気がつけば、マンチェスター・ユナイテッドがプレミアリーグの首位に立っている。ファンのいない静かな敵地ターフ・ムーアでバーンリーに1−0でしぶとく勝ち、混戦の上位陣からひっそりと抜け出した彼らの強さは本物なのか。

 チームを率いるのは、少し前まで「力不足だ」とか、「戦術を知らない」とか、「更迭せよ」とか、方々で言われていたオレ・グンナー・スールシャール監督だ。もっともそうした声の大半は、SNS上でヒステリックに書き殴られていたものだけれども。

CLグループステージ敗退という事実は残るが

 確かに今季のユナイテッドは、浮き沈みが激しい(でもそれはライバルたちにも共通していることだ)。

 リーグ戦では開始からホームで4試合連続未勝利となり──なかには第4節でトッテナムに喫した1−6の大敗も──、チャンピオンズリーグではパリ・サンジェルマンとライプツィヒを相手に連勝スタートを切ったものの、同じ相手とのリターンレグに連敗し、まさかのグループステージ敗退。最終節のライプツィヒ戦では、引き分けで突破を決められる状況にありながら、ひどい守備から立て続けに失点を喫し、反撃も及ばずに2−3で跪いた。

 チャンピオンズリーグの決勝トーナメントを戦わないのは、これで2シーズン連続だ。イングランドの最多リーグ優勝記録と飛び抜けた資金力を誇る名門クラブにとって、あってはならない状況と言える。

 ただし、その責任のすべてを監督ひとりに委ねるのは、正しいことではない。特に、現在のユナイテッドにおいては。

御大ファーギー退任後、一貫性を欠いた監督人事

 2012-13シーズンを最後に、サー・アレックス・ファーガソンが指揮官の座を降りてから、赤い悪魔は漂流を続けてきた(御大ファーガソンのとてつもない影響力と存在感、手腕を考慮すれば、それはある程度予想できたことだ)。アメリカ人オーナーと金融業出身のCEO──つまりフットボールを知らない人々──に主権を握られたクラブは、彼らの得意分野であるビジネス面では史上最高益を何度も更新しているが、肝心のスポーツ面では苦戦を強いられた。移籍市場での失敗は数知れず、監督人事にも一貫性を欠いた。

 ポスト・ファーガソン期の7年間で獲得したタイトルは、FAカップ、リーグカップ、ヨーロッパリーグを一度ずつ。リーグ戦の最高成績は、ジョゼ・モウリーニョが指揮を執った2017-18シーズンの2位だ。

 そのモウリーニョから約2年前に指揮権を引き継いだスールシャール監督は就任当初、不機嫌な前任者の澱が溜まっていたクラブの空気を一新し、チームも突如として息を吹き返した。指揮官交代の劇薬の効果は長く持続しなかったけれど、初のフルシーズンとなった昨季は終盤に猛烈に追い上げて、3位でフィニッシュ。そして今季は、不安定な序盤戦を経て、第8節から11試合負けなしで、ついに首位に立ったのだ。

この時期の首位は名将のラストシーズン以来!

 ここ3試合はすべて1点差の勝利で、勝負強さも身につけているように見える。この時期に順位表のトップにいるのは、ファーガソンの最後のシーズン以来だ──その2012-13シーズンにはリーグ優勝を飾っている。

 なにも後出しジャンケンをしたいわけではない。だがもし、この2年間に何度か経験した不調時のどこかで、本当にスールシャールを見限っていたとすれば、現在地に到達できただろうか。

 個人的には、そう思わない。再び放浪していた可能性もあるはずだ。なぜなら、クラブはユナイテッドの流儀を肌身に知る有望なレジェンドに指揮を託したわけであり、その指針を失えば、また一からすべてを再構築しなければならないからだ。

「我々は今、ポールの最高の姿を」

「チームは日に日に良くなっている」と、スールシャール監督は12日のバーンリー戦(1−0の勝利)後、上機嫌に眉を上げて言った。そして、得意のしなやかなボレーで決勝点を沈めたポール・ポグバについて、こう話した。

