英BBC放送の「マッチ・オブ・ザ・デイ」は、1964年から57年に渡って続いている長寿番組だ。

 週末に行われたフットボールマッチをおさらいする人気番組が、20日に行われたサウサンプトン対チェルシー戦を取り上げると、真っ先にフォーカスしたのが南野拓実の鮮やかな先制ゴールだった。

「即興性に満ちた素晴らしいゴールだ」

 5代目司会者の元イングランド代表FWガリー・リネカーが「リバプールからやってきたミナミノが素晴らしいゴールを決めました」と褒めると、元イングランド代表DFでセンターバック出身のマーティン・キーオンは、連係の取れていなかったチェルシー最終ラインの拙守をまず指摘した。そして、南野のゴール映像を見ながら、思わず舌を巻いた。

「インプロビゼーション(即興性)に満ちた、素晴らしいゴールだ。ボールを操るテクニックと状況判断が本当にクレバー。ナイスなボールタッチだ。ガリー(リネカー)、このシュート場面を見てくれ。キックフェイントでゴールキーパーが倒れたのを見逃さず、上手にネットに沈めた」

 キーオンの言葉通り、まさに技ありのゴールだった。MFネイサン・レドモンドがボールを受けたところで、南野はパスを要求しながらDFラインの背後に抜けるランをスタート。相手最終ラインのギャップを突くフリーランでスルーパスを呼び込んだ。

 ファーストタッチでペナルティエリア手前まで突き進んだ南野は、顔を上げてGKの位置を確認。さらに、背後から飛び込んでくるDFセサル・アスピリクエタのタックルも事前に察知した。そして、二度のキックフェイントで2人の間合いを外し、アウトサイドキックできれいに押し込んだ。

「この動きこそ、我々が見たかったミナミノ」

 現役時代はトッテナム、チェルシーなどで活躍した解説者のグレン・ホドルが「追走してきたアスピリクエタはシュートを読んでいたが、ミナミノは非常に落ち着いていた。この冷静さが実に素晴らしい。本当にクールで、美しいフィニッシュ」と称賛すれば、元イングランド代表MFのジョー・コールも「この動きこそ、我々が見たかったミナミノのプレー。躍動していたオーストリア時代のゴールそのものだ」と褒めちぎった。

 この得点で1−1のドローに持ち込んだサウサンプトンは連敗を6でストップ。南野個人としても、サウサンプトン移籍後の3試合で2点目をマークした。出場機会に恵まれず辛酸をなめたリバプール時代を思えば、レンタル先のサウサンプトンで幸先の良いスタートを切ったと言える。

南野の巧さとともにチームの狙いでもあった

 得点場面では南野の巧さが光ったが、このゴールはチームの狙いでもあった。試合後、南野の得点シーンについて問われたラルフ・ハーゼンヒュットル監督は、次のように明かしている。

「正直に明かせば、得点時のようなアタックをもっと増やしたかった。この1週間を使い、得点のようなプレーの練習を繰り返してきた。中盤を使いながら相手のCBを動かし、DFライン裏のスペースを利用する状況は、まさに想定していた通り。完璧に準備ができていたし、本当にいいゴールだった。だが、チーム全体でチャンスメークが十分にできていなかったし、実行する勇敢さも足りなかった。それでも、タクミのゴールは、ボールを保持している時のプレーではベストだった」

 相手DF間にできる隙間から背後に飛び出し、スルーパスを受けて得点チャンスを生み出す──。サウサンプトンの狙いは、トーマス・トゥヘル新体制に変わり、高い位置にラインを敷くようになったチェルシー最終ラインの「隙間」と「裏」にあった。ゴールを呼び込んだ南野のフリーランは、まさにオーストリア人指揮官の狙い通りだったわけだ。

 アシストしたレドモンドが「チェルシーに新しい監督がやってきて、新しいプレースタイルに取り組んでいる。この1週間、我々はチェルシーのプレー映像をかなり見ていたし、研究も進めていた」と説明した言葉からも、決して偶発的に生まれたゴールではなかったことが分かる。

「キュウリのような落ち着き」ってどういうこと?

 それでも、ペナルティエリア侵入後に見せた南野の落ち着き払ったゴールは、優れた状況判断と個人技、正確なフィニッシュワークの賜物だった。筆者が最も印象に残ったのは、試合後にMFジェイムズ・ウォード・プラウズに質問したインタビュアーによる「タクミのゴールはキュウリのように落ち着いていましたね(It was cool as a cucumber)」との言葉だ。

「キュウリのように」とは奇妙に聞こえるが、温度計が発明された際に外気温よりもキュウリ内の温度の方が低かったことから使われるようになった英語表現で、非常に冷静沈着な人をキュウリに例えることがある。

「キックフェイントにタクミの真価が」

 ウォード・プラウズは「タクミのフィニッシュは素晴らしかった。僕は彼の後ろにいたから、“決めろ”と大声で急かした。キックフェイントのボールタッチに、タクミのクオリティと真価が表れていたと思う。うまくゴールを決めてくれた」と答え、チームを束ねる主将として、日本代表アタッカーの冷静なフィニッシュを褒めていた。

「用意周到に進めたチーム戦略」と「南野の特性」──。サウサンプトンでの2点目は、2つの要因がうまく組み合わさったことで生まれたと言えよう。

 ただし、今後の課題も明確になった。

劣勢にまわった中での南野の課題とは?

 ゴールを奪った前半33分まではなかなか試合に絡めず、不用意な形からボールを失う場面もあった。また得点後も、存在感が希薄だった。1人目の選手交代枠で、後半31分に南野がピッチを退いたことも決して無関係ではないだろう。

 強豪チェルシーを相手にチームが劣勢にまわった事実はもちろん大きい。相手に71%のポゼッションを記録されたように、チーム全体が苦戦を強いられた。その中で、南野のゴールは値千金だった。

 だが、こうした上位相手の苦しい展開のなかでも、90分を通して効果的なプレーを示し続けられるか──。サウサンプトンでの武者修行は、これからも続いていく。

文=田嶋コウスケ

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