サンロッカーズ渋谷が5年ぶりに天皇杯を制覇したのが2020年1月12日。あの歓喜の瞬間から早1年が経とうとしている。

 その後のBリーグ2019-20シーズンは27勝14敗でフィニッシュ。コロナ禍がなければワイルドカードでチャンピオンシップに進んでいたはずだったが、強豪ひしめく東地区では4位という順位に終わった。天皇杯以降の成績は8勝5敗。わずかとはいえ勝率を落としたことを考えると、天皇杯制覇の勢いをリーグ戦に結びつけたとは言い難い。

 そんなSR渋谷だが、今シーズンは中盤戦に差しかかって調子を上げてきている。開幕3連敗を喫するなど10月は4勝6敗だったが、11月は4勝1敗と盛り返し、12月に入ると5連勝。その後の第96回天皇杯2次ラウンドもB3東京エクセレンスを退け、15日間で7試合というハードスケジュールを6勝1敗で乗り切った。

伊佐勉HCが心がけている「タイムシェア」とは?

 SR渋谷の大きな特徴といえばディフェンス。ファウルの多さという課題があり、それゆえに失点も少なくはないのだが、それはディフェンスのハードさの裏返しでもある。

 そして、そのハードなディフェンスを実行する上で伊佐勉ヘッドコーチが心がけているのがタイムシェアだ。選手個々のプレータイムをコントロールし、できるだけフレッシュな状態でプレーさせることでディフェンスの強度を維持しようというもの。伊佐HCはリーグ内でも特にそれを重視するコーチで、コートの5人を一度に全員入れ替えることも多々ある。

 その恩恵を受けているのが、自身の地元であるレバンガ北海道と契約更新できず、昨シーズン移籍してきた野口大介だ。

 196cmというサイズを持つ野口は、移籍1年目の昨シーズンも外国籍選手の控えという貴重な役割を担い、天皇杯優勝に貢献。今シーズンは外国籍選手が3人ベンチ入りした上で、そのうちの2人が常にコートに立つことができるレギュレーションになり、サイズのある日本人選手の出場機会が大きく減りかねない状況になってしまったが、それでも野口は1試合あたり10分前後のプレータイムを確保し、変わらずチームに貢献している。伊佐HCが標榜するチームスタイルが野口を必要とし、野口自身もそれによって輝きを取り戻したということが言えるだろう。

“脇役”の確かな存在感がSR渋谷を押し上げる要因

「伊佐さんのスタイルは全員バスケ。短い時間でも集中して自分のパフォーマンスを発揮できるスタイルで、自分もそのローテーションに入ることができている。生かしてもらっていると感じますし、僕自身も伊佐さんのスタイルに馴染むように努力していて、バスケが楽しいなと思えます。

 北海道から出されて悔しい気持ちもあったんですが、上位に食い込んでいけるチームに巡り会えて、この歳で選手寿命が延びた、まだまだできると思わせてくれています」

 野口に限らず、ベンチスタートやプレータイムのさほど長くない選手が役割と一定のプレータイムを与えられてフルにパフォーマンスを発揮するのが、伊佐HCのタイムシェア戦略の狙いであり、SR渋谷の最大の特徴。

 ポイントガード用のディフェンダーとしてスターター起用されている関野剛平に関しては「まず彼がディフェンスのトーンをセットしてくれる」と全幅の信頼を寄せ、ジェームズ・マイケル・マカドゥについても「いろんなタイプの選手をディフェンスできますし、バスケIQが高いのでいろんな要求ができる。彼がベンチにいることで僕自身も落ち着いた試合運びができている」と高く評価。“脇役”の確かな存在感がSR渋谷を押し上げる要因になっていることは間違いない。

伊佐HCが体調不良で欠場しても……

 ある意味でそれが最も強く表れたのが、12月5日・6日に行われた新潟アルビレックスBB戦だ。この2試合では、伊佐HCが体調不良で欠場するという思わぬ事態が発生。5日の試合開始1時間ほど前に浜中謙アシスタントコーチの代行指揮が決まるという、動揺を招きかねない状況下で試合に臨むこととなった。

