筆者は毎年、12球団の記録による振り返りを行っている。個人、チームの投打の数字をいろいろチェックしているのだが、2020年のチーム投手成績を調べていて、おもしろいことに気が付いた。

 両リーグの先発、救援別のチーム防御率のランキング。一番端の「位」は、ペナントレースの順位である。

〇パ・リーグ
・先発防御率
 1ソフトバンク3.11(57勝28敗)1位
 2オリックス3.92(33勝45敗)6位
 3ロッテ4.07(45勝43敗)2位
 4日本ハム4.08(36勝48敗)5位
 5楽天4.29(36勝37敗)4位
 6西武4.87(32勝50敗)3位

・救援防御率
 1ソフトバンク2.60(16勝14敗33SV 120HD)1位
 2ロッテ3.30(15勝14敗34SV 78HD)2位
 3西武3.48(26勝8敗35SV 90HD)3位
 4日本ハム3.93(17勝14敗25SV 83HD)5位
 5楽天4.04(19勝20敗28SV 103HD)4位
 6オリックス4.07(12勝23敗20SV 84HD)6位

〇セ・リーグ
・先発防御率
 1巨人3.20(51勝34敗)1位
 2阪神3.38(40勝41敗)2位
 3中日3.57(43勝45敗)3位
 4広島3.74(43勝43敗)5位
 5DeNA3.92(42勝39敗)4位
 6ヤクルト4.83(26勝50敗)6位

・救援防御率
 1阪神3.39(20勝12敗30SV 80HD)2位
 2DeNA3.54(14勝19敗24SV 104HD)4位
 3巨人3.60(16勝11敗27SV 96HD)1位
 4中日4.33(17勝10敗31SV 94HD)3位
 4ヤクルト4.33(15勝19敗21SV 88HD)6位
 6広島4.64(9勝13敗21SV 56HD)5位

パは救援、セは先発防御率と順位がほぼ一致

 パ・リーグでは、救援投手の防御率の順位が、ペナントレースの順位とほぼ一致し、セ・リーグでは先発投手の防御率の順位が、ペナントレースの順位とほぼ一致するのだ。パでは救援投手が、セでは先発投手が勝利のカギを握っているのだ。

 セの先発重視、パの救援重視は他のデータでも明らかだ。

 先発、救援別の勝利数を比率で表すとこうなる。
 パ・リーグ 先発69.5% 救援30.5%
 セ・リーグ 先発72.9% 救援27.1%

 一方で完投数と単独の投手による完封数、そしてセーブ数、ホールド数は下記の通り。
 パ・リーグ 完投19 完封9
 セ・リーグ 完投36 完封16

 パ・リーグ 175セーブ 558ホールド
 セ・リーグ 154セーブ 518ホールド

 セ・リーグは昔ながらの「先発完投」こそが野球の王道だとして、エースを中心とした投手陣でペナントレースを戦っている。一方でパ・リーグは、数字で見る限りだと先発投手は端的に言えば「最初に投げる投手」くらいのイメージで、複数の救援投手をフル回転させてペナントレースを戦い始めている印象を受ける。

 どちらも野球の方法論ではある。ただ、筆者はこの方針の違いが“セパ格差”の一因となった可能性があるのでは――と感じる。

セ・パの先発投手へのアプローチ差

 セ・リーグの先発投手には「完投」への期待感がある。

 アメリカで先発投手の最低限の責任とされるQS(先発して6回を投げて自責点3以下)では、合格点は与えられない。沢村賞の堀内恒夫選考委員長は“MLBのQSは日本野球では軽すぎる”として、7回以上自責点3以下という「沢村賞基準のQS」を新設したが、セでは「先発投手は完投して一人前」という意識が今もなお強いはずだ。

 これに対してパ・リーグは「試合を作ってくれれば合格点」、先発完投は「できるチャンスがあれば」というアプローチが確立された印象だ。投手自身も「6回まではしっかり投げよう」という意識で投げる。救援投手につなぐのが当たり前という認識なのだろう。

 救援投手に対する認識も異なっている。

 セ・リーグは2020年、巨人の大竹寛や田口麗斗、阪神の能見篤史(今季からオリックス)、DeNAの井納翔一(今季から巨人)のように、先発から救援に配置転換された投手が散見される。また広島の薮田和樹、巨人の桜井俊貴のようにシーズン中に先発から救援に転向する例もある。

