年末恒例の「NHK紅白歌合戦」を勝負を競う“競技的”観点から考察しました。今回は「ヒットチャート」から見た紅白両チームの戦力分析です。

「NHK紅白歌合戦」が今夜放送されます。

 毎年出場歌手の発表はSNSを中心に話題になりますが、音楽チャートを分析してきた筆者が出場歌手の選考基準や今年の初出場歌手、チャートで見る「白組と紅組のどちらが強いか」など、今年の紅白歌合戦を楽しむための「3つのポイント」をご紹介します。

その1)紅白歌合戦の出場歌手は「何が基準」なのか?

 実は、出場歌手の選考基準は公式サイトでも紹介されている以下の3つがあります。

(1)今年の活躍

(2)世論の支持

(3)番組の企画・演出

※「第71回NHK紅白歌合戦」公式サイト 選考についてより(https://www.nhk.or.jp/kouhaku/artist/description.html)

(1)「今年の活躍」の参考資料は、CDセールスのみならず、ダウンロードやストリーミング(サブスクリプション(定額制音楽配信サービス)、動画再生回数、SNSやカラオケ等の調査が挙げられていますが、この選考基準では、複合指標に基づくビルボードジャパンHot 100(ソングチャート)をNHKが参照していると考えられます。

 例えば、昨年にOfficial髭男dism(「Pretender」は2019年度の年間ソングチャート3位)、King Gnu(「白日」は同4位)、菅田将暉さん(「まちがいさがし」は同6位)およびLiSAさん(「紅蓮華」は同26位)などが初出場を果たしたことからも明らかです。特に、「白日」「まちがいさがし」はシングルCD未発売での出場の一方で、CDセールス1位を獲得しながら年間ソングチャートで93位にとどまったAKB48(「失恋、ありがとう」)が今年落選したことは話題となりました。

アニメ『鬼滅の刃』のOP曲として話題となったLiSAの紅蓮華(CDジャケットより)

 この落選からも、CDセールスに頼らないヒットチャート(ビルボードジャパンソングチャート)こそ、今の社会的ヒットを示す鑑と言えるでしょう。

その2)「2020年初出場歌手」をチャートで分析してみたら……

 出場歌手選定の1つの基準となっているであろう、ビルボードジャパンの年間チャート(http://www.billboard-japan.com/special/detail/3039)。このチャートから「2020年の初出場歌手」を見てみましょう。

 今年の初出場は、特別企画枠のGReeeeNを含めて10組(12月25日現在)。そのうち、昨年ベストアルバムがヒットした椎名林檎さんは東京事変として、今年ベストアルバムをリリースした欅坂46は櫻坂46に改名して初出場を果たします。

 紅組初出場組でビルボードジャパン年間ソングチャート最上位は、NiziUでした。

 動画配信サービス・Hulu発のオーディション番組『Nizi Project』から生まれた9人組グローバル・ガールズグループは幅広い年齢層の支持を集め、プレデビューとなるミニアルバム『Make you happy』は週間アルバムダウンロード数、表題曲は週間ストリーミング再生回数で共に新記録(当時)を樹立。「Make you happy」はビルボードジャパン年間ソングチャート12位を記録し、今月CDリリースされた「Step and a step」では初めて週間ソングチャートを制しています。

大型オーデション番組「Nizi project」から誕生した9人組ガールズグループ・NiziU(公式サイトより)

 白組では、瑛人「香水」が今年を象徴するヒットに。新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言発令で多くのCDが発売延期や中止となり、CDショップも営業自粛するなか、配信代行サービスを活用してデジタルリリースされた「香水」は自粛期間にユーザーが増えたTikTokで人気となり、サブスクの増加につながったことでビルボードジャパンソングチャートを制覇。レコード会社および芸能事務所に所属しない歌手(当時)がチャートを制するという快挙を達成しました。

 その後、お笑い芸人・チョコレートプラネットによるミュージックビデオの再現や数々の歌ってみた等動画投稿により人気が持続し、最終的に年間ソングチャート6位に。配信代行サービスの存在、TikTokやサブスクの影響力、関連動画の後押し等、今の音楽業界における新しいヒットの形を示した好例と言えます。

初出場の瑛人は、印象的な歌詞で2020年のヒット曲となった「香水」を披露する(CDジャケットより)

「夜に駆ける」YOASOBIが遂にテレビ初歌唱

 ビルボードジャパン年間ソングチャートで複数年上位を占める曲も多いなか、2020年度は集計期間内にリリースされたYOASOBI「夜に駆ける」が首位を獲得しました。そして、出場歌手発表から1カ月以上経過した今月23日、ついに紅組での出場がアナウンスされました。

 実は個人的には、YOASOBIの出場がなんらかの形で決まるだろうと予想していました(https://face.hateblo.jp/entry/2020/11/18/073023)。というのも、紅白出場に意欲的な発言をしてきたYOASOBIが、最初の出場歌手発表以降、Twitterで一度として落選に言及してきませんでした。ファンとのエンゲージメントを人一倍大切にする彼らにとっては不自然であり、落選しましたと言えなかったのは既に出場が決まっていたからではないかと、想像します。

 ちなみに、2年前に初出場を果たした米津玄師さんも、年間ソングチャートを制した「Lemon」の紅白披露は、しばらく経ってから追加発表されました。テレビでの初歌唱という点でも共通しています。

