雑誌「Sports Graphic Number」と「NumberWeb」に掲載された記事のなかから、トップアスリートや指導者たちの「名言」を紹介します。今回は2021年元日、天皇杯決勝で現役引退する川崎フロンターレ、中村憲剛の5つの名言です。

<名言1>
たまに、練習でできないようなことが試合でできたりするから、ビックリするんですよ。
(中村憲剛/Number667号 2006年11月30日発売)

◇解説◇
 フロンターレがJ1上位争いを繰り広げ始め、中村自身もオシムジャパンの常連になり始めたた、2006年の言葉。「できないことを練習して、少しずつでも自分のレベルを上げる。これからもそれを続けていくだけですね。いつも、もっとうまくなりてぇなぁ、って思ってますから」という発言に続いて、名言を残した。

「スタジアムの雰囲気とか、真剣勝負のテンションがなせる業、なのかな。だから、サッカーはおもしろい。やめられないですね」とも語っていた。本番で力を発揮できるタイプ、でもあったのだ。

<名言2>
これまで自分がやってきたことが、走馬灯のように駆け巡って……。
(中村憲剛/Number941号 2017年12月6日発売)

◇解説◇
 川崎フロンターレひと筋15年目にして初の優勝を手にした中村憲剛は、試合終了を告げるホイッスルが鳴った瞬間、ピッチにうずくまってしばらく立ち上がることができなかった。

 試合中は冷静沈着な憲剛が、あれほどまでに感情をコントロールしきれなかったことはサポーターも記憶にないはず。栄光とはかくも重いものなのだ。

<名言3>
一人ひとりが自分の“勝ち筋”を変えていける。
(中村憲剛/Number1004号 2020年6月4日発売)

◇解説◇
遠藤保仁とのリモート対談でそれぞれが思うJリーグ最強クラブを語った際、憲剛が口にした興味深い“鹿島アントラーズ論”だ。2007〜2009年に3連覇を果たした鹿島に対して、若き憲剛らが立ち向かった川崎はあと一歩及ばず――という構図だった。

 憲剛は「ガンバはビンタの張り合いに応じてくれるけど、アントラーズにはビンタを張ろうとしたその隙をサクッとやられちゃう」とたとえた。これに対して遠藤も「個もあるし、セットプレーもあるし、厄介なチームという表現が合うのかも」。

 試合巧者ぶりを肌感覚で味わったからこその言葉だ。しかし――ここ数年のフロンターレは“シルバーコレクター”と揶揄された頃のようなひ弱さが消え去った。憲剛もまた“勝ち筋”を覚えていった名手なのだ。

<名言4>
個を極めるって、天井がない。無限なんですよ。
(中村憲剛/Number971号 2019年1月31日発売)

◇解説◇
 J1を連覇したフロンターレといえば、小気味いいパスで崩すスタイルが真骨頂だ。憲剛はその頭脳であり続けた。

「毎日、1本のパスにどれだけ集中して力を注げるか。よりうまくパスを通すにはどうするか。周りがミスなくパスを通すには、自分がどこに、どう動けばいいのか。それを常に頭の中でフル回転させながらやってきましたね」

 その技術は日々の積み重ねあってこそだと語る。「今日よりも明日上手くなりたい」、そして目指すは「仙人」の境地だと語っていた憲剛は、まさにサッカーの本質を突き詰め続けたのだ。

<名言5>
いまが「中村史上最高」ですよ。
(中村憲剛/Number967号 2018年12月29日発売)

◇解説◇
現役生活16年、年齢は38歳となった2018年末の言葉。あだ名は「長老」だが、ここ数年、自身の調子を問われると、このセリフを繰り返してきた。

 実際に2016年に自身初となるJリーグMVPを獲得。17年には司令塔としてクラブを初の優勝に導き、2018年も連覇に貢献した。19年はルヴァン杯を初制覇、20年はJ1の覇権奪回。そしてラストマッチではガンバ大阪との天皇杯決勝に臨むというのだから、漫画で描いたようなエンディングである。

 衰え知らずどころか、年々パワーアップしてきた憲剛。加入時は無名だった背番号14が、川崎の街に愛されるバンディエラに――まさにJリーグの理想を体現したような、偉大な選手だった。

文=NumberWeb編集部

photograph by Asami Enomoto