2.11広島、SANADAを下した飯伏幸太の前に現れたのは内藤哲也だった。

飯伏幸太(上)とSANADA

 1.4の東京ドームで飯伏に敗れ2冠を失った内藤だが、今回は2本ではなく1本だけに挑戦することを明言、2.28大阪城ホールでのIWGPインターコンチネンタル選手権試合が決まった。同時に、2日間にわたって開催される大阪でのビッグマッチでは最高峰のベルトであるIWGPヘビー級王座を賭けた戦いが行われないことも決まった。

 ヘビー級の選手が巻くことができるシングルのベルトが4種類存在する現在の新日本プロレスだが、海外色の濃いIWGP USヘビー級を除くと、IWGPヘビー級、IWGPインターコンチネンタル、NEVER無差別級はその3つの順番通りに価値があるとされている。

 アントニオ猪木から始まるIWGPヘビー級王座の歴史は新日本プロレスの歴史そのものだ。現役の選手ではオカダ・カズチカがIWGPヘビー級至上主義であることを明言し、棚橋弘至も1.30でNEVER無差別級に挑戦するにあたってIWGPヘビー級が最高峰であるとした。内藤も2冠獲得を目指す際に、IWGPインターコンチネンタル王座を持ちながらIWGPヘビー級王座を同時に保持することを「偉業」と称してきた。

 しかし今、その価値の順番は曖昧になってきている。

挑戦者がどっちのベルトを欲しいかを選べばいい

 きっかけは、2本のベルトを同時に防衛するようになったことだ。内藤は、史上初の東京ドーム2日連続開催となった2020年の1.4と1.5でIWGPインターコンチネンタル、IWGPヘビー級の順にベルトを1本ずつ獲得した。『伝説創るイッテンゴ』という大会のキャッチコピーが示す通り、それは伝説になる出来事のはずだった。

 KENTAの襲撃によってなし崩し的にダブルタイトルマッチが組まれはしたものの、この時点で内藤は手に入れた2本のベルトに対し「プロレス界のベルトの頂点はIWGPヘビー級王座」「挑戦者がどっちのベルトを欲しいかを選んでやればいい」と語っていた。

 ところが、KENTAとの試合が終わっても、1本ずつに分けてのタイトルマッチが開催されることはなかった。2本あれば2本まとめて奪い合うというこの状況は、まずIWGPインターコンチネンタル王座の価値を曖昧にした。ダブルタイトルマッチは、IWGPヘビー級という最高峰のベルトがそこにある以上、IWGPヘビー級選手権と同じことだった。

IWGPヘビー級は最強ではあるが最高ではない?

 今年の1.4で内藤から2冠を獲得し、1.5でジェイ・ホワイトを下して「神になった」飯伏は「2本のベルトを1本にする」ことを望んだ。飯伏にとって、神と崇める中邑真輔が2番手ではなく反骨のアイデンティティーとして唯一無二の存在にしていたIWGPインターコンチネンタルは思い入れのあるベルトだ。「最強」のIWGPヘビー級と「最高」のIWGPインターコンチネンタルという2つを1つにする。それは「プロレスを広める」「世界一の競技にしたい」という自身の夢のためであり「結局、1つを賭ける人っていうのはいなかった」ことで統一の方向に動いた。

 しかし、今度はIWGPヘビー級の価値が曖昧になってしまった。最高峰であるはずなのに、最強ではあるが最高ではない、という矛盾を抱えることになり、内藤はそれを見過ごせずに今回の挑戦表明に動いた。

IWGPインターコンチネンタルのみに挑戦することで

 2.14の試合後には、史上初の2冠王者となった時と同じく「頂点はIWGPヘビー級王座」と言い「IWGPヘビー級王座にあこがれ、IWGPヘビー級王座を目指して新日本プロレスへ入り、そして歩んできた男の、IWGPヘビー級王座への敬意」で統一に反対したことをはっきりさせた。IWGPインターコンチネンタルのみに挑戦することでIWGPヘビー級の価値を再び確かなものにしようとしているのだ。 

 1.30の愛知でのNEVER戦が前哨戦でのやり取りからタイトルマッチの内容そのものまで全ての部分で広島での2冠戦よりも注目を集めた。IWGP USヘビー級のベルトはKENTAがジョン・モクスリーを追ったことでAEWとの初遭遇を生んだ。高橋ヒロムは東京ドームのメインイベントでIWGPジュニアヘビー級のタイトルマッチをすることを夢として掲げているし、タッグ戦線も盛り上がりを見せている。相対的に、IWGPヘビー級王座の存在感が小さくなってしまっている。