 セの指揮官はいまだに「先発で振るわなかった投手を救援に回す」認識があるのではないか。

パは一度も先発したことがない宮西らが

 一方でパでは救援のスペシャリストが数多くいる。NPB史上最多の358ホールドを誇る日本ハムの宮西尚生は、734試合オール救援、一度も先発したことはない。通算119セーブ、ロッテのクローザー益田直也も526試合オール救援、136セーブの西武、増田達至は422登板で先発は2だけ。こういう投手は、セットアッパー、クローザーのスペシャリストとして、使命感を持って投げている。

 昨年は楽天のセットアッパーだった高梨雄平が、シーズン中に巨人に移籍して目の覚めるような活躍をしたが、セ・パ救援投手のレベルの差が端的に表れたと言えるだろう。

2020年日本シリーズの象徴的な用兵

 記憶に新しい日本シリーズでのソフトバンクのスイープ(4連勝)も、セ・パの投手用兵の差が出たと見ることができる。

 先発優先の巨人は先発投手が打ち崩されると、以降は先発よりレベルの落ちる救援投手が出てくることになる。しかしソフトバンクは、たとえ先発が打ち込まれても――中継ぎで力のあるセットアッパーが次々と出てきて、試合を立て直すことができる。

 昨年の日本シリーズでいえば、巨人は初戦で絶対的なエースの菅野智之が6回自責点4で降板した時点で、勝機がなくなっていたという見方もできる。とはいえ原辰徳監督は救援陣の薄さを認識していたようだ。そこで先発二番手の戸郷翔征を中継ぎに回したが、付け焼刃で対応できるはずもなかった。

パの「救援重視」は、最近始まったトレンド?

 実はパ・リーグの「救援重視」は、つい最近始まったトレンドだ。

<2011年以降のセ・パ両リーグの完投数の推移>
 2011年 セ61完投 パ107完投
 2012年 セ54完投 パ77完投
 2013年 セ47完投 パ58完投
 2014年 セ47完投 パ53完投
 2015年 セ49完投 パ46完投
 2016年 セ47完投 パ46完投
 2017年 セ34完投 パ57完投
 2018年 セ43完投 パ42完投
 2019年 セ30完投 パ19完投
 2020年 セ36完投 パ19完投

 10年前はパ・リーグの方が完投数が多かったのが、次第に拮抗。2018年には逆転し、2020年には大きな差となっている。

ダルビッシュ、田中、大谷らのMLB移籍によって

 DH制を導入したリーグの方が「先発重視」になると言われる。投手が打戦に並ばないことで、代打で交代というケースがなくなり、先発がより長く投げることができるからだ。事実、DH制が導入されて以降、パ・リーグでは先発完投型のエースが次々と登場した。21世紀に入ってもパ・リーグからは本格派のエースが次々と登場した。

 しかし2007年に西武の松坂大輔、2012年に日本ハムのダルビッシュ有、2014年に楽天の田中将大、2018年に日本ハムの大谷翔平、2019年には西武の菊池雄星とパのエースは次々とMLBに移籍した。また2012年にはソフトバンクの杉内俊哉が巨人に、2019年にはオリックスの西勇輝が阪神と、セ・リーグへの移籍もあった。

 先発完投能力の高いエースの人材流出が続く中で、パ・リーグの投手起用は方針転換をせざるを得なくなったのだ。

浅尾、藤川ら名セットアッパーもいただけに

「野球は先発完投が基本」という野球人は年配者を中心に多い。ただ「先発重視より救援重視の方が勝てている」というファクトに注目すべきだろう。

 他のスポーツも同様だが、野球というスポーツも「生き物」であり、日々変化している。その変化にいち早く対応し、自らを変革できるチーム、リーグが勝利を収めているのだ。

 とはいえ、セ・リーグはもともと救援投手起用では先進的だった。セットアッパーで初めてMVPを受賞した浅尾拓也、絶対的なクローザーだった藤川球児など、球史に残る救援投手を何人も輩出している。

 それを考えれば、救援投手に軸足を移すことは不可能ではないだろう。今までの投手用兵を今一度見直してはどうだろうか?

文=広尾晃

photograph by Nanae Suzuki