 しかしながら、チームの大黒柱であるベンドラメ礼生によれば「開幕前から、今シーズンはこういうことも起こり得ると想定していた」らしく、伊佐HCは不測の事態に備えて練習試合などでは他のコーチ陣に指揮を任せていたそうだ。ベンドラメ自身も「コーチ陣も選手もしっかり準備してきたんだから、自分たちのバスケットをするだけだとみんなに言いました」と落ち着いて試合に入ることができたと言う。

天皇杯の3次ラウンドでアルバルク東京と

 そして浜中ACも見事に重責を全うし、チームに連勝をもたらした。

 本人は「この結果は組織としての強さ。選手、コーチ陣、サポートスタッフの総合力で、普段は起こり得ない状況に立ち向かっていったことが嬉しいです」と謙遜するが、「伊佐から『好きなようにやっていいよ』という肩の荷が下りるような言葉がけをいただいて、サンロッカーズの良さを残しつつ、型にはまらずに指揮できた」と柔軟に采配を振るえたという感触もあったようだ。

 いずれにせよ、指揮官不在の難局を乗り切ったことは、“脇役”の存在が不可欠であることを改めて証明する格好となった。

 冒頭で触れたように、SR渋谷は昨年1月12日に天皇杯優勝を果たした。それから367日後の2021年1月13日には、連覇をかけて天皇杯の3次ラウンドに臨む。相手はアルバルク東京。Bリーグで連覇を達成している“王者”であり、SR渋谷にとってはなかなか勝つことができていない難敵だ。

第2戦は104失点を喫して敗れた

 そのA東京との今シーズン初対戦が、天皇杯に先駆けて12月12日・13日にあった。結果は1勝1敗。第1戦は接戦の末に2点差で勝ち切ることができたものの、第2戦は104失点を喫して敗れた。

 千葉ジェッツから移籍して2年目の石井講祐は、かつて2度も目の前でリーグ制覇を許した相手とあってこの結果に悔しさをにじませているかと思いきや、その心中にあったのはA東京への対抗意識や個人5連覇がかかる天皇杯への想いではなく、自分たちの成長だった。

「簡単に連勝させてくれない相手で、そこを超えていかないと本当の強さを手に入れられない。1月の対戦までに、1つ1つの試合を通してタフなチームに成長していければと思います。天皇杯のことは意識せず、まずは週ごとにその時の対戦相手に集中しています」

大事なのは自信を失わないこと

 石井がチームの成長過程にフォーカスするのは、自身も千葉で天皇杯3連覇や2シーズン連続リーグ準優勝といった結果を残してきた経験からくるものだ。千葉がリーグ屈指の強豪へと進化を遂げる道のりをその一員として歩んできた石井は、今のSR渋谷にもその道のりに通じるものを感じている。

「必要なステップを着実に踏んで、出た課題をみんなで話し合い、言語化して認識するという作業を繰り返しています。A東京に1つ勝てればいいというのではなく連勝しようというメンタルで臨むこともできていて、そういう意識が上がってきているのは強いチームになる上で良い傾向だと思います。

 大事なのは自信を失わないこと。自分たちを信じて、スタイルを築き上げていくマインドができてきた。千葉とは違うチームなので全く同じというわけではないんですが、そういう必要な過程は踏んできていると思います」

「誰でも準備をすればチャンスをもらえるので」

 チーム在籍歴が最も長い広瀬健太も、今のSR渋谷には良い雰囲気が生まれているという実感がある。そしてそれは、SR渋谷の基盤として伊佐HCが実践するタイムシェア戦略にも起因している。

「外国籍選手も日本人選手もバスケットボールに真摯に取り組む選手が多いですし、コート外でもオフコートキャプテンの山内(盛久)を中心に、今はみんなで食事に行くことも難しいですが、限られた中でもコミュニケーションを図ろうとしていて、雰囲気はすごく良いと思います。

 天皇杯優勝とか、そういう成績面の影響ももちろんありますが、誰でも準備をすればチャンスをもらえるのでポジティブに取り組める。ミスがあっても挽回できるチャンスがあるので、タイムシェアをすることで良い影響が出ているのかなと思います」

「結−FIGHT AS ONE−」のスローガンの下、戦う集団となった2020年。上昇ムードで新たな年を迎え、その始まりにA東京を撃破して天皇杯連覇への道を歩み続けることができるか。

文=吉川哲彦

photograph by B.LEAGUE