1月14日から、ネバダ州ラスベガスで全米選手権が開催された。10月のスケートアメリカと同じ会場を使用し、無観客。関係者は到着後に新型コロナウイルスの検査を受けた上で、開催中は会場との往復以外、外部との接触を一切禁止。会見は全てズーム、という厳しい条件での開催だった。

テネルが2度目のタイトルを手に

 女子のタイトルを手にしたのは、SP、フリーとも安定した演技を見せたブレイディ・テネルだった。若手たちが台頭してきても自分のペースを保って、着実に表彰台に上がり続けてきたベテランである。1月末で23歳になるテネルにとって、3年ぶりの全米タイトル。「大事なのは結果よりもその過程であるとよく言われるけれど、こうして結果を手にするとやっぱり嬉しいです」とズーム会見で喜びを表現した。

 2位は21歳のアンバー・グレン。SPでは3アクセルに挑戦したが回転不足で5位スタート。フリーでは最後までノーミスで滑り切り、シニアとして初の全米選手権メダルを手にした。

 3位は同じく21歳のカレン・チェンだった。SPではジャンプの回転不足が重なって4位だったが、フリーではミスを最小限に抑えて3年ぶりに表彰台に返り咲いた。

 だがこの大会の女子で、もっとも印象に残ったのは15歳のアリサ・リュウだった。

今年の全米選手権でのアリサ・リュウ (C)Getty Images

別人のように成長したアリサ・リュウ

 リュウは3年前に12歳で3アクセルを成功させ、13歳で史上最年少の全米チャンピオンになって注目を浴びた選手である。だがISUの年齢制限のため、そのシーズンはジュニアGPシリーズにすら出場できなかった。昨シーズンはジュニアGPレイクプラシッド大会で女子として初めて、3アクセルと4回転ルッツを同じプログラムで成功させるという記録を作り、全米を2連覇。世界ジュニア選手権では3位だった。

昨年の全米選手権でのアリサ・リュウ (C)Getty Images

 だが今回氷の上に出てきたリュウは、昨年までの「とにかく楽しくて仕方ない」という無邪気な表情で滑っていた少女ではなかった。まず容貌が、激変と言っても良いほど変わっていた。

「周りの人には、変わったね、と言われます」

「鏡を見て、『これ誰?』と自分で思うことはないの?」と米国記者が、ズーム会見で尋ねるとリュウは笑いを含んだ声でこう答えた。

「私は自分の顔を毎日見ているので、それほど変わったとは感じないの。でも周りの人には、変わったね、と言われます」

成長と怪我で大技を失う

 この1年で、身長が3インチ(およそ7.5センチ)伸びた。パンデミックで3カ月氷上で練習ができなかったのと、成長期がちょうど重なったのだろう。少女体形から、しっかり筋肉のついたシニアスケーターの体形になり、同時に顔も大人びて15歳には見えないほど女性らしさが増した。

 このスポーツでは、特に女子は体重が300グラム増えるとジャンプに影響があると言われる。リュウも体の重心が狂って、しばらくジャンプが跳べなくなったという。10月末に出場した米国内のチームイベントで、前日の練習中に3アクセルの着氷で転倒し、右臀部を負傷。当日は痛みのため、2回転ジャンプしかできなかった。

「3アクセルの練習を再開したのは、全米選手権の2週間前。筋肉の記憶のおかげなのか、わりとすぐに降りられるようになりました。でも成功率はまだそれほどでもないので、この大会では入れないと決めていました」

 演技後そう語ったリュウは、大技なしでもSPは2位スタート。だがフリーでは細かいジャンプミスが出て、総合4位に終わった。

 ジャンプの天才と言われた少女が、成長してからジャンプを失って凡庸になるというのは珍しい話ではない。だがリュウがラスベガスで見せた演技は、凡庸とは程遠かった。

ニコルらしい複雑で凝った振付

 SPはニーノ・ロータの「道」、フリーはハンガリーの作曲家ハヴァシ・バラージによる「The Storm」で、いずれも振付はローリー・ニコル。女道化師を表現したSPも、中近東のエキゾチックな雰囲気を醸し出したフリーも、ニコルらしい複雑で凝った振付である。若い選手はジャンプに集中するあまり、振付の表現がおざなりになるのは仕方のないことだが、今年のリュウは違った。

