どれだけの評価と期待をされているか。一目でわかる場面があった。

 1月10日のヘルタ・ベルリン戦の前半35分。アルミニア・ビーレフェルトの堂安律がペナルティースポットに立ってPKを蹴る準備を始めたのだ。

 過去10シーズンで25人の日本人選手がブンデスのピッチに立ったが、PKのキッカーを任されたのは、ハノーファーとニュルンベルクの2クラブで王様として君臨した清武弘嗣と、16−17シーズンに2本のPKを蹴った長谷部誠だけだ(ドイツ杯のPK戦でキッカーを務めた場合はのぞく)。

 もっとも1月のヘルタ戦では、最終的にVARを経て判定がくつがえり、ビーレフェルトに与えられたPKは取り消し。堂安のPKでのゴールはお預けとなったわけだが……。

 すでにFKやCKでもキッカーを務めてきた堂安が、チーム加入から半年足らずで大事なPKまで任されるとは。相当なインパクトがあった。

堂安の存在感を証明する多くの記録

 確かに、彼のビーレフェルトでの存在感は多くのところで認められている。

 ブンデスリーガ公式サイトによる月間最優秀ルーキーの3人の候補にすでに3回選ばれている。

 21節終了時で、「キッカー」誌の週間ベストイレブン2回(日本人では遠藤航と並んでトップ)。

 もちろん、堂安の攻撃での貢献度の高さはピッチの上での数字にも表われている。例えば、以下の数字ではすべてチームトップを記録している。

・シュート数 
・クロス数
・ドリブル数

 さらに、ファールを受けた数がリーグ全体で2番目に多く、47回を数える。

 クラブが2部から1部に上がってきたばかりの今シーズンは、ゴールキックなどで自分たちから攻撃を始められるシチュエーションをのぞけば、カウンターの回数も必然的に多くなるわけだが、そうした局面で堂安が孤軍奮闘を見せつつも、サポートの数が少ないためにファールで止められがちな部分はある。

 また、2月7日に予定されていたブレーメン戦が積雪のために延期となり、ブンデスリーガの脆弱なデータベースでビーレフェルトとブレーメンの一部にバグが発生しているため、詳細な走行距離やスプリント数を紹介できないのだが、堂安が守備でも自陣のペナルティーエリアまで戻って身体を張っている姿を記憶している人も少なくないだろう。

 そんな堂安がチームで中心となっている理由として、興味深いものが2つある。

【1】考えないでも身体が動くことの重要性

 1つ目が、得点とシュートの形だ。ここまで消化試合が1試合少ないながらもシュート数はリーグ全体で12番目に多く、MFのなかでは3番目だ。

 全38本の内訳は以下のとおり。

・左足 31本(ゴールが1つ)
・右足 6本(ゴールが2つ)
・ヘディング 1本
(参照:Wyscout)

 興味深いのは、3ゴールの内で2点は右足で決めたという事実だ。

 彼は「週刊プレイボーイ」の自身の連載ページのなかで今季決めた2つの右足のシュートについてこう語っている。

昨年10月17日のバイエルン戦のゴール:
「中を切られてるから、縦にドリブルして右足で打とう」

今年1月20日のシュツットガルト戦のゴール:
「ほとんど何も考えてなかったです。身体が勝手に動いてくれた感じ」

 この2つの違いは、サッカーの真理をついている。

「本当は考えたくないんだよ! 考えない方がプレーが速いし、良いプレーが多い」

 これは、チャンピオンズリーグ(CL)でベスト4に進出したあとの内田篤人のコメントである。考えて決断したのではなく、自然と身体が動いたと本人が知覚しているときの判断でないと、競技レベルが上がったときに意味をなさないことを示す象徴的なコメントだ。

 相手と対峙するスポーツの場合、「相手がこう来たから、自分はこのように動こう」などと判断している時間はないケースがほとんど。レベルが上がれば上がるほど、じっくり考えているようでは、失敗する。

 正確にいえば、選手はどちらのケースでも脳を使っている。

 ただ、選手が「脳を使って判断しているな」と自覚するよりも速く、脳が身体に指令を送り、動いている状態がベストだということだ。それができるかは選手の実戦と練習の蓄積に左右される。

8%の期待値のシュートを右足で考えずに決める

 なお、ブンデスリーガでは昨シーズンの途中からアマゾン ウェブ サービスと提携して、試合中のデータの高度化を図っている。ゴールが決まったあとに提示される、その「ゴールの期待値」もその1つだ(期待値というのは、ゴールネットを揺らしたシュートが放たれた位置とゴールへの角度、相手の状況などを、過去の膨大なゴールのデータに照らし合わせて計算される)。

 それによると、両方のゴールの期待値は以下のようになる。

バイエルン戦のゴール:  7%(同じシチュエーションで放たれたシュートが100本あったら、7本しか入らないようなシュートという意味)

シュツットガルト戦のゴール: 8% 

 同じような難易度のシュートを、ともに利き足ではない右足で決めた意味は大きい。しかも、シュツットガルト戦のゴールは試合終盤、後半41分のものだ。判断力や集中力、そして体力面でもキツくなる時間帯で、ほとんど考えていないと感じるほどのスピードでの脳が判断したプレーからゴールを決めたという事実は、進化を表すものだろう。

 実際、最近の堂安は利き足ではない右足の練習も左足と同じ量をやっていて、特に左右のバランスもまた気を使っているという。その種の取り組みは嘘をつかないということだろう。

