年末恒例の「NHK紅白歌合戦」を勝負を競う“競技的”観点から分析しました。今回はNHKによるメンバー選考に関する考察です。

 2020年の大晦日も『NHK紅白歌合戦』が放送される。すでに周知のとおり、新型コロナウイルスの感染拡大予防のため、今年は例年会場となるNHKホールには観客を入れずに行なわれる。放送の開始時間も、2011年より昨年まで午後7時15分からだったのが、15分繰り下げて7時30分からとなる。また、ステージも、NHKホールだけでなく、NHK放送センター内に複数設けられるという。

 今年はそうしたイレギュラーなところもあってか、例年になく出場者の調整がギリギリまで続けられた印象がある。放送の前週にいたっても、紅組に追加でYOASOBIの出場が決定する一方、初出場が決まっていた白組のSnow Manが、メンバーにコロナ感染者が出たため辞退した。結果的に出場者の数は、紅組・白組で計41組と、昨年より1組減った。

2015年「52組」→2019年「42組」

 じつは紅白歌合戦の出場歌手はここ数年、徐々に減っていた。転機となったのは2016年だ。前年の2015年には紅白両組で計52組出場していたのが、この年には46組にまで減った。

 その際、この年出場すれば40回目に達していた和田アキ子をはじめ、伍代夏子、藤あや子と20回以上の出場経験を持つ歌手が選に漏れている。また、細川たかしもやはり40回目となるはずだった出場を辞退。すでに前年をもって森進一が出場48回目で紅白からの卒業を発表、通算23回出場のSMAPもこの年、出場しないまま解散しており、ベテラン勢がごっそり消えた。

 これ以後も出場者が増えることはなく、2017年は46組で前年と同じ、2018年は44組、2019年は42組と減り続けてきた。もっとも、これはあくまで紅白両組での出場者数である。紅白対決とは別の枠で出場する歌手はむしろ増えつつあるのが、ここ数年のもう一つの傾向だ。

GReeeeN、ユーミン、さだまさし……「特別枠」の増加

 2017年には特別出演歌手として、翌年9月の引退を発表していた安室奈美恵と、朝ドラ『ひよっこ』の主題歌を歌った桑田佳祐が出場した。

 2018年は、椎名林檎と宮本浩次によるデュオ、サザンオールスターズの2組が特別企画として出場した。ほかにも企画コーナーでは、刀剣男士、Aqours、さらに北島三郎および彼の弟子の北山たけしと大江裕によるデュオ「北島兄弟」が歌唱している。なお、北島はすでに2013年に紅白を卒業しているので、この年の出演は出場回数にはカウントされていない。

 さらに昨年、2019年は特別企画での出場者が一挙に増え、9組が歌唱した。その顔ぶれはジャニーズJr.、おしりたんてい、AI美空ひばり、嵐、中元みずき・ダイアモンド☆ユカイ・中村倫也&木下晴香、YOSHIKI feat. KISS <YOSHIKISS>、ビートたけし、松任谷由実、竹内まりやとバラエティ豊かだった。このうち嵐は白組での出場とは別に東京五輪の関連企画で歌い、NHKの紅白公式サイトでは特別企画の枠でも1組に数えられている。

 2015年と2016〜19年は放送時間に変わりはないので、紅白での対決が減った分、特別企画にあてる時間が増えたことになる。歌唱だけでなく、2016年には映画『シン・ゴジラ』とのコラボレーションや、タモリとマツコ・デラックスがNHKホールの各所に出没しては寸劇のようなやりとりを繰り広げるといった企画が組まれた。

 今年も放送時間は短縮されたものの、GReeeeN、さだまさし、玉置浩二と、昨年に続き松任谷由実、YOSHIKIが特別企画で出場する。YOSHIKIは今年、ロサンゼルスから出演、QUEENのブライアン・メイとロジャー・テイラー、サラ・ブライトマンに紅白の出場歌手らも加わり、日本と欧米をつないでのコラボレーションを行なう。さらにスペシャルゲストで北島三郎も、歌唱はしないがリモートで登場。また、坂本冬美の出番では、彼女が今年歌う「ブッダのように私は死んだ」を提供した桑田佳祐もVTRで出演する予定だ。

2007年まで19回出場していたさだまさし。今年は特別枠で、13年ぶりの出場となる ©BUNGEISHUNJU 2018年まで3回出場していた松任谷由実。昨年、今年と特別枠での出場となる

「特別枠」は説得しやすい?

 特別企画での出場歌手が増えたのには、いくつか理由が考えられる。まず、紅白での対決に消極的な歌手の受け皿としての役割だ。紅組・白組で出演するとなるとたいがいは(中継先からの出演やよっぽどの大物でもないかぎり)自分の出番以外にも、ほかの歌手の応援や、出場歌手全員での企画にも出なくてはならない。しかし、特別出演なら、こうした求めに応じなくて済む。NHK側としても、その年の目玉として出てもらいたいアーティストには、この枠で依頼したほうが説得しやすいところがあるのだろう。

 これに加えて、視聴者の求めるものの変化もあるはずだ。近年の傾向として、音楽番組では、性差、また世代やジャンルの違いをも超えた、そのときどきでしか見られない歌手の組み合わせにニーズが高まっている。フジテレビの『FNS歌謡祭』が毎回、異色コラボで話題を呼んでいるのはその一例だ。NHKの音楽番組でも、かつての『歌謡コンサート』が、演歌・歌謡曲だけでなくポップスやミュージカルの歌手まで同じステージに立つ『うたコン』へとリニューアルしたのも、この流れに乗ったものといえる。

