トライアウトや契約更改の悲喜こもごも、「ベストナイン」や「ゴールデン・グラブ賞」などの発表で2020年のプロ野球ストーブリーグも盛り上がった。2021年のシーズンに向けて、ドラフト指名された新人選手やの予習をしなきゃ……と思っていたところに、最強助っ人からの興味深い提案が。
「クロマティのプロ野球アウォーズ、やりませんか?」
あまりに唐突すぎて面食らったが……クロマティとは、あのウォーレン・クロマティだ。1980年代〜90年代初頭にかけて原辰徳らとともにクリーンアップの一角を務め、1989年には.378のハイアベレージで首位打者にも輝いた"ジャイアンツ最強助っ人"である。

そういえばここ1年、何かとクロマティの話題を目にした。2019年のシーズン途中から巨人の練習に現れると、2020年には「アドバイザー」なる役割を与えられたとのこと。その中で二冠王に輝いた岡本和真の打撃を覚醒させたとの報道もあり、指導力は確かなのかもしれない。
そんなクロマティ、2020年6月にYouTube『クロマティチャンネル』を開設している。ならばコラボイベントとして、クロマティがガチで評価する日本人プレーヤーを聞けるのならば面白いのでは――ということで撮影現場へと直撃取材した。
クロマティが考える各ポジションでの「No.1」は誰か、自分が監督ならどの選手を使い、どんなチームを作りたいのか。大いに語ってもらおう。
通訳さんを通してお聞きするんですが……
――ということでクロマティさん、よろしくお願いします。通訳さんを通してお聞きする形ですが。
クロマティ:ニホンゴ、スコシOKネ。Let's Go! よろしくお願いします。
――えーと……ちょいちょい混じる本人の日本語はカタカナ、通訳さんの日本語訳は普通に表現させてもらいますね。まずは投手からいきましょう。それぞれ先発とリリーフを選んでもらいます。
クロマティ:スターティングピッチャー、ナヤンダ。センガサン(千賀滉大/ソフトバンク)、スガノサン(菅野智之/巨人)。デモ、オオノサン(大野雄大/中日)。

一戦必勝の試合を勝ちに行くなら大野だ
――大野投手、どの点を一番評価しましたか?
クロマティ:大野は9イニング完投できるスタミナがあるし、完投数も菅野、千賀よりも多い。なおかつ球数がそこまで多くないのに、三振もしっかり奪えるからね。終盤になっても対応できる能力も持っているから、監督としてはブルペンのことを凄く考えやすくなるはず。例えば日本シリーズ、ワールドシリーズ、WBCなど一戦必勝の試合を勝ちに行くなら、私は大野を起用するよ。……でも千賀も外せないな。先発だけ2人にしちゃダメかな?
――い、いきなりですか(笑)。
クロマティ:今年の沢村賞投手であることに敬意を示して、大野にするよ。
モイネロほど速いボールを投げる左腕はセにいない
――続いてリリーフについてもお伺いします。
クロマティ:4人の選手をピックアップした。R.マルティネス(中日)、モイネロ(ソフトバンク)、デラロサ(巨人)、平良(海馬/西武)だ。なかでもマルティネスは今年物凄く良かった。2本しかホームランを打たれていないからね。そのうちの1本は私の仲良し、ウィーラー(巨人)が打ったんだよ(笑)。ただ被本塁打が凄く少ないのは抑えにとって特に大事なポイントだよ。
――では、マルティネスにします?
クロマティ:ベストを選ぶならば……モイネロかな。日本シリーズがまさにそうだったが、モイネロほど速いボールを投げるサウスポーはセ・リーグにいないタイプだ。また、すべての投手に言えることだが、リリーフはピンチに登板するケースが多い。そこでパニックにならず、平常心で臨むことが大事だ。ペナントレースを見ていても、モイネロはそれができていた印象だ。

左右関係なく抑えられるから、私としてはクローザーでいいのでは――と思うが、モイネロはイニングまたぎもできる。だからこそ、工藤(公康)監督はあえてセットアッパーに使ったんじゃないかな。
――なるほど。ちなみにクロマティさんが現役時代、印象に残っている投手……
クロマティ:エガワ(江川卓)!

