現地時間9日、澤村拓一のボストン・レッドソックス加入が決定との報道が出ました。日本球界屈指の剛球右腕がMLB挑戦でどれくらいの成績を残せるかを予想した記事を再公開します(初公開:2020年12月9日)

 NPBのスター選手がMLB挑戦を表明するのは、オフの恒例行事になりつつある。2020年も巨人の菅野智之(残留)、日本ハムの有原航平(レンジャーズ加入)、西川遥輝(残留)がポスティングで、ロッテの澤村拓一が海外FA権を行使してMLBに挑戦すると表明した。一方で、ロッテの石川歩はMLB挑戦を断念した。

 しかしながら2020年は尋常な年ではない。世界を覆った新型コロナウイルス禍によって、スポーツ界は壊滅的な打撃を受けた。MLBも162試合制が60試合となったうえに、レギュラーシーズンは無観客だった。

 しかも世界最大の感染者数のアメリカは、今も感染拡大が収まらない。さらにはMLBと選手会の労使交渉も明確な合意がないままである。来季がどんなシーズンになるのか、あるいはそもそも来シーズンがあるかどうかさえもはっきりしていない。

 こんな状況では石川歩のようにメジャー挑戦を断念するという選択肢もあるだろう。しかしたかだか15年、20年しかないプロ野球選手の現役生活で、MLB挑戦のタイミングは限られている。この先どうなるかわからないが、手を上げた選手たちの気持ちも十分に理解できる。

 2021年については流動的だという前提で、4人のメジャー挑戦者の可能性について考えていきたい。

菅野智之、有原航平は先発投手としてどうか

 野茂英雄がMLBに挑戦してから25年。NPBの一線級の先発投手は、MLBでも通用することがある程度明らかになってきた。こと先発投手に関しては日米で「互換性」があるのだ。

<21世紀以降にMLBに渡った主要な先発投手の移籍前年と1年目の成績>
石井一久
2001年12勝6敗175回 率3.39(ヤクルト)
2002年14勝10敗154回 率4.27(ドジャース)
松坂大輔
2006年17勝5敗186.1回 率2.13(西武)
2007年15勝12敗204.2回 率4.40(レッドソックス)
井川慶
2006年14勝9敗209回 率2.97(阪神)
2007年2勝3敗67.2回 率6.25(ヤンキース)
黒田博樹
2007年12勝8敗179.2回 率3.56(広島)
2008年9勝10敗183.1回 率3.73(ドジャース)
川上憲伸
2008年9勝5敗117.1回 率2.30(中日)
2009年7勝12敗156.1回 率3.86(ブレーブス)
ダルビッシュ有
2011年18勝6敗232回 率1.44(日本ハム)
2012年16勝9敗191.1回 率3.90(レンジャース)
岩隈久志
2011年6勝7敗119回 率2.42(楽天)
2012年9勝5敗125.1回 率3.16(マリナーズ)
田中将大
2013年24勝0敗212回 率1.27(楽天)
2014年13勝5敗136.1回 率2.77(ヤンキース)
和田毅(※12、13年はトミー・ジョン手術の影響で登板なし)
2011年16勝5敗184.2回 率1.51(ソフトバンク)
2014年4勝4敗69.1回 率3.25(カブス)
前田健太
2015年15勝8敗206.1回 率2.09(広島)
2016年16勝11敗175.2回 率3.48(ドジャース)
菊池雄星
2018年14勝4敗163.2回 率3.08(西武)
2019年6勝11敗161.2回 率5.46(マリナーズ)

NPBのエース級ならMLBでも……

 ざっくりしたデータではあるが、NPBでエース級だった投手はMLBでも2けた勝つくらいの活躍をしていることがわかる。

 先ほど挙げた11人の投手の成績の平均は、以下の通り。

 NPB 14.3勝5.7敗180.4回 率2.37
 MLB 10.1勝8.4敗147.8回 率4.04

 勝利数は30%減って敗北数は54%増える。投球回数は18%減って防御率もかなり悪化する。

 NPBのエース級は少なくともMLBのローテの3、4番手は務まるということだ。今季は120試合だったが、菅野と有原の成績を143試合制に換算したうえで、来季のMLBが162試合制に戻るとして、単純比較であるが数字を想定すると……。

<菅野智之>
2020年17勝2敗163.2回 率1.97(巨人)
2021年12勝4敗134.1回 率3.41(MLB)
<有原航平>
2020年10勝11敗158.1回 率3.46(日本ハム)
2021年6勝17敗129.2回 率5.99(MLB)

 菅野はローテを担って優秀な成績。イメージ的にはヤンキース時代の黒田博樹や田中将大に近いか。先発完投は求められないから故障のリスクは減るだろう。

 有原はマリナーズに移籍した菊池雄星に近いか。ローテの3、4番目というレベル。今季は不本意な成績だったので、もう少し成績は良くなる可能性はあるだろう。

上原、高橋尚のように救援転向パターンも

 ただ先発投手は、開幕から早いうちに結果を出す必要がある。松坂大輔とともに2007年にヤンキースに移籍した井川慶は6回の先発で結果を出せなかったためにマイナー落ちした。

