リバプールの南野拓実が、イングランド南部のサウサンプトンにレンタル移籍することになった。今シーズン限りの期限付きとはいえ、突然の移籍発表だった。

「リバプールとサウサンプトンが南野のレンタル移籍で基本合意」との一報が入ったのは、冬の市場の最終日となる英国時間1日の22時過ぎ。書類手続きが完了し、両クラブから正式発表がなされたのは2日の午前1時だった。報道によると、サウサンプトンがリバプールに南野の獲得を打診したのは1日の朝。協議開始からわずか11時間で基本合意に達したという。英メディアもまったく察知していない、まさに電撃移籍となった。

英国でも今回の移籍は「サプライズ」扱い

 英国のスポーツ番組でも、南野のレンタル移籍を「サプライズ」と取り上げ、次のようなやり取りが繰り広げられた。

 司会者が「ファビーニョやナビ・ケイタといった他国のリーグからやってきた選手に対し、ユルゲン・クロップ監督はプレミアリーグに適応させるためにチーム内で十分な時間を与えてきました。ゆっくり適応させていた印象です。レンタルに出された南野は、彼らとは違う扱いを受けたということでしょうか」と質問をぶつけると、元イングランド代表DFで現解説者のダニー・ミルズ氏は「そうは思わない」と返答。次のように言葉をつないだ。

「南野は非常に良い選手だと思うが、極めて難しい状況に置かれていた。モハメド・サラー、サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノ。言うまでもなく、この3トップはリバプールで絶対的な存在だ。ここに、夏の市場でディオゴ・ジョタが加わった。4人の壁を破るのは、いくら優れた選手であっても簡単なことではない。

 しかも、オーストリアリーグからやってきた南野の場合は、まずプレースピードの速いプレミアリーグに適応する必要がある。本来なら、出場機会を増やしながら自信と安定感を身につけたかった。だが、試合に出ないことには始まらない。今のリバプールの前線で出番を得るのは難しく、クロップ監督もそんな余裕はないのが実情だろう。それゆえ、レンタルで実戦経験を積ませるのは、非常に理にかなった選択だと思う」

 ミルズの言葉通り、ワールドクラスが集うリバプールで、南野は出場機会に恵まれなかった。今季リーグ戦の先発はわずか2試合で、チームとして優先順位の落ちるカップ戦が主戦場だった。

「南野にとって実りの多い移籍であると」

 転機になるはずだったのが、12月19日のプレミアリーグ・クリスタルパレス戦だ。

 この試合で南野は国内リーグ初ゴールを決め、一気に追い風に乗るように思えた。だが、ここから出番は激減し、苦難の色はさらに強まる。クリスタルパレス戦以降の出場歴を紐解くと、国内リーグの出番は7試合でわずか1試合。しかも、途中出場の6分間だけのプレーにとどまった。

 そんなタイミングで届いたのが、サウサンプトンからのレンタルの打診だった。

 クロップ監督も「本心は出したくなかったが、タクミに十分な出場機会を与えられていない。レンタル先で試合経験を積める」とし、南野にとって実りの多い移籍であると決断した。ドイツ人指揮官から説明を受け、南野もレンタル移籍に首を縦に振ったのである。

「誰にとってもメリットが大きい」

 さて、焦点となるのは南野はサウサンプトンにフィットするのか――である。「リバプールとサウサンプトンの戦術は親和性が高い」と力を込めたのは、昨シーズンまで英2部ハダースフィールドの監督を務めたダニー・カウリー氏だ。指導者の視点から、次のように分析した。

「サウサンプトンとリバプールのプレースタイルから考えると、双方にとって非常に価値の高い契約だ。この2チームは、戦術面で『ハイプレス&ハイライン』という共通点がある。また、『攻→守』、『守→攻』のトランジション、つまり攻守の切り替えを重視している。南野は、こうしたプレーを得意としており、移籍が決まったのだろう。