【2】5試合ごとのドリブル成功率の推移

 さて、堂安がチームで中心となっている理由の2つ目がドリブル数だ。

 こちらは、1試合少ないなかでもリーグで5番目に多く、132回を記録している。

 ここまでビーレフェルトは20試合をこなしているのだが、5試合ごとの成功率の推移は以下の通り。

1〜5試合目 41.6%
6〜10試合目 55.4%
11〜15試合目 61.8%

 成功率の向上の要因として見逃せないのは、ドリブルをしかける際のバリエーションと判断の向上だ。

 堂安と言えば、右サイドで開いてボールを受け、そこからカットインして、左足でシュートを打つというプレーを思い浮かべる人は多いだろう。

 そうしたプレーは、ブンデスリーガの舞台でも強みとなっているのだが、むしろそれ以外のプレーが良くなっている。

 中に行くとフェイントをしかけて、縦にしかけて相手を抜くプレー。あるいはカウンターのときにあえて外側に逃げるようにドリブルでボールを運んで、相手ディフェンダーを引き出して、味方のためのスペースを作るようなプレー。それらが効いている。

16〜20試合目にドリブル成功率が落ちている意味

 ただ、ドリブル成功率については気になる点もある。

16〜20試合目(2月15日のバイエルン戦まで) 38.2%

 成功率が落ちているのだ。その最大の原因は20試合目が王者バイエルン戦で、苦しい状況でボールを受けることが多かったことと、後述する右膝の負傷により前半41分に交代を余儀なくされたことだろう。本来の力を発揮する前で終わり、ドリブル成功率にも大きな影響が出た。

 18試合目から各チームとの2度目の対戦に入っており、堂安のプレーを相手が研究してきているのも事実だ。

 相手に対策を講じられたなかでどれだけのプレーを見せられるのか。真価を問われるのは、これからだろう。

選手の総年俸はバイエルンの24分の1?

 最後に、ビーレフェルトの現状について触れておく。

 昨シーズンは遠藤航のいる名門シュツットガルトをおさえて2部で優勝したのだが、チームの総予算は今季の1部のなかで他を引き離して最下位に沈む。

 以下は昨シーズンの推定額ではあるが、選手の総年俸は首位バイエルンの3億1202万ユーロ(約400億円)のわずか24分の1となる1320万9000ユーロ(約17億円)だ。

 そんなチームが、丁寧にパスをつないでいくというサッカーで11年ぶりに1部で戦いに挑んでいる。

 現在の順位は、入替え戦に回る16位。ただ、1試合消化が少ないにもかかわらず、1つ上の15位ヘルタと勝ち点差はない。

 面白いのは、こんなデータだ。

現在の順位表の上半分にいるチームとの対戦成績: 2分9敗
現在の順位表の下半分にいるチーム相手の成績: 5勝1分3敗

 リーグ上位クラブとの戦いでは力負けをする。ただ、中位以下のチームとの試合ではチームの取り組むサッカーの有効性を証明するかのように、勝ち越しているのだ。

 バイエルンとのシーズン前半戦での対戦では1−4で返り討ちにあったが、ハンス・ディーター・フリック監督もエースのロベルト・レバンドフスキも「ビーレフェルトの戦い方は素晴らしい」と語ったほど。戦い方が“ブレた”と言える試合は、5バックをキックオフ時から採用して0−2で敗れた10月31日のドルトムント戦くらいだ。

移籍金の支払いには保守的に

 昇格したばかりで、予算も最少。それなのに、ブンデスリーガ1部のチームと真っ向からぶつかる。そんな興味深いチームで堂安が大きな期待と役割を背負っているという点は、もう少し評価されてもいいかもしれない。

 なお、現在の堂安はPSVアイントホーフェンから今シーズン終了後までのレンタル移籍中の身だ。規定額を支払えば買い取れる完全移籍のオプションもついていると言われるが、権利を行使するためには550万ユーロが必要とみられている(なお、フローニンゲンからPSVに移籍したときの移籍金は750万ユーロ)。

 ただ、ビーレフェルトはお金がない。今季はユースからの昇格と他クラブへのレンタル移籍を終えて戻ってきた選手を除き10選手を獲得しているが、移籍金を支払って獲得した選手は1人もおらず、そのうちの5人がレンタル移籍でやってきた選手だ。

 だから、クラブの経営部門責任者であるマルクス・レイェクはこう話している。

「我々は保守的に動く。堂安の完全移籍に必要不可欠な移籍金については、“今以上の何か”が起こらなければ、払うことはおろか、払おうとする意志さえ持てないものだ。ただ、この先にクリエイティブな可能性がもたらされることはありえるが……」

厳しい移籍事情の中、堂安に求められるもの

 なお、PSVは堂安のポジションに元ドイツ代表のマリオ・ゲッツェをすでに獲得しており、ロジャー・シュミット監督が指揮を執り続けるかぎりは、売却の方針があるという。しかも、コロナ禍でどのクラブも財布の紐を締めており、移籍は例年とは比較にならないほどに厳しいものになる。

 となれば、堂安に求められるのは、ビーレフェルトで圧倒的な存在感を放っている現実に満足するのではなく、現状をさらなる成長のための糧とすること。

 2月17日時点では詳細がアナウンスされていないバイエルン戦での右膝の怪我は気がかりではある。

 堂安が今以上の活躍をすれば獲得を望むクラブも現われるだろうし、ビーレフェルトの残留もかなうはずだ。

 そのときには、ドイツサッカー界で夢とロマンのパスサッカーを実現させたクラブの名前とともに、堂安の存在も長く語られることになる。そして、それこそが理想的なシチュエーションであるのは間違いない。

文=ミムラユウスケ

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