2020年の福岡ソフトバンクホークスは、せんじ詰めれば10月に尽きる。この月に歴史的快進撃を見せたことで、圧勝でリーグを制した。そして日本シリーズも。10月に何があったのだろうか?

<2020年チーム成績>
73勝42敗5分 勝率.635(1位)
打率.249(2位タイ)本塁打126本(1位)500打点(2位)99盗塁(1位)
防御率2.92(1位)33セーブ(3位)120ホールド(1位)83被本塁打(1位)

<9月末時点のパ・リーグの順位表>
1 ソフトバンク 88試48勝36敗4分 率.571 差--
2 ロッテ 88試49勝37敗2分 率.570 差0.0
3 楽天 88試43勝42敗3分 率.506 差5.5
4 西武 86試40勝44敗2分 率.476 差8.0
5 日本ハム 88試40勝45敗3分 率.471 差8.5
6 オリックス 88試33勝49敗6分 率.402 差10.5

 昨年9月末の時点では30数試合を残した時点で、ソフトバンクと2位ロッテはゲーム差なしの大接戦だった。セ・リーグはすでに巨人にマジックが点灯していたからセは圧勝、パはデッドヒートという見方が定着していた。それがわずか1カ月で激変したのだ。

10月だけで18もの勝ち越しをマーク

<10月だけのパ・リーグ勝敗>
1ソフトバンク 27試22勝4敗1分 率.846
2西 武 26試14勝11敗1分 率.560
3日ハム 26試11勝13敗2分 率.458
4楽 天 26試10勝13敗3分 率.435
5オリックス 26試9勝16敗1分 率.360
6ロッテ 25試8勝17敗0分 率.320

 ソフトバンクは1カ月で18もの勝ち越し、2位のロッテが主力に新型コロナ陽性者が出て戦力が大幅ダウンするのを横目に、その差を一気に広げ最終的には1位ソフトバンクと2位ロッテのゲーム差は14まで広がった。

 月間22勝は1953年9月の巨人(21勝5敗)、1954年8月の中日(21勝4敗)、2002年8月の西武(21勝5敗)の21勝を上回るNPB記録。月間勝率.846は、1968年阪神の.905(19勝2敗)に次ぐ2位。月間勝越し18は、この年の阪神の17を抜いてこれまた史上1位。まさに歴史的な快進撃を演じたのだ。

 この月のソフトバンクをさらに詳しく見てみよう。

“ギータ頼み”にならない打線の凄まじさ

<2020年10月の主要打撃陣>
柳田悠岐 27試97打37安4本19点0盗 率.381
グラシアル 26試90打30安2本16点2盗 率.333
周東佑京 27試111打34安1本10点23盗 率.306
栗原陵矢 27試94打26安4本20点1盗 率.277
牧原大成 26試55打15安1本6点1盗 率.273
松田宣浩 27試96打26安5本17点0盗 率.271
中村晃 26試86打21安1本12点0盗 率.244
甲斐拓也 27試77打18安4本8点3盗 率.234
明石健志 14試30打11安0本8点1盗 率.367

 柳田を中心に強力打線だったことが分かるが、1人の打者がホームランを量産してチームを引っ張ったのではなく、上位から中軸、下位まで打線全体が機能して強力打線を形成していたことが分かる。チームの最多打点が柳田ではなく、その後ろを打つ栗原だったことが象徴的だ。

 そして周東。昨年、韋駄天で売り出した育成上がりの内野手だが、9月までは26盗塁で22盗塁の日本ハム西川遥輝と競り合っていたが、この月だけで23盗塁。盗塁死はわずか2、10月末には西川に10差をつけていた。盗塁成功率は驚異的な.920だった。

Nanae-Suzuki

 さらにグラシアル。小指の故障のためキューバに帰国していたが、新型コロナ禍のために来日が遅れ、一軍の打席に立ったのは8月18日のロッテ戦だった。しかしそこから調子を上げて10月の月間打率は.333をマークした。

意外とモイネロが打たれていた以外は……

 次は同じく、10月の投手陣成績である。

<先発投手>
東浜巨 5試4勝0敗37.2回 率0.48
ムーア 5試3勝1敗33.2回 率2.67
石川柊太 5試4勝0敗31.1回 率2.59
千賀滉大 4試3勝1敗26.1回 率0.00
和田毅 4試3勝0敗20.1回 率2.66
笠谷俊介 3試2勝0敗13.1回 率0.68
大竹耕太郎1試1勝0敗5回 率1.80

<救援投手>
高橋礼 13試0勝0敗0SV 5HD 率1.69
森唯斗 11試0勝0敗8SV 1HD 率2.53
モイネロ 9試1勝2敗0SV 6HD 率4.15
嘉弥真新也 14試1勝0敗0SV 2HD 率3.52
泉圭輔 11試0勝0敗0SV 1HD 率1.86
松本裕樹 8試0勝0敗0SV 1HD 率2.84

