雑誌「Sports Graphic Number」と「NumberWeb」に掲載された記事のなかから、トップアスリートや指導者たちの「名言」を紹介します。今回は2年ぶり2度目の全豪オープン制覇を成し遂げた大坂なおみにまつわる、今回の全豪での5つの言葉を名場面写真とともに振り返ります。

<名言1>
今はナンバーワンを必死で追いかけているという感じじゃない。どの試合もできる限りのプレーをしたいというだけ。
(大坂なおみ/NumberWeb 2021年2月8日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/846938

◇解説◇
 1年前の全豪オープンで、大坂はショッキングな敗戦を味わっていた。ディフェンディング・チャンピオンとして臨みながらも、当時まだ15歳のコリ・ガウフに屈したのだ。

「あの頃はいろんなことがあって、自分の人生について考えさせられた。私はなぜテニスをしているのか、誰かに何かを証明するためなのか、自分が楽しくて喜びを得たいからなのか……」

 全豪ののちに開催されたフェドカップで大坂はこのように語っていたという。心身ともにダメージを受けた状態のまま臨み、この大会でも敵地スペインで敗戦を喫するなど、明らかに変調をきたしていたのだ。

 ただその難しい状況を乗り越えたことによって、大坂はメンタル的にも一回り強くなった。それは今回の全豪での戦いぶりを振り返れば明らかだろう。

 第3シードとして臨んだ全豪に向けては、一戦一戦全力で戦うと宣言していた。「その結果、もしまた1位になることができるなら喜んで受け入れたい」とも。今大会での優勝で、再び世界ナンバーワンの座がはっきりと見えてきている。

ミスが多くても“幸運の蝶”が

<名言2>
今日はあんまりいいプレーができなかったし、アンフォーストエラーも多分普段より多かったけど、その状況でも踏ん張れたことには満足している。
(大坂なおみ/NumberWeb 2021年2月13日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/847000

◇解説◇
 今大会の大坂で話題となったのが、「幸運の蝶」が舞い降りた瞬間だ。

大坂なおみに貼り付いた「幸運の蝶」©Getty Images

 オンス・ジャバーとの3回戦、第2セット第6ゲームに“ハプニング”は起きた。大坂のサービスゲームながらブレークバックのピンチを迎えたタイミングで、足首の辺りに蝶が止まる。それに気づいた大坂がコートサイドにやさしくエスコートしたものの、今度は大坂の顔にピタリと貼りついた。

 全豪の会場は近くに川が流れていて、昆虫の乱入が結構多いのだという。ただそんなハプニングにも大坂は動揺せず、きっちりとキープして勝利につなげた。

 ハプニングすら味方につけた感のある大坂だが、コメントにあるようにこの試合は完璧だった1、2回戦ほど上手くいった印象はなかったようだ。それでも「踏ん張れたことには満足している」と話した通り、メンタルがやすやすと崩れない“新たな強さ”を見せてくれた一戦でもあった。

 なお試合についての冷静なコメントとともに、観戦に訪れたファンに対して「オージー、オージー、オージー、オイオイオイ! っていう掛け声が好き」と感謝を伝えている。なおみ節も相変わらず健在だ。

まるで名棋士のような“データと直感”の融合

<名言3>
試合を通してちょっといろいろ考えすぎていたところがあったけど、余計な考えが吹っ切れた感じだった。あのあとは直感をベースにプレーするようになったと思う。
(大坂なおみ/NumberWeb 2021年2月15日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/847010

◇解説◇
 大坂にとって今大会最大のピンチは、4回戦のガルビネ・ムグルサ戦だった。

“直感型”の大坂だが、データも有効活用するように©Hiromasa Mano

 ムグルサは2016年全仏、2017年ウィンブルドンのチャンピオンで、世界1位も経験した実力者である。4回戦屈指の好カードは第3セットまでもつれ、勝利に近づいたのはムグルサだった。大坂は第8ゲームでブレークポイントを握りながらもキープを許し、3-5で迎えたサービスゲームでは15-40とマッチポイントまで追い詰められたのだ。