YOASOBIは紅組として紅白初出場が決定。「夜に駆ける」を披露する ©BUGEISHUNJU

チャートでは上位を記録するも、落選したDISH//

 今回の落選を特に勿体なく感じるのが、俳優としても活躍する北村匠海さんがボーカルを務める4人組ダンスロックバンド・DISH//です。「猫」は2017年に人気シンガーソングライター・あいみょんさんから提供された曲でしたが、一発録りをコンセプトとするYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で今年ブレイク。ビルボードジャパン年間ソングチャートにおいて「猫〜THE FIRST TAKE ver.〜」は28位、オリジナルは27位を記録し、「炎」や「夜に駆ける」共々チャンネルの認知度上昇にも大きく貢献しました。

 企画的にも、「THE FIRST TAKE」コーナーを設け、曲を提供したあいみょんさんと共演するなどが期待できただけに、落選は残念でした。

 ただ、出場歌手が万一新型コロナウイルスに感染して辞退し、番組側が代役を用意するならば、真っ先に呼ばれるべき候補はこのDISH//でしょう。もっとも、感染者が出ないことを願うばかりですが、過去には代役が用意されたケースが少なくありません。

その3)白組と紅組…チャート的にはどっちが強いのか?

 昨年までの通算成績は、紅組の31勝に対し白組は39勝。白組が前人未到の6連勝を果たすきっかけとなった2005年(第56回)以降では紅組の3勝に対し白組の12勝と大差が生じています。

 この背景には、視聴者票のウェイトが大きくなったことで、出場歌手に思い入れの強いコアなファンが多いほど白組が勝利しやすい構図が生まれていることが挙げられます。紅組もアイドルグループが複数出場しますが、男性アイドルを応援するコアなファンの熱量がより大きいことと、嵐が活動休止前の最後の出演となるため、白組有利は固いでしょう。

 では、チャートで見てみるとどうでしょうか。

年間ソングチャートはそこまで高くないジャニーズ勢

 今年も白組の優勝に向けて大きく貢献するであろう、ジャニーズ事務所所属は、今年CDデビューしたSixTONESが初出場を決めています(ただし同時デビューのSnow Manはメンバーの新型コロナウイルス感染により出場を辞退しました)。

 互いの作品にもう1組のデビュー曲を収録する手法が功を奏し、2組のCDを合算でカウントしたオリコンや日本レコード協会は初週ミリオンと認定しました。一方、楽曲の成績を示すビルボードジャパンは別々に集計していますが、SixTONES「Imitation Rain」は年間ソングチャートで19位を記録し、こちらでも好成績を収めています(もう一組のSnow Man「D.D.」は同15位)。ただ、SixTONESが“ジャニーズをデジタルに放つ新世代。”と謳いながらダウンロードやサブスクを未だ解禁していないため、先述した「香水」や「夜に駆ける」等との認知度の差は大きいでしょう。

 一例として、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)で先月紹介された“みんなが選ぶ今年の1曲ランキング”においては「Imitation Rain」「D.D.」共にトップ10入りしていません(一方でこのランキングでは「香水」が2位、「夜に駆ける」が4位を記録。また10位に「猫」が入っています)。

SixTONESのデビューシングルは、X JAPANのYOSHIKIが提供したことでも話題になった(CDジャケットより)

 嵐は昨年秋にデジタルを解禁していますが、シングル曲「カイト」は4カ月以上デジタル解禁が遅れたこともあり、ビルボードジャパン年間ソングスチャートでは38位と高くありません。他の所属歌手のほとんどがデジタル解禁しておらず、YouTubeにおけるミュージックビデオは解禁されたとしてもフルバージョンより再生回数が落ち込むショートバージョンが大半で、ジャニーズ事務所所属歌手における年間ソングスチャートの順位はCDセールスの順位ほど高くありません。それでも彼らがデジタル未解禁を続ける理由はCDリリース優先、販売(購入)がコアなファンとの最たる結び付きと捉えているゆえでしょう。

チャート的には紅組が有利?

 ビルボードジャパンソングチャートにおいて、ロングヒットや年間チャートでの上位進出に大きな影響を及ぼすのがストリーミングや動画再生といった接触指標群であり、他方シングルCDセールスのみが突出した曲は上位進出した翌週に急落する傾向があるのですが、多くの歌手が後者にあたるジャニーズ事務所所属歌手が今年の紅白に6組出場し、白組のおよそ3割を占めています。

 一方で、今年の披露曲におけるビルボードジャパン年間ソングチャートの順位をみると、アニメ『鬼滅の刃』紅白SPメドレーを披露するLiSAさんが「紅蓮華」(3位)、「炎」(9位)の2曲を披露すると仮定すれば、年間20位以内に入った曲を披露する歌手は紅組が4組、白組が3組(ここまで記載した以外では、Official髭男dism「I LOVE...」が4位、あいみょん「裸の心」が10位にランクイン)。

 以上を踏まえると、チャート的には「紅組が有利」と言えます。

例年以上に「今年のヒット曲」が集まった2020年の紅白

 例年の紅白は定番曲の披露も多い一方、出場歌手を複合指標によるビルボードジャパンソングチャートを基に選ぶ傾向が強まったことで、たとえ曲名等を知らなくとも多くの方が耳にした今年のヒット曲が多数披露されます。

 今年のヒット曲を知る意味でも、ぜひチェックしてほしいところです。

文=Kei

photograph by Sankei Shimbun/BUNGEISHUNJU