「スーパーゴール。GKは、まったくのノーチャンスだ」

 南野拓実がサウサンプトンのデビュー戦で決めた初ゴールを、英BBC放送は速報でそう伝えた。

 チャンスにサウサンプトンの選手たちが前方に駆け上がっていくと、ボールは左サイドバックのライアン・バートランドのもとへ。前所属先のチェルシーでチャンピオンズリーグ優勝を経験したイングランド人は、日本代表の足元に速い弾道のパスを送った。

 すると、南野は右足で前方にトラップ。このファーストタッチでマーカーを追い越してペナルティエリアに侵入し、左足でニアサイドをぶちぬいた。レンタル先のサウサンプトンで再スタートを切った南野が、新天地で初ゴールを決めた瞬間だった。

攻守とも加入直後と思えない「南野らしさ」が

 移籍発表から4日後に行われたニューカッスル対サウサンプトン戦。「すぐに我々を助けてくれるはずだ」と、試合前の会見でラルフ・ハーゼンヒュットル監督が期待していた通り、南野は先発メンバーに抜擢された。

 ポジションは4-2-2-2の攻撃的左MF。守備時には敵を執拗に追いかけ、攻撃時になれば前線に顔を出してパスを呼び込んだ。「得点以外の場面でも良い動きをしてくれた」と試合後の指揮官が褒めていたように、戦術タスクをこなしがら、随所に「南野らしさ」を発揮した。

 加入直後にも関わらず、効果的なプレーが光った。

 チームがポゼッションを失えば、即座に敵に寄せてボール奪取を試みる。敵のサイドバックが攻撃に参加すると、南野は執拗に追いかけてスライディングタックル。サウサンプトンは攻撃時、ボックス型の4-2-2-2、守備時は中盤がフラットな横並びになる4-4-2に変形する可変システムである。

 その中でも、中央部(アタック時)とサイド(ディフェンス時)へのポジション移動をスムーズにこなした。前線に顔を出すタイミングを含め、指揮官の要求をピッチ上で体現したのだ。

 チームメートたちも、南野を信頼してパスを出しているようだった。リバプール時代はフリースペースでボールを要求しても、なかなかパスが出てこなかった。だがサウサンプトンでは、チームが求めている動きをすぐに実践し、仲間の信頼を一気に掴んだように見えた。

 試合は2−3で敗れたことや、後半に存在感が希薄になったこともあり「完璧」とは言えない内容だったが、それでもチーム合流からわずか4日で行われたデビュー戦ということを踏まえれば、まさに上出来のパフォーマンスだった。

南野から見たこの試合、2つのポイント

 この試合のポイントは2つあったように思う。ひとつは、デビュー戦で目に見える結果を残したこと。ハーゼンヒュットル監督はもちろん、チームメートの信用もさらに深まり、ゴール前でラストパスが入る機会は今後増えるだろう。南野本人にとっても大きな自信となったに違いない。

 もうひとつは、サウサンプトンのプレースタイルにフィットし、フル出場を果たしたこと。この点も、シーズン後半戦をサウサンプトンで戦う上で大きな収穫だ。

 ファーストチームの全体練習は2回しか参加していないが、南野の動きはサウサンプトンに長く在籍しているかのようだった。鍵となったのは、前所属先であるレッドブル・ザルツブルクのプレースタイルだ。

「我々のサッカー用語をすでに取得している」

 同じレッドブル系列で、ザルツブルクの姉妹クラブにあたるRBライプツィヒの監督を18年5月まで務めたのがハーゼンヒュットル監督である。両クラブは「前線からの激しいプレス」や「攻守の切り替え」を重視し、「カオス状態にある密集地帯をうまくコントロールする」という基本コンセプトを共有している。

 ハーゼンヒュットル監督は「南野は我々の使っているサッカー用語をすでに習得している」と評価していたが、その学びの場は、2015年から5年にわたり在籍したレッドブル・ザルツブルクだった。今思えば、この期間は南野にとって非常に有意義だった。

 振り返ると、ハーゼンヒュットル監督がイングランドに渡ってきた18年12月当時、サウサンプトンには戸惑いが見えた。昨年1月までサウサンプトンに在籍し、ハーゼンヒュットル監督の下でもプレーした吉田麻也は、チームの変化を次のように説明していた。

「練習もプレスのトレーニングばかりに」

「新しい監督は、運動量とプレスが特長。練習もプレスのトレーニングばかりになった。この高いインテンシティを続けられるどうかかが鍵になる。これまで、サウサンプトンはそういうサッカーをしてこなかったので、チーム全体で適応していくことが必要。フィジカル面で慣れることも大事だが、頭の中でも戦術を理解し、体が自動的に動くようにしないといけない」

 ハーゼンヒュットル監督の前任は、ウェールズ人のマーク・ヒューズだった。指揮官の志向をわかりやすく言えば、英国式の手堅いサッカー。5バックで守備を固め、ロングカウンターからゴールを狙うスタイルを徹底していた。

 だが、ポゼッションサッカーを得意とするサウサンプトンのプレースタイルとの乖離が目立ち、成績不振に陥ったことで解任。そこで、クラブ首脳陣が白羽の矢を立てたのが、レッドブル・グループのRBライプツィヒを強豪クラブに仕立てたハーゼンヒュットルだった。

“オーストリアのクロップ”の異名も

 ハーゼンヒュットル監督と言えば、前線からの「ハイプレス」と、最終ラインを高い位置に置く「ハイライン」の戦術が代名詞だ。

 戦い方が似ていることから、「オーストリアのクロップ」の異名を持つ。当然、選手にはアグレッシブな動きや体力、戦術理解が求められ、「練習も大きく様変わりした。休みもなくなり、練習はタフで、インテンシティも高くなった」(吉田)という。そのせいか、就任当初のサウサンプトンは後半になると息切れを起こしたり、選手によっては動きに迷いが見えた。

 最たる例が、サウサンプトンで2トップの一角に入るチェ・アダムズだろう。

 英2部のバーミンガムで22ゴールを叩き出した実績が評価され、ハーゼンヒュットル監督が獲得を決めた。

 ところが、在籍1年目の昨シーズンは30試合に出場しながら、たった4ゴールと不振に陥った。前線からのプレスなど指揮官の求める動きを意識しすぎるあまり、持ち味であるゴール前の怖さが半減した印象だった。ようやく彼らしいプレーが出始めたのが、在籍2季目となる今シーズンから。すぐにチームのスタイルにフィットした南野とは極めて対照的だ。

ザルツブルク時代の経験値が生きている

 一方でハーゼンヒュットル監督は、南野についてこう力を込めて語る。

「南野は、我々の戦術面で大事なポイントを習得している。プレッシングや相手ラインの裏に入る動き、ギャップを突く攻撃、クイックラン、スプリントを多用する点など、我々の戦術につながる動きをすでに知っている選手が入ったのは大きい」

 監督の言葉から考えると、在籍5年のザルツブルク時代に習得した戦術知識や動き方が、サウサンプトンでのデビュー戦ゴールにつながったと見ていいだろう。

 リバプール時代に味わった悔しさを晴らす土台は、すでに出来上がっている。

文=田嶋コウスケ

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