さなぎが蝶に変身したような表現力の開花

 スケーティングが以前よりもきれいになっただけでなく、身体の使い方が以前とは全く違う。四肢をのびやかに使って、中途半端に終わる動作がなくなり、1つひとつの動きがきれいに完結されている。首の位置、顔の表情まで、文句のつけようがなかった。

 最後に彼女を見たのは、昨年3月初頭にエストニアのタリンで開催されたジュニア世界選手権だったが、1年足らずの間に全く別なスケーターになっていた。

 大技こそ見せなかったが、まるでさなぎが蝶にかえったかのような完成度の高さ。この劇的な成長の理由は、一体何なのか。

鍵を握る新コーチ、マッシモ・スカリ

「マッシモはアイスダンサーなので、スケーティングを集中して練習しました。これまであまりスケーティングに注意をはらってこなかったけれど、今季は怪我でジャンプができなかったし。また振付をこなすことに、すごく時間をかけました」

 リュウが言うマッシモとは、マッシモ・スカリのこと。2020年の春、リュウは幼少時から指導を受けてきたコーチを離れて、カナダのリー・バーケルとローリー・ニコルに師事することを決意。だがパンデミックで国境が閉ざされたため、オンラインで遠距離指導を受ける傍ら、2019年12月からリュウの元コーチの依頼を受けてアシスタントをしていたマッシモ・スカリが、日々の指導をすることになったのだという。

 イタリア出身のスカリは、パートナーのフェデリカ・ファイエラと欧州選手権銀メダルを2度、世界選手権銅メダルを1度手にしたキャリアを持つ。豊かな表現力で人気の高かった選手で、現在では樋口新葉などの振付師としても知られている。

「アリサの指導を始めたのは、6月からでした。カリフォルニアはパンデミックの影響が大きく、使えるリンクを探すことが難しかった。最初は公園で、ローリー(ニコル)にオンラインで振付の指導を受けたんです」

 ズーム会見でそう語ったスカリは、アリサにバレエ、ピラティス、そしてヨガのクラスも紹介した。

「バランスのとれたアーティストであることを見せたかった」

「ぼくのアイスダンサーとしての経験の全てを、彼女に伝えたいと思ったのです」

 成長期とパンデミックが重なり、そして怪我もあったリュウにとって今季は全米選手権での順位は二の次だったとスカリは説明する。

「この大会では、新しいアリサを見せることが目的でした。自信のついた、ゴージャスで美しい、これまで誰も見たことのないアリサを。彼女はただのジャンパーではなく、バランスのとれたアーティストであることを見せたかったのです」

北京オリンピックを目指して

 フィギュアスケートは総合芸術と言われる傍ら、「跳んでなんぼ」のスポーツとも言われる。どれほど美しくても、結局はジャンプを成功させた選手が勝つ。

「もちろん、これから時間をかけて大技を取り戻していきます」

 そう言うスカリは、元全米男子チャンピオンのジェレミー・アボットにジャンプの指導を依頼。2008年GPファイナルチャンピオンのアボットも、12月からリュウのコーチチームに加わった。現在はバーケルとニコルとのオンライン指導は一時中断し、スカリとアボットが日々の指導を行っている。

「今シーズンは、この試合が最初で最後の大会です。この1年で色んなことが重なって大変でしたけれど、(来年ではなく)今シーズンで良かった」とリュウは前向きに語る。

 今シーズンはジュニアの国際大会は全てキャンセルになってしまったが、リュウは来季から、ようやくシニアの大会に出られる年齢になる。

 2022年北京オリンピックのメダリスト候補の1人として注目されているリュウ。彼女が来季にはどのように花開くのか、楽しみである。

文=田村明子

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