世界中がコロナ禍に苦しんだ2020年、日本の競馬界では牝牡の無敗の三冠馬が登場し、アーモンドアイが史上最多の芝GI9勝目をマークするなど、いくつもの金字塔が打ち立てられた。

「競馬は世をうつす鏡」と言われている。苦しむ私たちを勇気づけるべく、駿馬たちが素晴らしいパフォーマンスを披露してくれているのか。

そんな一年の総決算となる、第65回有馬記念(12月27日、中山芝2500m、3歳以上GI)のスタートが近づいてきた。

 今年はコロナ対策で、台湾の蔡英文総統、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相など、女性指導者の活躍が目立った。

 日本の競馬界でも「牝馬の時代」がピークを迎えている。今年これまで行われた牝牡混合古馬GIで、牝馬が何と8勝もしているのだ。これはもちろん1984年のグレード制導入以降最多である。牡馬が勝ったのは、フェブラリーステークス(モズアスコット)と天皇賞・春(フィエールマン)、チャンピオンズカップ(チュウワウィザード)だけなのだから、凄まじい。

クロノジェネシスが「女の時代」を締めくくる?

 この有馬記念で、そんな「女の時代」を締めくくりそうなのが、春秋グランプリ制覇を狙うクロノジェネシス(牝4歳、父バゴ、栗東・斉藤崇史厩舎)だ。

 昨年の秋華賞でGI初制覇を遂げると、今年初戦の京都記念を2馬身半差で快勝。大阪杯こそラッキーライラックから首差の2着に惜敗するも、つづく宝塚記念では、レース史上最大着差となる6馬身差で圧勝し、GI2勝目をマークした。

 父が重厚な欧州血統の凱旋門賞馬バゴだけに、重馬場だった京都記念、稍重だった宝塚記念で強さを発揮できたように見られがちだが、良馬場でのスピード決着にも強い。それが証拠に、前走の天皇賞・秋では、スタート直後に挟まれて位置取りを悪くしながら、上がり3ハロン32秒8の末脚を使い、アーモンドアイにコンマ1秒差の3着まで追い込んだ。

 ファン投票では、89年のオグリキャップを上回る、史上最多の21万4742票を獲得してトップとなった。

 単勝でも、おそらくこの馬が1番人気に支持されるだろう。

 外国人騎手への乗り替わりが当たり前になったなか、全12戦で北村友一が手綱をとっている。ここでも人馬一体となり、宝塚記念のような圧巻の走りを披露してくれるか。

 半姉のノームコアが香港カップを制するなど、血の勢いもある。

ラストランのラッキーライラックの状態は

 これがラストランとなるラッキーライラック(牝5歳、父オルフェーヴル、栗東・松永幹夫厩舎)も、前走のエリザベス女王杯を制したとき同様、いい状態で出てきそうだ。

 GIで僅差の2着が3回あるカレンブーケドール(牝4歳、父ディープインパクト、美浦・国枝栄厩舎)は、鞍上に有馬記念で最多の4勝を挙げている「グランプリ男」池添謙一を配してきた。

 そのほか、無敗でオークスを制したあと勝ち鞍から遠ざかっているラヴズオンリユー(牝4歳、父ディープインパクト、栗東・矢作芳人厩舎)も復調気配だし、末脚が武器のサラキア(牝5歳、父ディープインパクト、栗東・池添学厩舎)も好調を維持している。

 出走する牝馬はこれら5頭。

牡はフィエールマン? 一発ありそうなのは…

 女たちの快進撃をストップさせるとしたら、クリストフ・ルメールが騎乗するフィエールマン(牡5歳、父ディープインパクト、美浦・手塚貴久厩舎)だろう。昨年は4着に終わったが、凱旋門賞(12着)からの帰国初戦で、状態が戻り切っていなかった。今年は天皇賞・春で連覇を達成し、前走の天皇賞・秋では、メンバー最速の上がり3ハロン32秒7の末脚でアーモンドアイに半馬身差まで迫った。スタミナだけではなく、切れ味も一級品であることを見せつけた。

 武豊のワールドプレミア(牡4歳、父ディープインパクト、栗東・友道康夫厩舎)も、3着だった昨年以上の状態で出てきそうだ。

 一発ありそうなのは、オーソリティ(牡3歳、父オルフェーヴル、美浦・木村哲也厩舎)とバビット(牡3歳、父ナカヤマフェスタ、栗東・浜田多実雄厩舎)の3歳馬2頭。

 オーソリティは、ダービーを上回る時計で青葉賞を制しながら、骨折のため春シーズンを休養にあてた。復帰戦のアルゼンチン共和国杯を快勝し、力を出せる状態にある。

 バビットは、前走の菊花賞では逃げることができず10着に大敗。1枠1番を引いたここでは、何がなんでもハナを切るのではないか。同じく逃げて好結果を出しているキセキが今回はクロス鼻革を付けて折り合い重視の戦術を取るようなので、単騎で行けるかもしれない。馬体も戻しているので、チャンスだ。

菊池寛の言葉も思い出しながら印をつけると

◎クロノジェネシス
○フィエールマン
▲バビット

 単穴(▲)はオーソリティにすべきか迷ったが、迷ったときは人気のないほうを選ぶという筆者のマイルールに従った。

「文壇の大御所」と呼ばれ、文藝春秋を創設した菊池寛の『我が馬券哲学』にもこうある。
「甲馬乙馬実力比敵し、しかも甲馬は人気九十点乙馬は人気六十点ならば、絶対に乙を買うべし」

「乙」がバビットである。

 特別な年のグランプリだけに、どんな結果が出ても、受け入れる準備をしておきたい。

文=島田明宏

photograph by JIJI PRESS