箱根駅伝で13年ぶりの総合優勝を飾った駒澤大学、日本記録を2度更新し、東京オリンピックマラソン日本代表となった大迫傑。
 それぞれの走りを陰ながら支えているのが、駒澤大学陸上競技部の大八木弘明監督の妻で、26年間選手の食事を作り続けてきた京子さんと、大迫の妻のあゆみさんだ。
 選手の食をサポートするために栄養関係の資格も取得した2人が、駒澤大・陸上競技部の元マネージャーで、現在川内優輝のモノマネ芸人として活躍するM高史とともに、選手たちの食事のエピソードを語る。(全2回の1回目/後編はこちら)

大迫 箱根駅伝、優勝おめでとうございます。

大八木 ありがとうございます。

大迫 今日初めて寮に伺ったのですが、今、陸上競技部には何人ぐらいいらっしゃるんですか?

大八木 だいたい50人ちょっとですね。

大迫 全員の料理を京子さんが作られているんですよね? 50人分って、分量が全然想像がつきません(笑)

大八木 最初は30人ぐらいだったんですけど、だんだん増えてしまって(笑)。今はきれいになりましたけど、昔の寮は古くて汚くて、調理器具も揃っていなかったので、そっちの方が苦労しましたね。

大迫 しかも子育てしながらと伺いました。当時お子さんは何歳だったんですか?

大八木 選手の食事を作り始めたのは、上の子が1歳の時でしたね。おんぶしたり、隅のカゴに寝かせて置いていました。

大迫 すごいですね! うちにも娘が2人いるので、信じられないです。どんなスケジュールで動いているんですか!?

大八木 朝ごはんを作るときは、朝5時くらいに起きて、5時15分頃には作り始めます。朝練が5時45分から7時ぐらいなので、7時半には朝食を出せるようにしています。お昼は選手たちに任せているので、あとは夕飯の準備。お昼ぐらいにお米を研いだり、少し準備をして、自宅に戻って家のことをしてから、15時半ぐらいに戻ってきて、夕飯を作って、18時30分に晩ご飯。21時くらいに片付け終わって、家に帰って、寝るのは1時頃かな。

大迫 すごい、ハードですね!

M高史 しかも僕が知る限り、奥さんが風邪をひいたところも、具合が悪そうなところも見たことないんですよ。

大八木 そうなんです。具合が悪くならないので、困っているんですよ(笑)

箱根駅伝で優勝した夜はお祝いしたんですか?

大迫 レースの前の食事は何か注意していますか?

大八木 極端に変えることはありませんが、駅伝の前は走る距離が長くなってくるので、いつもよりは糖質を増やした食事内容にしていますね。当日駅伝を走る子たちには、2〜3日前に何を食べたいか聞いておいて、それに合わせて作ります。

大迫 みんなバラバラということですか?

大八木 そうですね。でも朝食なのでそんなにすごいものは作りませんよ。うどんやおにぎり、お餅とか、簡単なものです。

大八木弘明監督の妻で駒大道環寮の寮母でもある京子さん

大迫 選手からしたら、送り出してくれるような感じがするでしょうね。

M高史 そうなんです。あとときどきアレルギーを持っている選手がいて。エビがダメ、そばがダメとか、そういうアレルギーにも全部対応してくださって。僕の後輩の堺晃一もそばアレルギーで、彼だけ年越しうどんだったのを覚えています。誕生日にはケーキを用意してくれるし、選手はみんな奥さんに恩返ししたいって思っています。

大迫 本当にすごい……。ちなみに箱根で優勝した夜はお祝いしたんですか?

大八木 いつもは違う場所で打ち上げみたいなことをするのですが、さすがに今年はそうもいかなかったので、寮でお弁当とケーキでちょっとお祝いした感じですね。

大迫 うちの夫もレース後に、ケーキとか甘いものを結構食べるんです。祝杯をあげたり、お酒は飲むんですか?

大八木 基本的に寮内は飲酒禁止なので、レース後もノンアルコールです。箱根駅伝翌日も朝練がありますし。

大迫 さすがストイックですね。うちはレース後の1杯に命をかけているようなもので、それがモチベーションにもなっています(笑)。

トイレに「炭水化物は敵じゃない」と標語を貼りました

大迫 学生時代の大迫は食生活が結構ひどかったんです。アイスクリームで炭水化物を賄えばいいとか、本当にすごかったんですけど、今の大学生はどうですか?

大八木 全国各地から、環境や食生活も全然違う子が集まってくるので、色々な子がいますね。もちろん中にはひどい子もいます。だから最初に栄養について説明する勉強会みたいなものをしています。大学生になると今までとは練習量も違うし、生活も違う。強い長距離チームに入っているということを自覚させて、長距離選手にどんな栄養が必要なのかを伝えています。寮生活にだんだん慣れてくると、自分の体のこともわかってくるので、あまり言わなくても良くなりますね。

大迫 うちはトイレに「炭水化物は敵じゃない」みたいな標語を貼ったりしました。トラック競技のときは、とにかく米を食べることに抵抗があったんですね。高校時代の食べたい時期に節制していたせいもあると思うんですけど、米を食べると体が重くなると思っていたようで、そのころは1日に1合しか炊かなくても残ってしまう。赤ちゃん用のスプーンに1杯分しか食べないという時もありました。

あゆみさんはお米を食べることに抵抗があった大迫の意識を少しずつ変えていった

M高史 えー!!

大迫 ただマラソンだとそれは違うよねという話をして、本人もトラックのときと同じ食事だとパワーが持たないと感じたんでしょうね。あと年齢も上がってきているので、代謝が落ちているというのも自覚してきているみたいで最近はバランスよく食べるようになってきました。

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文=林田順子

photograph by Takuya Sugiyama