 投手は大竹がローテの谷間で1試合投げた以外は、6人できっちり回した。完投、完封はないがほぼすべての試合で先発の責任を果たした。

 そして救援。意外なことに今季MVP級の活躍をしたセットアッパーのモイネロが10月24日の西武戦で3失点するなど2敗しているが、他の救援陣は破綻なく投げた。

 なお10、11月のパ・リーグMVPは打者は柳田悠岐だったが、投手は楽天の岸孝之だった。

 長々とソフトバンクの10月について紹介してきたが、強調したいのは、この月のソフトバンクは、救世主的な選手が表れて大活躍したのではなく、レギュラーメンバーがそれぞれの持ち場で当たり前の仕事をした結果だということだ。

 2020年のプロ野球は約3カ月遅れで開幕した。ソフトバンクは、他球団と同様、様々な想定外の事態を乗り越えてペナントレースを戦ってきた。前述のグラシアルの来日遅れ、新加入のバレンティンの極端な不振、正遊撃手今宮健太の左足負傷、そのために本命ソフトバンクは馬群から抜け出すことができず、パ・リーグは混戦となった。

 しかし10月に至って陣容が整い、ソフトバンクは本来の強さを発揮しだしたのだ。

ポストシーズンも勢いは衰えず、巨人とは対照的

 10月の投打の顔ぶれにフロックで目立った活躍をしてメンバー入りした選手はいない。本来戦うべき選手がそろって白星を量産したのだ。

 つまり10月の戦力が「本来あるべきソフトバンクの姿」だったのだ。だから11月以降も、ポストシーズンも、そして日本シリーズも、戦力が全く衰えなかったのだ。

 8月にマジックが点灯して以降、なかなか優勝することができずもたもたと試合を消化してきたセ・リーグの覇者巨人とは、実力もメンタルも天地ほどの差があったと言うべきだろう。

2019年の内川と2020年の栗原を比較すると

Nanae-Suzuki

 今季の陣容で特筆すべきは、栗原陵矢の抜擢だ。栗原は捕手登録だったが、今季は開幕で2番一塁でスタメン出場すると以後は一塁、外野で出場し続けた。これによって現役最多安打(2171安打)の内川聖一の出場機会が完全に奪われた。2019年の内川は打率.256、2020年の栗原は.243、ともに打率21位。どちらもそれほどの成績ではないように見えるが、その中身にはかなりの違いがある。

<2019年の内川聖一 RC(Runs Created)は打撃の総合指標>
内川聖一 137試500打128安12本41点3盗 率.256 RC51.85
<2020年の栗原陵矢>
栗原陵矢 118試440打107安17本73点5盗 率.243 RC57.16

 RCは積み上げ型の数字なので、試合数が多い方が増加する傾向にある。2019年の内川のRCは51.85、2020年の栗原は57.16。その差は一見大きくないように見えるが、試合数を勘案すれば小さくない。打点も内川の41に対して栗原は73。チームへの貢献度は前年の内川よりも上回っていたのだ。

レギュラー確保とはいえない選手層の分厚さ

 ただし、栗原はこれでレギュラーの座を確保したとはいえないだろう。

 ソフトバンクには元首位打者の長谷川勇也、オールスターにも出場(2017年)した上林誠知など、他球団なら中軸が務まりそうな選手がゴロゴロと在籍している。栗原は2021年、中村晃なども含めたライバルとの激しいポジション争いを勝ち抜く必要がある。この層の厚さもソフトバンクならではだ。

 端的に言えば、パ・リーグの他球団とソフトバンクは「周回遅れ」くらいの差がついている。打撃も投手陣もリーグ屈指なうえに、2019年の周東、2020年の栗原のように次々と新しい戦力も登場している。2021年もソフトバンクはリーグ優勝、日本一の最右翼なのは間違いない。

 しかし死角がないわけではない。最大の懸念事項はエース千賀滉大の「肩、肘」だろう。

3年連続2ケタ勝利を挙げている一方で

<ここ3年の千賀の成績、投球数と投手の酷使度を示すPAP(Pitch Abuse Point)>
2018年 22試合13勝7敗
141回 率3.51 2357球 PAP 93,764
2019年 26試合13勝8敗
180.1回 率2.79 3077球 PAP 385,727
2020年 18試合11勝6敗
121回 率2.16 2096球 PAP 281,511

 PAPは(投球数−100)の3乗で導き出される。100球以下はカウントしない。MLBではPAPが10万を超すと黄信号、20万を超すといつ故障してもおかしくないとされる。

2年連続での“酷使度20万超え”は深刻

 2019年の千賀は両リーグ最多の3077球を投げてPAPも38万を越した。2020年は試合数が減ったことで2096球しか投げていないが、PAPは28.1万。9月15日の日本ハム戦の148球をはじめ130球以上投げた試合が3、110球以上は12試合である。

 投手の中には他の投手よりも強靭な肘、肩の持ち主がいるのは事実だが、客観的な数字として2年連続PAP20万超えは深刻だ。

 選手層の厚いソフトバンクではあるが、エースが2021年もローテを維持するか――は大きなポイントになってくるだろう。

 今季のソフトバンクはどんなチームとして開幕を迎えるか、興味は尽きない。

文=広尾晃

photograph by Nanae Suzuki