(全3回の3回目/#1、#2はこちら)
「実弾飛び交う戦場で戦っているからよくわかる」
――昨年の日本シリーズでは坂本勇人内野手や岡本和真内野手、丸佳浩外野手という中心打者もパリーグの投手に完璧に抑え込まれました。そのことを踏まえたキャンプでの打線の取り組みに変化はありますか?
「まず打撃練習では通常のバッテリー間18.44mを、5mほど短く設定した13mから投手に放らせている。パワーピッチャーに対して、パワーボールに対しての対応力ということですね。日本シリーズはとにかく速い球が打てなかった。セントラル・リーグにはなかなかあれだけの速い球を投げる投手がいない。やっぱり指名打者制度の有無というルールの違いがありますから。それは少なからず影響していると思います。僕は現実、実弾飛び交う戦場で戦っているからよくわかる。差が出ている」
――指名打者制度が投手育成にもつながる?
「そうですね。パ・リーグの投手は、このキャンプの時期にバッティングやバントの練習なんか眼中にもないですよ。とにかくピッチングのことを考えて毎日、毎日できる。365日、四六時中ね。セントラル・リーグにそういう速いピッチャーがいないとは言いません。でもそういう環境の違いもあって、数は少ないです。
やっぱりパ・リーグのピッチャーはパワーピッチャーが多いし、ある程度の長い回は責任を持って投げなくてはならない。そういう意味で自立しています。逃げもかくれもしません。でもセントラル・リーグはやっぱり、ルールとして投手には代打が出たり、逃げられるケースがある。だからそこはルールを一緒にして欲しいね。なぜかというと僕はセントラル・リーグ出身だから。もちろん日本シリーズもそうだけど、交流戦を含めてセントラル・リーグがパ・リーグにあれだけやられるというのは癪に障るよね!」
原監督が明かす「1番の問題」とは?
――しかし日本シリーズの結果には、指名打者の有無だけでは片付けられない問題があるのではないですか?
「一番の問題は巨人には外国人がいなかったということですよ。去年だけでなく、ここ数年のジャイアンツはパワーヒッターの外国人選手がいなかった。外国人がいたとしても、例えば去年の途中からゼラス・ウィーラー内野手がいますけど、ウィーラーは本当の意味でのパワーヒッターじゃない。本当のパワーヒッターがいれば、例えばソフトバンクにはアルフレド・デスパイネ外野手にジュリスベル・グラシアル内野手という2人、本当のパワーヒッターがいましたよね。その相乗効果が打線にはある。
しかしうちにはそういう外国人バッターがいなかった。だから今年は外国人バッターには少々、率のことは考えないでいいから、パワフルな選手を取ろうということで、ジャスティン・スモーク内野手とエリック・テームズ外野手という選手を獲りました。そこは課題、去年の反省点です。やっぱり外国人選手が今年の打線の中に最低でも1人、俺は2人入れたい。そのパワーヒッターが入れば相乗的に岡本にしても、丸にしても、坂本にしてもまた違った形で上がっていくと思います」
「巨人軍は近年1番、5番、6番……この辺がいない」
――一発長打のあるパワーヒッターが後ろにいることで前の打者は変わる?
「それもありますけど、やっぱりスイングですね。当てるのではなく、バーンと弾き返すスイングを目で見ることで、目から頭に入ることが、チームメイトでもね、それがスイングの刺激になる。そのイメージは実際に目で見ないと、なかなか持つことができない。
外国人の選手の一番の特長はメジャーのあのパワーとスピードに慣れていることなんです。そこに彼らを獲る利がある。でもその部分がうちのチームにはなかった。例えば昨年のヘラルド・パーラ外野手にしてもパワーヒッターではなかった。どちらかというと日本人的な選手でしたからね。だから今年獲った2人はすごいパワーがある」
――スモークは2017年にはシーズン38本塁打を記録していますし、テームズも16年に韓国で40本、17年にはMLBで31本のホームランを打っている。本物ですね。
「パワフル! 率は他の選手が残しますよ。でも巨人軍は近年1番バッター、5番バッター、6番バッター……この辺がいない。いつもそこに外国人をと言っているけど、なかなかハマらない。でもそこも反省材料として、対策としてはこういう風にした。だから5番、6番をあの外国人2人がやってくれればいいなとは思っています」
――問題はコロナ禍の影響ですね。来日しても隔離期間の問題等もクリアしなければならない。来日の目処は?
「そこは全然進んでいないですね。来たとしても2週間の隔離期間は、どういう状況で缶詰にされるのか……。まあ日本の野球のビデオだとか、相手投手のビデオやデータ、資料とかは送っていますけどね。それで練習はこうしてくれと、こちらから課題は出しています」
――梶谷については入団会見では1番としての期待を話していましたが、キャンプイン直後には2番構想も話していました。
「外国人2人に存在感があったら、僕は梶谷は1番でいいと思いますね。そうなれば梶谷から坂本、丸、岡本にスモーク、テームズと続いて7番がセカンド、8番がキャッチャー。そうなったら私はベンチで手を叩いていればいいんですからね(笑)。こんなこと(サインを出す仕草)なんてする必要ない(笑)」
――2番は左の方が合理的という考えもありますが……。
「僕は梶谷が2番に入るような打線になったらスゲーなと思っていますよ。それはある意味、理想です。だって彼が2番を打つということは、1番を作ることができているということだから。1番はセカンドに入る人がいるかもしれないということでしょう? ウチでポジションが空いているとするなら、それはキャッチャーとセカンド。額面的にいくとね」
吉川に「お前さんのトゲトゲしさが削がれていってしまっている」
――二塁には吉川尚輝内野手がいるのでは。
「いや、分からない。僕はデンとした野球をやるとしたら北村(拓己内野手)に期待している」
――北村の魅力は?