「我々は今、ポールの最高の姿を堪能している。(今季序盤戦で)ポールは怪我や新型コロナウイルスに悩まされていたので、フィットネスが万全になるまで、相応の時間を要した。私は常々、ポールはチームの重要な選手だと言ってきた。ドレッシングルームでも、良いキャラクターを示しているよ」

 この47歳のノルウェー人指揮官の穏やかなアプローチにより、19歳のメイソン・グリーンウッドを筆頭に、多くの選手が伸びやかに成長している。またポグバのように、士気にムラのあるセレブリティの扱い方も心得ているようだ。

クロップやペップと比べると戦術はまだまだだが

 よく指摘されるように、戦術を構築する手腕は、まだ超一流とは言えないかもしれない。ユルゲン・クロップやペップ・グアルディオラのチームが披露するような、複雑な反復練習でコーディネートされたことを思わせる巧妙な攻撃の形はあまり見えてこない。

 ただし現地の同業者によると、スールシャールは実に仕事に熱心で、代表戦の週に多くのスタッフが休暇を取り、監督の家族が母国に帰った時も、ひとりマンチェスターに残って自らのタスクに没頭していたという。ベビーフェイスの裏には、静かな闘志や向上心があるに違いない。

「フットボールは団結したチームこそが強い」

 それに、フットボールは戦術がすべてではない。チームの戦い方を決める重要なファクターではあるが、それと同じくらい大事なものは、ほかにもたくさんある。たとえば、チームの一体感や高いモチベーション、ポジティブな姿勢など。それらは間違いなく、今のユナイテッドの強みだ。

 バーンリー戦の前には、選手たちの自主性や絆の大切さについても、スールシャール監督は語っている。

「(選手たちが)コーチ陣からいつもあれこれ指図されることほど、悪いものはない。私は(現役時代に)、幸運にも多くの気概にあふれた選手たちのいるチーム(ユナイテッド)でプレーすることができた。(中略)チームには、グループで決めた事柄から逸脱してしまうような選手を正すリーダーが必要になる。フットボールでは、団結したチームより強いものはない」

 実際、この快進撃を支えたのは、守備のリーダーで腕章も巻くハリー・マグワイアの復調や、攻撃を見事に取り仕切るブルーノ・フェルナンデスの存在だ。

 またクラブの象徴になりつつある生え抜きのマーカス・ラッシュフォードは、リーグ戦で7つの得点とアシストを記録しているだけでなく、英国政府の政治的決断を翻意させ、一度は取りやめになった低所得者層の子供達への食事券を維持させるなど、この1年で英国社会全体への影響力さえ持つようになった。23歳の主体的なロールモデルだ。

実は珍しい“リバプールとの首位攻防戦”

 彼らが日曜日に乗り込むのは、王者リバプールの本拠地アンフィールドだ。今季のスケジュールが決まった時、ユナイテッドが首位でこの一戦を迎えると予想できた人はほとんどいなかっただろう。これほど楽しみなイングランド伝統のクラシックマッチは、いつ以来だろうか。意外にも、両名門が1位と2位の立ち位置で直接対決するのは、プレミアリーグ史上初だ。

「最高のテストになる」と指揮官は言う。疑われてきたスールシャールのチームの能力を証明する絶好の機会だ。

 現状を見るかぎり、ユナイテッドにも勝機は十分にある。勢いは間違いなく上だし(リバプールはここ3試合白星なし)、そもそも今季のリーグ戦ではアウェーで一度も負けていない。負傷者の重なる相手には一線級のCBがひとりもいないし、敵を畏怖させるコップ(ゴール裏)の住人たちも、しつこい疫病によりスタジアムに入れない。

 どこまでも欲が深そうなユナイテッドのフロント陣は好きになれないけれど、物腰が柔らかく、真摯で、人間として素敵に見えるスールシャール監督は応援したい。それにプレミアリーグをもっと面白くするには、やっぱり強いマンチェスター・ユナイテッドが必要だと思う。

 日曜日の頂上決戦で昨季覇者に土をつけたなら、いつの日か、そこが復権のターニングポイントだったと振り返ることになればいい。

文=井川洋一

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