連敗のスタート。一方、4連覇を狙うソフトバンクは、これでシリーズは3年越しの10連勝と圧倒的な強さが際立つばかりだ。

完全な力負けが続く

「もはやDHうんぬんというだけの問題ではない。根本的なチーム作り、ドラフトや外国人選手の獲得など編成全般の問題が、これだけの差を生んでいるのでしょう」

 こう呻いたのはあるセ・リーグ関係者だった。

 昨年、シリーズで4連敗した直後に原監督が指摘した、指名打者制度によって生まれたリーグ間格差の問題は、確かにきっかけとしてあるかもしれない。

 ただ、根本的な野球の差、選手の質の差は、そうした制度的な歪み以前の問題であることは明白となっている。

 完全な力負けが続く。

 まず巨人打線がソフトバンクの繰り出す投手のパワーピッチが、真っ直ぐが打てないのだ。

岩嵜、杉山、椎野にも手も足も出ず

 初戦の3回。無死一塁から打席の大城卓三捕手が、ソフトバンク先発の千賀滉大投手に12球を投げさせた場面があった。真っ直ぐで押す千賀に、大城は食らいついてファウルを連発した。だが、実は150km台の真っ直ぐに、振り遅れてボールが前に飛ばなかったというのが本当のところだった。

 同じ初戦で、流れを決めたのが4回の攻撃。千賀が連続四球を出してつかんだ無死一、二塁のチャンスで、丸佳浩外野手がボール2から真っ直ぐを狙い打った。しかしこれも振り遅れて詰まった遊ゴロ併殺打に倒れてチャンスは潰えている。

 第2戦でも先発した石川柊太投手の投球に圧倒されたが、巨人にとって一番、ショックだったのはそこではなかったかもしれない。

 9点差のついた7回からマウンドに上がった岩嵜翔投手、8回から登板した杉山一樹投手、そして最後を締めた椎野新投手と大差の中で出てきた3人のリリーフ投手が、いずれも150km台の真っ直ぐを連発。その投球の前に手も足も出なかった。

原監督「パワーの差だと思います」

 真っ直ぐに振り遅れるから、ソフトバンクの投手陣は変化球を交えながら、真っ直ぐで押しさえすれば打たれないとばかりにパワーピッチで攻め立ててくる。

 分かっていてもその真っ直ぐを打ち返せないのだから、勝負の行方は明らかである。

 実は戦前、昨年の4連敗を振り返って、ソフトバンクと巨人の差を原監督に問うたことがあった。

「それはパワー。パワーの差だと思います」

名将・原監督にも手の打ちようがない? (C)Nanae Suzuki

 どうしようもない溝。監督の采配力だけでは、埋められない彼我の差。この2試合で巨人が改めて見せつけられたのが、この根本的な問題点だったはずである。

工藤監督「きょうは6回がミソでしたね」

 しかもソフトバンクはこの圧倒的なパワーだけではないところに、強さがある。

「きょうは6回がミソでしたね。なんとかあそこを凌げればと思っていた」

 試合後のソフトバンク・工藤公康監督がこう振り返ったのは6回の変則投手継投だ。

敵地で2連勝を飾ったソフトバンク・工藤監督 (C)Naoya Sanuki

 先発の石川が3番の坂本勇人内野手と4番の岡本和真内野手に連打を浴びて招いた1死一、二塁のピンチ。ここで工藤監督はすかさず5番の丸に対して、ワンポイントで左サイドスローの嘉弥真新也投手を起用。

 その嘉弥真が4球続けて外角スライダーを投げ込んで丸を空振り三振に仕留めると、すかさず右のアンダースローの高橋礼投手にスイッチ。高橋は代打の代打の田中俊太内野手を歩かせて満塁としたが、7番の中島宏之内野手をフルカウントから134kmのストレートで空振り三振に抑えてピンチを切り抜けた。

「久々の登板で緊張したが、いい球を投げることができた」(嘉弥真)

「四球は反省ですが、結果的に0点で抑えることができて良かった」(高橋)

パ・リーグ担当記者「リアルにロッテより弱い」

 質量ともに充実したリリーフ陣がいるからこそ、主軸の東浜巨投手を右肩の不調で直前に欠いても、びくともしない。

 その選手層の厚みがソフトバンクの土台にあるのだ。

「リアルにロッテより弱い」

 直前のクライマックスシリーズでは2試合でいずれも先制点を奪うなど、連敗はしたものの、ソフトバンクと対等の勝負をしたロッテと比較して、パ・リーグの担当記者からはこんな声が聞こえてきている。

 89年の日本シリーズでは近鉄・加藤哲郎投手が「ロッテより弱い」と語ったと伝えられて(実際にそうは言っていないのだが)、奮起した巨人が3連敗から4連勝という逆転劇で日本一へ上り詰めたが、果たしていまの巨人にそんな外野の声を跳ね除ける力があるかどうか……。

1989年の日本シリーズ第7戦で、巨人に打ち込まれて降板する近鉄・加藤哲郎 (C)Kenmizaki Makoto

右を並べる選択肢もあるかもしれない

 仕切り直しの第3戦はソフトバンクがマット・ムーア投手、巨人がエンジェル・サンチェス投手と両外国人投手の先発となる。

 巨人は唯一、当たりの出ているゼラス・ウィーラー外野手をどう使うか。左のムーアに対して1、2番が機能していないこともあるので、1番に陽岱鋼外野手を置き2番・坂本、3番・ウィーラー、4番・岡本、5番・中島と右を並べる選択肢もあるかもしれない。

 とにかくサンチェスが踏ん張り、その間に先制点をどう奪えるか——当たり前だがそこからしか勝機は訪れないだろう。

2020年 プロ野球部門 BEST3

1位:巨人、ソフトバンクの“真っすぐ”が打てない衝撃「リアルにロッテより弱い」の声も…
https://number.bunshun.jp/articles/-/846327

2位:巨人、大量16人「戦力外通告」の真相 原辰徳監督の戦略と台頭する“第7世代”の実態とは
https://number.bunshun.jp/articles/-/846329

3位:巨人の悲しき「戦力外通告」 3年前、村田修一(36)の“非情なリストラ”がジャイアンツに残した遺産
https://number.bunshun.jp/articles/-/846330

4位:松井秀喜がもし巨人ひと筋だったら。日本人年間50発、MLBで減った三振。
https://number.bunshun.jp/articles/-/846331

5位「FA、人的補償で一番損してるの西武説」は本当か 12球団の流出選手を調べると…
https://number.bunshun.jp/articles/-/846332

文=鷲田康

photograph by Hideki Sugiyama