 しかしそこから大坂の反撃が始まる。深く鋭くなったショットでキープに成功すると、第10ゲームでブレーク。その勢いのまま2ゲームを連取して勝ち切ったのだ。

 直感型のテニスと言われる大阪だが、ここ最近、フィセッテ・コーチの用いるデータも重視するようになった。同コーチも「なおみはどんどんデータに熱心になっているよ」と認めるほどである。

 ただし、である。

「いくらたくさんの情報があったとしても、最後は自分自身。お決まりのやり方に従うことが全てじゃない。試合の中で自分なりに相手を分析して、そこにウィムが言っていたことも考え、合わせている」

 大坂はこのようにも話している。将棋でも数多の対局での経験値が“直感”につながる――と語った名棋士がいるが、23歳の大坂がすでにデータと直感の融合を覚えつつあるとしたら、凄まじい成長と言えるだろう。

食べすぎちゃった&セリーナ戦快勝も、憧れは変わらないワケ

<名言4>
隔離期間に食べすぎちゃった。だって、それが一番の楽しみだったから。
(大坂なおみ/NumberWeb 2021年2月17日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/847042

◇解説◇
 あれほどまでの強さを見せていながらも、こんなホンワカとした発言をするのも大坂なおみである。

 今回の全豪オープン前、大会側が用意したチャーター機に陽性者がいたことで、メルボルン入りした錦織圭らが14日間一歩たりとも部屋の外に出られないという状況になってしまった。

 その一方で大坂はノバク・ジョコビッチやセリーナ・ウィリアムズらも参加したエキシビションイベントに出場するため、アデレード入りしての調整となった。その際、チームスタッフとの練習中の笑顔の写真をSNSに投稿した。本来なら何ら問題ないはずだが、“メルボルン組”の一部選手から反発を受けて削除するという小さな事件があった。

 そういった外部の反応にナーバスになってもおかしくないところだが、あっけらかんと“食べ過ぎ”を告白するのは――大坂らしい愛嬌だ。

<名言5>
セリーナにはいつまでもずっとプレーしていてほしいから。子供みたいだけど、本当にそうなの。
(大坂なおみ/NumberWeb 2021年2月19日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/847075

◇解説◇
 大坂にとって憧れのテニスプレーヤーといえば、セリーナ・ウィリアムズであることは広く知られている。その“絶対女王”と、全豪準決勝の舞台で1年半ぶりに激突した。2018年全米ではセリーナの振る舞いに対して大ブーイングが起きるなど、揉め事の末に大坂が初のグランドスラム制覇を成し遂げたストーリーが生まれたが、今回の全豪はお互いがプレーに集中する好ゲームとなった。

 39歳になったセリーナが見せた地力はさすがだった。第1セット第1ゲームでいきなりのブレーク、第2セットには会心のウィナーを決めて雄叫びをあげるなど、自らに流れを引き寄せようとする姿は、計23度のグランドスラム制覇を成し遂げているプライドをひしひしと感じさせた。

雄叫びを挙げるセリーナ©Getty Images

 しかし、その女王に対しても大坂は怯まなかった。ウィナー数で20対12とセリーナを大きく上回り、6-3、6-4のストレート勝ち。大坂強しを世界中に知らしめる一戦になったと表現しても大げさではないだろう。

 ただそんな大坂だが、会見中に涙して途中退席したセリーナについて、記者からの質問を受けて冒頭の名言のように話したという。強さと同居する優しさも、大坂の魅力である。

 セリーナを下して迎えた決勝の相手は、ジェニファー・ブレイディ。昨夏の全米オープン準決勝ではフルセットの熱戦の末に勝利した相手だったが、今回の対決では6-4、6-2のストレート勝ちで2年ぶり2度目の全豪優勝を決めた。

 表彰式でのインタビューではブレイディの健闘を称え、「私のチームに感謝したいです。ずっと一緒にやってきた仲間。隔離期間も一緒にやってきて、チームは家族同然なんです。このトロフィーはみんなのもの」と感謝を口にした大坂。4度目のグランドスラム制覇は、また1つ違う次元の強さを見せつけたと言えるだろう。

文=NumberWeb編集部

photograph by Hiromasa Mano