――通訳ありなのに、かぶせ気味に来ましたね。
クロマティ:今までで最高で、一番好きなピッチャーだ。スゴイトモダチ。アイラブ、スグル!
――江川さんへの愛が凄いことが分かったところで(笑)、捕手に移りましょう。
クロマティ:カイサン(甲斐拓也/ソフトバンク)、No.1!
――こちらは即決ですね。

甲斐はリーダーシップと捕球能力を評価したい
クロマティ:甲斐はどのキャッチャーよりも優れている。「自分が扇の要だ」という気持ちや準備がしっかりしてて、強いリーダーシップを持っているし、アーム(強肩)もあるからね。あと、ボールを決して後ろに逸らさない。これは日本でも大リーグでも重要視される部分だ。
そしてピッチャーのよい所を引き出すコミュニケーションを常に行ない、信頼関係を作っている。日本シリーズで実際に見て、そのトレーニングぶりはドリルのようだ。彼自身が育成契約から上がってきて、トップまで上り詰めた点についてもリスペクトしているよ。
村上、ゆくゆくは三冠王を狙えるよ
――続いて内野手です。まずは一塁手から。
クロマティ:ムラカミサン(村上宗隆/ヤクルト)! ニジュッサイ、ヤング!

――高卒3年目にしての3割超え、28本塁打とさらに成長した印象です。
クロマティ:アオキサン(青木宣親)、イタカラネ。青木はメジャーリーグでやった経験があって、なおかつ同じ左打者だから、色々と教えてもらったんだろう。でも私も村上と話したから、私のアドバイスも効いているはずだ(笑)。今の時点で若手No.1パワーヒッターは岡本(和真/巨人)で、村上はその次だが、村上はさらに若いし、技術を習得するのも早い印象だ。三振を減らすことが必要だけど、ゆくゆくは三冠王も狙えるんじゃないかな。
――将来の三冠王候補! 村上選手を高評価してるんですね。では続いて二塁手です。
クロマティ:ムズカシイ……キクチサン(菊池涼介/広島)、アサムラサン(浅村栄斗/楽天)、ヤマダサン(山田哲人/ヤクルト)。ムズカシイ……。
――……相当悩んでいるので、二塁手については最後にもう一度聞きますね。三塁手はどうでしょうか。
三遊間は岡本・坂本を大絶賛
クロマティ:オカモトサン! さっきも話した通り、素晴らしいパワーヒッターだ。私が打撃を教えてあげたしね(笑)。岡本の場合はファースト、レフトもできるけれど、サードの守備でも足をしっかりと使えて動けているよね。みんなあまり触れていないけど、私はそこも評価しているよ。No.2は松田(宣浩/ソフトバンク)。リーダーシップがあってガッツあふれるし、守備でも打球に対していつも最高の準備をしている。

――内野手、最後は遊撃手です。
クロマティ:サカモトサン(坂本勇人/巨人)。守備については難しいこともできるけど、プレー自体がシンプルかつ安定しているんだ。いわゆる“1歩目”がとてもよくて、ボールに対する反応も凄くいい。そしてバッティングも素晴らしい。私から見ると、彼はプルヒッターではなく、ライト、センターと広いレンジで打球を飛ばせる打者だ。攻守ともに日本のショートとして求められるものを一番多く持っているよ。ただ日本球界のショートストップについて、少し気になることがある。
――え、なんでしょう?
クロマティ:坂本に対抗できるような、守備も打撃もいいバランスの取れたショートストップが、なぜ出てこないんだ? 私が現役の頃にいた石毛(宏典/西武など)のような、リーグを代表する花形のショートがもっと出てくればいいのだが。
――クロマティさん流のボヤき、ショートを守る選手への激励となってほしいです……。最後に外野手です。
クロマティ:ヤナギタサン(柳田悠岐/ソフトバンク)、クレイジースイング!