昨年に続き、特別枠で出場するYOSHIKI

 紅白歌合戦に対しても多くの視聴者が、紅組と白組の対決とは別に、「その年限り、その場限り」の組み合わせを見たがっている。そんなニーズに応えようとしたのが、ここ数年の紅白の変革なのではないだろうか。事実、紅白の特別出演でも、先にあげたようにコラボレーションが目立つ。2018年には、特別企画(事実上の大トリ)のサザンオールスターズのステージに、先に出演を終えた松任谷由実が飛び入りで参加するというサプライズで、平成最後の紅白を大いに盛り上げた。

今年の出場歌手、20回以上の「7組」とは?

 ただ、視聴者は一方で、紅白に毎回お決まりのものを求めていたりもする。石川さゆりが「天城越え」と「津軽海峡・冬景色」を2007年より毎年交互に歌っているのは、まさにそれに応えてだろう。

 2016年以降の出場歌手のうち、出場回数が通算20回以上となる歌手はほぼ7組に絞られたが、石川はその一人である。2016〜17年の出場歌手ではこのほか、五木ひろし、郷ひろみ、坂本冬美、TOKIO、天童よしみ、松田聖子(以上、出場回数順。石川の回数は五木に次ぐ)が該当した。2018年にはここからTOKIOが抜け、6組となったものの、翌2019年に氷川きよしが出場20回に達して再び7組になり、今年も顔ぶれに変わりはない。

 今年出場する歌手で20回達成までもっとも近いのは水森かおり(今年を含め18回出場)だが、あと2年かかるので、少なくとも来年はこの7組のままで行く可能性が高い。ただし、今年で出場50回に達し、歴代1位の北島三郎と並んだ五木ひろしの去就が気になるところではあるが。

今年で43回目の出場となる石川さゆり

ジャニーズ事務所内の“入れ替え”

 ジャニーズ事務所の常連出場組だったSMAP、TOKIOに続き、嵐も今年をもって活動を休止し、紅白を離れる。三本柱だった彼らと入れ替わるように、ジャニーズは2012年以降、2015年を除くすべての年に初出場のグループを送り出してきた。

 2012年に初出場したのは、今年も出場が決まっている関ジャニ∞だ。これに続き、翌2013年にはSexy Zoneが初出場を果たし、2018年まで6年連続で出場する。2014年と2016年にはV6、KinKi Kidsと、ベテラン勢が満を持して登場。KinKiは現時点でこの年のみだが、V6は2016年まで3年続けて出場した。2017年以降の各年は、Hey! Say! JUMP、King & Prince、Kis-My-Ft2と来て、今年はSixTONESとSnow Manの2組が初出場を決めた。残念ながらSnow Manは先述のとおり出場を辞退したとはいえ、それでもジャニーズから6組が出る。

2020年12月31日をもって活動休止予定する嵐。今年で12回目の出場 ©BUNGEISHUNJU

aiko(14)、AKB48(12)、いきものがかり(11)……15回が難しい

 ジャニーズが続々と新たなグループを送り出してきたのは、ちょうど紅組でも、AKB48とその姉妹グループ、さらに乃木坂46をはじめとする坂道シリーズの各グループが、やはり毎年のように初出場を決めていた時期と重なる。これを、紅白による対決を一層盛り上げるための両軍のせめぎ合いと見ると面白い。

 なお、紅白の初出場歌手数は少なくともここ数年、毎年だいたい10組ほど(今年は8組)で推移してきた。全体的に出場歌手数が減るなかで、20回以上出場組と初出場組の数が毎年ほぼ変わらないということは、それ以外の歌手のあいだで椅子取りゲームが繰り広げられているということでもある。その熾烈さは、出場数が10〜19回の歌手が意外と少ないことからもうかがえる。

 今年の出場歌手でいえば、18回の水森かおりを筆頭に、13回の福山雅治とPerfume、12回の嵐、11回のゆずの5組がこの層に該当する。一方で、昨年まで通算14回出場のaiko、12回のAKB48、11回のいきものがかりは選から漏れた。また、2018年にはEXILEが3年ぶり12回目の出場を果たしたが、翌年以降出ていない。ここに挙げた歌手の出場数を見ると、どうやら15回選ばれるまでがなかなか難しいらしい。

AKB48は2019年まで12回出場していたが今年は落選(写真は2018年出場時のもの) ©BUNGEISHUNJU 2018年に3年ぶり12回目の出場をしてから、出ていないEXILE ©JMPA

 ここまで見てきたとおり、紅白歌合戦では2016年以降、企画が増え、お祭り的な傾向が濃くなっていった。これにともない出場枠が減ったとなると、たとえ今後、かつて常連だった和田アキ子などのベテラン歌手にカムバックの可能性があるとしても、特別企画の枠しか残されていないのかもしれない。

 それにしても、民放各局もこぞって大型音楽番組を放送するなかにあって、誰が出演するかしないかがこれほど注目される番組は、いまだに紅白歌合戦しかない。紅白は視聴者にとっても、歌手にとっても当分はまだ特別な存在であり続けそうだ。

文=近藤正高

photograph by BUNGEISHUNJU