棚橋が語った2本のベルトの存在意義

 かつて、やはり最高峰であるはずのベルトの価値が議論されたことがある。2014年の1.4東京ドーム大会では、IWGPヘビー級選手権が第9試合、IWGPインターコンチネンタル選手権が第10試合で行われた。ファン投票によって当時の新日本プロレスを象徴する中邑vs棚橋が最終試合に選ばれたが、勝利した棚橋はあくまでも「いまの僕はIWGPに戻れない状況」であるとし、ベルトの価値は逆転しなかった。

 その際に棚橋は「白(IWGPインターコンチネンタル)と黒(IWGPヘビー)っていう対立概念が、新日本にいい方向に作用していく」とも語り、2本のベルトが存在することの意義を明確にしている。

全てはIWGPヘビー級という最高峰のベルトがあるから

 ベルトが複数あることによって、ベルトを巡る争いだけではなく、異なるベルト同士での争いも生まれる。1.30のNEVER戦にあたり、棚橋はそれを「ベルト同士の陣取り合戦」と称した。歴史的な価値は絶対的なものだが、2014年に試合順が逆転したように瞬間瞬間での価値はファンの支持で決まるものだ。だからこそ、直接の対戦相手でなくともプライドの張り合いによってそれぞれの試合内容が高まり、それを見たファンはより満足することができるようになる。

 つまり、どんなことがあろうとも、全てはIWGPヘビー級という最高峰のベルトがあるからこそ、なのだ。

 果たして内藤の狙いは実現するのか、焦らずに試合を待つことにしよう。

 最後に、気になることがある。

内藤がIWGPインターコンチネンタルの1本に挑む最大の理由

 内藤は、IWGPインターコンチネンタルの1本だけに挑戦する大義名分を前述のように明言している。しかし、その1本だけを選んだ最大の理由は別にあるとも仄めかしている。まだ明らかにされていないそれは何なのだろうか。

 2つのベルトの試合順が入れ替わった2014年の1.4、本来であれば東京ドームの最後を飾るはずだったのは、オカダ・カズチカvs内藤哲也のIWGPヘビー級選手権だった。G1クライマックスを制して夢舞台の切符を手にしていた内藤は、ダブルメインイベントという扱いではあるものの実質セミへの降格という屈辱を味わった。内藤はあの時の屈辱を晴らそうとしているのかもしれない。

 IWGPヘビー級選手権とIWGPインターコンチネンタル選手権のその瞬間の価値、つまりファンの支持を逆転させ、最高峰であるはずのIWGPヘビー級選手権を差し置いて、東京ドームのメインで戦う。

 そうであれば、その対戦相手は同じロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンのメンバーであり、師弟関係でもある高橋ヒロムだ。昨年の3.3、大田区総合体育館で実現していたはずの、ファンが待ち望んでいる対戦。

新たな唯一無二の伝説が生まれる

 しかも、102kgの内藤は、ジュニアのベルトに挑戦することも困難ではない。

 IWGPインターコンチネンタル王座を保持したまま、IWGPジュニアヘビー級王座を保持する。伝説だったはずの2冠が当たり前になってしまった今、それは新たな、唯一無二の伝説になり得ることだ。ちなみに、IWGPジュニアヘビー級選手権を東京ドームのメインでやる、というヒロムの新たな夢も叶うことになる。

高橋ヒロム(左)と内藤哲也

 現時点では、全ては可能性の話でしかない。「この時間こそ、プロレスファンにとって一番楽しい時間であり、一番贅沢な時間」そう内藤が言うように、この状況を精一杯楽しもう。

 そして気付くことになる。これもまた、IWGPヘビー級のベルトが最高峰に位置しているからこそできることなのだ、と。

【2021年2月11日 広島サンプラザホール〈新日本プロレス:THE NEW BEGINNING IN HIROSHIMA〉第7試合 IWGPヘビー級・IWGPインターコンチネンタルダブル選手権試合 ○チャンピオン:飯伏幸太(27分51秒 カミゴェ→片エビ固め)●チャレンジャー:SANADA】

文=原壮史

photograph by Masashi Hara