――柳田選手への評価が何となくわかりました(笑)。
クロマティ:レフトは青木、センターは柳田だ。青木は村上のところで触れたようにベテランとしての経験があるし、左右のピッチャー関係なく打てる。リーダーシップもあるから、調子が悪かったとしても絶対に必要な選手だ。

そして柳田は2020シーズン全体でNo.1の選手と言っていいだろう。ただあのスイングだと、メジャーだと難しいのかな。アジャストできるかどうか……。
セイヤサンに1つだけ課題があるとすれば
――では、ライトは?
クロマティ:セイヤサン(鈴木誠也/広島)。

――YouTubeなどを拝見すると、鈴木誠也選手を高く評価していますよね。
クロマティ:実は鈴木とも、話をすることがあるんだ。私の実績をリスペクトしてくれているようだ。彼は本当のファイブツールプレーヤーだね。ただ1つ課題があるとすれば、時々守備で打球の落下点にしっかりと入りきれていないこと。ただそれは守備力がもっと向上できるという伸びしろでもある。そこが改善できれば物凄い選手になるはずだ。
DH、ユーティリティーも重要視する
――実力を買っているからこその熱いエールですね。ここまでは主に先発メンバーを選んでいきましたが、クロマティさんはダイヤモンドにいる"9人以外"にも注目されているとか。
クロマティ:そう。私は常に「ベンチにいる選手こそ重要だ」と思っている。DHはもちろん、様々な起用法に対応できるユーティリティーの選手、もちろんピンチランナーなどもね……じゃあ選んでいこうか。まずはDHだ。右はグラシアル(ソフトバンク)&左にマツヤマ(松山竜平/広島)。二人ともクラッチヒッターだからね。ユーティリティー、ウィーラー!


ウィーラーに対して教えたこととは
――ウィーラー、大好きですよね。YouTube見たらゲストに呼んで対談してますし(笑)。
クロマティ:モチロン。彼は6年日本でやってきたけど、1対1でコーチと練習したことがなかったそうだ。だけどジャイアンツに加入して、私と初めてそういう練習ができるようになったんだ。彼に教えたのは技術面のことだけでない。ジャイアンツは選手層が厚くて、スタメンで使われる保証がない。その際にどういう心構えでベンチにいるべきか、どう平常心を保つかメンタル面についても話をしたんだよ。

――ウィーラーはムードメーカーの印象が強いですが、クロマティさんの指導も生きていたんですね。続いて、足のスペシャリストとして代走も選んでもらえると。
クロマティ:シュートーサン(周東佑京/ソフトバンク)!

――金子侑司選手(西武)、増田大輝選手(巨人)も挙げてもらいましたが、やはりあの俊足は魅力ですか。
クロマティ:間違いない。ただし周東はセカンド、ショートに入っているけど、ちょっとエラーが多かった印象がある。若い選手だからこそ、成長して代走にとどまらない活躍をしてほしい。
――各ポジションのサブ選手も選んでいただいたのですが、ちょっと意外なのは陽岱鋼選手(巨人)です。2020年(ケガなどもあり38試合出場にとどまる)を踏まえると……。

クロマティ:ジャイアンツに来てからは出場機会が多いとは言えないが、私は彼が日本で一番守備力があると思っているんだ。彼の能力と成績は矛盾している。毎試合コンスタントにプレーできるといいんだが。
浅村は「エブリデイ、グッドガッツ」
――ううむ、興味深いです。では最後に、保留となっていたセカンドのNo.1選手を……。
クロマティ:……浅村にしよう。セカンドでしっかりと守備をこなしながら、32本塁打104打点というパワーは凄い。エブリデイ、グッドガッツ。

――エブリデイ、グッドガッツ???
クロマティ:休まず、毎試合出場する頑丈さも評価したいということだ(浅村は全120試合出場)。あと山田は今年こそ調子が悪かったけど、大好きだよ。守備もいいし、走力もスイングスピードも速い。ただ控えのセカンドを選ぶなら……菊池だ。今まで日本で見てきた中で、守備ではNo.1の二塁手で、大リーグでもあの守備ならピカイチだ。私はディフェンスの良いセカンドが好きだからね。

――全体を眺めてみると、クロマティさんって、意外と守備重視じゃないですか?
クロマティ:ディフェンスが絶対条件というわけじゃないよ。バランスの取れたチームにしたいんだ。みんながみんな3割を打つ必要はないし。守備が強い選手も必要だということだ。
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数々の興味深い日本人選手評を話してくれたクロマティ。それに加えてメジャーリーグと日本の違いについても触れてくれたのだが……また別枠でご紹介しよう。
(後編とクロマティが語り尽くした動画は、関連記事からもご覧になれます)
文=茂野聡士
photograph by Kiichi Matsumoto