「彼は岡本に匹敵するくらいのパワーを持っている可能性があるということ。彼も未知数だから楽しみな訳ですよ。尚輝は去年、100試合以上使っている。ただ彼は打席を重ねるごとにスケールがどんどん小さくなっていってしまった。そこを彼には言っています。『ゲームに出すことで、お前さんのトゲトゲしさが削がれていってしまっている。開幕の時にはすげえホームランを打ったじゃないか。ああいう魅力があったから俺は使った。でも試合に出ていくことで、何か小手先のヒット1本、短打を狙いに行く。足は速いのにスティールできないじゃないか。それだったら増田を使うよ』と。そう話しています」
「増田は常時使ったら、多分、盗塁王を獲る」
――足のスペシャリストの増田大輝内野手ですね。
「増田は常時使ったら、多分、盗塁王を獲ると思いますよ。尚輝は去年、うんと使われたけれど決して合格している訳じゃないから。やっぱりOPS(出塁率と長打率を合わせた指標)も低い(.734)し。そこ(二塁)は空いていますよ! 毎年、替わるんです。そこはあいつらも必死。キャッチャーだって同じです。去年、一番守った大城(卓三捕手)にしたってそうですよ」
――大城は昨年、打率2割7分の9本塁打。打力を期待されながら数字的には少し寂しいですね。
「彼の最大なる特長はバッティングですから。バッティングが大したことなかったら、やっぱり小林(誠司捕手)を使うでしょう。同じバッティングだったら。キャッチャーだって誰を使うかは分からないですよ」
身長2mルーキー・秋広優人がクローズアップされた
――昨年の日本シリーズではソフトバンクの甲斐拓也捕手の攻守の活躍が光りました。キャッチャーの差という声も聞きます。
「まあキャッチャーだけに限らず、全てに差があるということ。あれだけの数字だから。どう考えてもね。でもね……甲斐の何が凄いかといえば、やっぱりしゃべりが、コミュニケーション能力が凄い。松田(宣浩内野手)であろうが、誰であろうが、全部、こう動かして投手にも頻繁に声をかけている。すっごい発信力! 打った、投げただけではなくね。そういうキャッチャーとしての立ち居振る舞いのようなものを甲斐は持っている。グラウンド上の第二の監督としてのそういうことは、うちのキャツチャーも見習わなければダメなところです」
――キャンプの明るい話題としては身長2mルーキーの秋広優人内野手の存在もクローズアップされました。彼のどんなところに魅力を感じますか?
「我々の想像を超えるくらいにすごい選手かもしれません」
「まず彼は二軍からスタートして、宮崎で結果を残して沖縄の一軍キャンプに選ばれた。二軍に行かせることは、育成法としては簡単なことかもしれませんが、我々の想像を超えるくらいにすごい選手かもしれません。少なくともそういう期待感を抱かせるものを見せた。いずれにしてもドキドキさせてくれる選手であることは間違いないですね」
――今後は?
「どこまで経験のない彼が才能だけでプロのレベルに通用するのか。私自身も興味津々です。私も測れない素晴らしい可能性を持っている。いまはその程度の言い方にしておきましょう!」
――最後に昨年から続くコロナ禍の中でプロ野球は3月末には開幕を迎えます。改めてコロナとの戦い、プロ野球の果たすべき役割とはなんだと思いますか?
「まずキャンプの前くらいに緊急事態宣言が発令されるだろうという話がちらほら出ていた時期。私自身は宣言の当初の期間が2月7日までだったから、それくらいからキャンプが始まるのかなというくらいに思っていました、僕の個人的なものとしてね。でもNPBも含めて予定通り行くと。よーし分かったと。それくらいの覚悟で我々もいくと。その代わり去年は開幕が2カ月遅れましたが、少々の波風の中でもそういう風なことになることだけは避けたいと思った。またそういうつもりでNPBもやっているんだろうと思った。現在はそういう形になってると思いますね」
開幕は「ファンの人たちとともにスタートしたい」
――コロナ禍の中でプロ野球の使命とは?
「キャンプではこの状況下でも受け入れてくれた宮崎、沖縄のキャンプ地の皆さんに迷惑、負担をかけないこと。そのためにジャイアンツは沖縄にPCR検査センターを設立したりもしました。確かに我々は外出もしないし、色々な制約の中で動いている。感染するわけはないという思いの中でも、感染するかもしれないという思いを持って、最善を尽くすことを改めて思いますね。それともう1つ言うならば、開幕に対してはファンの人たちとともにスタートしたい。オープン戦はともかく、去年のような無観客での開幕というのはしたくない。去年より一歩も二歩も前に進んでいるという形で行きたいとは思っています。どこかでプロスポーツとしてやっぱりリーダーシップを取りたいというのは思いますね」
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文=鷲田康
photograph by JIJI PRESS