 上原浩治や高橋尚成のように、救援に転向する例もある。

 菅野、有原ともに抜群の成績でなくてもデビューからQS(先発で6回以上投げて自責点3以下、先発投手の最低限の責任とされる)をキープしていく必要はあるだろう。

澤村はリリーフとして通用するのか

 続いては澤村である。救援投手もNPBの成績からある程度予測ができる。救援投手に関しては「長く活躍できるか」がポイントだ。

<NPBからMLBに移籍した主要な救援投手の移籍後2年間の成績>

大塚晶則(中日-パドレス)
 2004年7勝2敗2SV 34HD 率1.75
 2005年2勝8敗1SV 22HD 率3.59
高津臣吾(ヤクルト-ホワイトソックス、メッツ)
 2004年6勝4敗19SV 4HD 率2.31
 2005年2勝2敗8SV 4HD 率5.20
斎藤隆(横浜-ドジャース)
 2006年6勝2敗24SV 7HD 率2.07
 2007年2勝1敗39SV 1HD 率1.40
岡島秀樹(日本ハム-レッドソックス)
 2007年3勝2敗5SV 27HD 率2.22
 2008年3勝2敗1SV 23HD 率2.61
小林雅英(ロッテ-インディアンス)
 2008年4勝5敗6SV 2HD 率4.53
 2009年0勝0敗0SV 0HD 率8.38
薮田安彦(ロッテ-ロイヤルズ)
 2008年1勝3敗0SV 0HD 率4.78
 2009年2勝1敗0SV 0HD 率13.50
建山義紀(日本ハム-レンジャース)
 2011年2勝0敗1SV 4HD 率4.50
 2012年1勝0敗0SV 0HD 率9.00
平野佳寿(オリックス-ダイヤモンドバックス)
 2018年4勝3敗3SV 32HD 率2.44
 2019年5勝5敗1SV 15HD 率4.75

 斎藤隆を除く投手の2年目の成績が下落している。

澤村の「マネーピッチ」が通用する期間は……

 NPBの一線級の救援投手は「マネーピッチ」と呼ばれる「決め球」を持っている。1年目はこれが通用して活躍できるが、2年目には研究されて通用しなくなるのだ。

 直近の平野佳寿で言えば、落差の大きなフォークで1年目はセットアッパーとして活躍したが、2年目に相手打者はこの球に手を出さないようになり、成績は下落した。

 もちろん1年目から通用しなかった救援投手もいる。また斎藤隆や岡島秀樹、そして先発から転向した上原浩治のようにMLBでさらに進化して長く活躍した投手もいる。

 澤村拓一は伸びる速球とフォークの組み合わせで活躍してきたが、彼の場合もNPB時代のマネーピッチがそのまま通用する期間は長くはないと考えるべきだろう。

 ただし救援投手の場合、ベテラン投手の方が生き残る可能性は高い。経験値が役に立つのだ。来季33歳の澤村だが、MLBの野球に適応すれば、長く実績を残す可能性はあるだろう。

秋山と筒香は今季、気の毒だった

 打者の場合は「NPBでこれだけの成績を残したから通用するだろう」というバックデータがほとんどない。

 MLBで打者として成功したNPB出身選手は3000本安打を打ったイチローと、30本塁打を1回、100打点を4回、3割を2回記録した松井秀喜だけだろう。辛うじて井口資仁、岩村明憲、青木宣親くらいがレギュラーで働いたと言えようか。

 今年、MLBに挑戦した筒香嘉智、秋山翔吾は気の毒の一語だった。

 試合数はわずか60試合、対戦チームは例年と異なり両リーグの同一地区のチームだけ。ダブルヘッダーは7イニングス制、そしてすべて無観客試合。そんな環境でいきなり野球をして結果を出さなければならない。

 筒香も秋山もNPBではゆるぎないレギュラー選手であり、不調であっても試合に出続けながら調整することを許された選手だった。

 しかしMLBでは数試合結果が出ないとスタメンを外される。また、打順や守備位置もめまぐるしく変わる。代打での出番もある。そんな中で結果を残さなければならなかった。

 2人の来季の活躍にも期待したいが、いずれにせよ打者の場合、現在のMLBではNPBの成績はそのまま通用するとは言えない。

フライボール革命による大きな変化

 ひとつには21世紀に入ってMLBの野球が激変したことがある。

 イチローがデビューしたころは、安打、盗塁で勝利に貢献する「スモールボール」も1つの考え方として存在した。しかし近年は「フライボール革命」によって「長打がなければ話にならない」という価値観が支配的になっている。

 イチローがMLBに移籍した2001年、両リーグの平均の本塁打数は600打席当たり17.5本だった。これが2019年には22本になっている。

 少し大げさに言えば、今では1番打者でも9番打者でも、外野手でも内野手でも捕手でも、本塁打が打てなければお話にならない、というスタイルになっている。

 西川遥輝は守備範囲の広い外野手であり、通算打率は.286。当代屈指のリードオフマンだ。そして盗塁王3回、盗塁成功率は.864と極めて高い。MLBでも韋駄天として活躍することはできるかもしれない。

 しかしながら本塁打数は9年で51本。年平均は5.7本。MLBに行けばさらに減少するだろう。足は抜群に速く走塁技術は高いが、本塁打はほとんどない外野手をMLBは欲するか、という視点は確かにある。

広島・菊池も2019年MLBを目指したが

 2019年、広島の菊池涼介はポスティングによるMLB移籍を目指したが、応札する球団はなかった。菊池は二塁手としては驚異的な守備範囲を誇る。またNPBでも屈指のバントの名手だ。しかし本塁打は9年で95本。MLBではニーズがなかった。

 西川遥輝は12月3日、ポスティング申請手続きをしたが、応札する球団はないか、あってもマイナー契約でのオファーではないかと考える。西川がMLBに挑戦する可能性はそれほど高くないだろう。

 アメリカでは今月から新型コロナウイルスのワクチンの接種が始まる。これが劇的に功を奏して感染者数が減少すれば、来季、162試合でのレギュラーシリーズが行われる可能性はある。そうなれば、NPBからMLBに移籍した選手が、新天地で活躍する姿を見る可能性もあるだろう。

 新型コロナ禍の進展も視野に入れて、今後を見守りたい。

文=広尾晃

photograph by Jjji Press/Nanae Suzuki