 今回のレンタル移籍は、誰にとってもメリットが大きい。南野としては実戦経験が積める。サウサンプトンも、自軍の戦術を体現できるプレーヤーを手に入れた。リバプールも、南野がサウサンプトンで成長すれば大きな収穫になる。まさに“Win-Win”の契約だ」

 カウリー氏の言うように、戦術面でサウサンプトンとリバプールの親和性は高い。サウサンプトンのプレースタイルは「ハイライン&ハイプレス」のアグレッシブなサッカー。前線の高い位置から激しくプレスをかけるスタイルは、リバプールのクロップ監督の志向と重なる。

 もっと言えば、南野の前所属先であるレッドブル・ザルツブルク、ラルフ・ハーゼンヒュットル監督の前所属先でザルツブルクと姉妹クラブのRBライプツィヒともつながる。南野にとって、サウサンプトンは理想的な移籍先だろう。

ハーゼンヒュットル監督も手放しで獲得を喜ぶ

 その証拠に、サウサンプトンのハーゼンヒュットル監督も南野の補強を手放しで喜んだ。「素晴らしい選手がやってきた。最初の練習から、南野は我々の助けになる動きを見せた。彼を迎えることができ、とてもうれしい」と微笑むオーストリア人指揮官は、26歳のアタッカーがサウサンプトンの大きな力になると証言した。

「南野がレッドブル・ザルツブルクでプレーし、リバプールでもトレーニングを積んだ。この経歴は、我々にとって間違いなく大きな助けになる。彼は戦術面で大事なポイントを習得している。プレッシングや相手ラインの裏に入る動き、ギャップを突く攻撃、クイックラン、スプリントを多用する点など、我々の戦術につながる動きを知る選手が入ったのは大きい。間違いなく助けになる。

 ユルゲン(クロップ)とも話をしたが、『彼に十分なプレー時間を与えるチャンスがなかった』と嘆いていた。ユルゲンいわく『南野は非常に特別な選手。状況判断が速く、判断力も良い。我々のプレッシングスタイルも理解している』と。私のチームでは運動量が強く求められるが、南野には走力もあるので問題ではない。南野は質の高さを示してくれると思うし、活躍の場を与えることができればいい。我々を助け、未来の成功につなげてほしい」

サウサンプトンでの南野の起用法は?

では、南野は新天地でどのような使われ方をするか。

 サウサンプトンの基本フォーメーションは4-2-2-2。南野は最前線の2トップの一角、もしくは攻撃的MFの「2」の位置でプレーすることになりそうだ。

 2トップのレギュラーは、得点力の高いダニー・イングスと、接触プレーに強いチェ・アダムズの2人。特に、得点源のイングスには故障が多く、南野にかかる期待は大きい。

攻撃的MFの「2」の位置でもチャンスがある

 また、攻撃的MFの「2」の位置でも出場チャンスはありそうだ。ポイントは、サウサンプトンの可変システムにある。ディフェンス時は4-4-2に変形し、攻撃的MFもサイドに場所を移して守備を行う。だがアタック時になると、攻撃的MFは中央部に絞る動きを見せる。大外のサイドアタックは味方のサイドバックに任せ、攻撃的MFは中央部でプレーするのだ。

 このシステムなら、味方選手と良い距離感で連携&連動し、ターンやワンツー、フリーランなどで好機を呼び込む日本代表アタッカーの特性を活かせるに違いない。さらに、ハーゼンヒュットル監督の言葉通り、「前線からのプレス」や「攻→守のネガティブトランジション」でも大きな影響力を発揮できるだろう。指揮官が大きな期待を寄せているのも納得がいく。

 今年の1月で、南野はプレミア挑戦2年目を迎えた。リバプールでの鬱憤を晴らし、武者修行先のサウサンプトンで特大のインパクトを残すことができるか。

 ひとつだけ間違いないのは、今季後半戦が日本代表FWにとってキャリアの重要なターニングポイントになるということだ。

文=田嶋コウスケ

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