プロ野球のトレード話というのは、だいたい突然勃発する。そして野球ファンを「え?」と驚かせるものだ。

 巨人の田口麗斗とヤクルトの廣岡大志のトレードも3月早々、私たちを「え?」と言わせた。でもこの「え?」は、プロ野球のストーブリーグのだいご味でもあったのだ。

巨人時代の田口©Nanae Suzuki

 昭和の昔、オフには大型トレードがしばしばあった。中には「あの選手は放出されるのではないか?」とスポーツ紙上をにぎわせた挙句に移籍した選手もいたが、何の前触れもなくトレードに出される選手もいた。

 選手にとってトレードはあまり良いものではないようで、MLBでは契約時に「トレード禁止条項」を加えたりする選手もいる。

 しかし野球ファンにとって「トレード」は、いろいろな感慨を抱かせるものだ。サラリーマン社会では「転勤」や「配置転換」などがしばしばある。辞令1枚で生活が一変することがあるが、トレードはそれを想起させて、身につまされるものだったのだ。

山内一弘と小山正明の「世紀のトレード」

 せっかくなので、球史に残るトレードの主な「収支」を見ていこう。今から考えると、どっちの球団が「得」をしたのか、いろいろ興味深い。いずれも移籍先に限定した通算記録である。

〇1963年オフ 大毎・山内一弘31歳⇔阪神・小山正明29歳

 山内一弘(阪神/4年)487安打87本塁打276打点 打率.258

 小山正明(東京・ロッテ/9年)140勝92敗2088.1回 防御率2.73

「世紀の大トレード」と言われた。山内は中西太、野村克也らと「パ・リーグの最強打者」の座を争う強打者。小山は村山実とともに阪神のWエースの1人である。

 今でいえば――“ソフトバンク・柳田悠岐と中日・大野雄大のトレード成立”とたとえていいくらいのインパクトだ。

 小山は大毎から東京オリオンズと改称した移籍1年目にキャリアハイの30勝、山内も31本塁打を放って阪神優勝に貢献したが、小山が投手陣の柱として長く活躍したのに対し、山内は次第にパワーダウンして広島に移籍した。

大杉、張本ら名打者もトレード経験者

〇1974年オフ 日本ハム・大杉勝男29歳⇔ヤクルト・内田順三27歳、小田義人27歳

 大杉勝男(ヤクルト/9年)1057安打199本塁打688打点 打率.294

 内田順三(日本ハム/2年)146安打7本塁打44打点 打率.251
 小田義人(日本ハム/3年)360安打34本塁打137打点 打率.288

 前年オフに日拓から球団を買収した日本ハムは、チームカラーを一新するため大物選手を放出した。ヤクルトに移籍した大杉は不動の4番として活躍し、史上初の「2チーム1000本安打」を記録。1978年のヤクルト初優勝は大杉の存在なくして考えられなかった。

 一方で内田、小田と有望な若手打者を獲得した日本ハムだが、小田は移籍1年目に打率2位になるなど活躍したものの、ともに短期間で他チームに移籍した。

〇1975年オフ 日本ハム・張本勲35歳⇔巨人・高橋一三29歳、富田勝29歳

 張本勲(巨人/4年)526安打75本塁打280打点 打率.328

 高橋一三(日本ハム/8年)57勝54敗12SV 1011.1回 防御率3.73
 富田勝(日本ハム/5年)560安打47本塁打227打点 打率.286

 首位打者7回、史上最高の安打製造機と言われた張本は、就任1年目に最下位に転落した長嶋巨人に所望されてトレード。日本ハムは大杉に続いて、日拓前の東映カラーが強い大物を放出した。巨人ファンの中には堀内恒夫と並ぶ左のエース高橋一のトレードにショックを受けた人も多かった。

 張本は移籍1年目に中日の谷沢健一と激しい首位打者争いをするなど「さすが」の大活躍を見せた。

 一方、高橋一は2ケタ勝利こそ2度だったが貴重な先発左腕として長く活躍。“長嶋の後継者”と言われながらトレードされた富田も3割を2回記録した。

小林繁⇔江川は“誰も得しなかった”?

〇1979年2月 巨人・小林繁26歳⇔阪神・江川卓23歳

 小林繁(阪神/5年)77勝56敗4SV 1156.1回 防御率3.23

 江川卓(巨人/9年)135勝72敗3SV 1857.1回 防御率3.02

阪神に移った小林繁©Sports Graphic Number

「空白の一日」で江川との契約を発表した巨人だったが、金子鋭コミッショナーは認めず。1978年のドラフトで江川は阪神が1位指名したが、翌年1月末、金子コミッショナーの裁定で、江川の巨人へのトレード移籍が決まる。阪神がトレード相手に指名したのはエースの小林繁。1月31日に宮崎キャンプに向かうため羽田空港にいた小林が呼び戻され、その日深夜にトレードが成立した。

紆余曲折の末に巨人に入団した江川©Kazuhito Yamada

 小林繁は移籍1年目22勝で最多勝と気を吐いたが、5年目に13勝を挙げながら31歳で現役引退。江川も1981年にMVPに輝くなどエースとして活躍したが、32歳で引退した。実績的には十分とはいえ、このトレードは「誰も得しなかった」のかもしれない。

落合のトレード相手は牛島、あと3人は?

〇1986年オフ ロッテ・落合博満33歳⇔中日・上川誠二26歳、牛島和彦25歳、平沼定晴21歳、桑田茂26歳

 落合博満(中日/7年)913安打210本塁打625打点 打率.307

 上川誠二(ロッテ/7年)375安打29本塁打136打点 打率.271
 牛島和彦(ロッテ/7年)20勝25敗49SV 361.1回 防御率3.49
 平沼定晴(ロッテ/9年)17勝19敗5SV 498.2回 防御率4.44
 桑田茂(ロッテ/2年)0勝0敗0SV 5.2回 防御率6.35

中日に移籍した落合(ロッテ時代は写真をクリックしていくと見られます)©Naoya Sanuki

 ロッテは3度目の三冠王を獲得した落合の放出を決定、中日は正二塁手の上川、抑えのエース牛島など4選手とのトレードで落合を獲得した。

ロッテでセーブ王を獲得した牛島©MakotoKemizaki

 落合は在籍7年間で本塁打王2回、打点王2回を獲得するなど大活躍。ただしトレード相手の上川も内野手として存在感を放ち、牛島も2年連続最多セーブを獲得した。ロッテにとって決して損なトレードとは言えなかった。

FA制度施行後の大型トレードと言えばこの3例

 1993年にFA(フリーエージェント)制度が導入されてから「大型トレード」は減少していく。大物選手はFAで意中の球団に移籍するのが普通になり、球団の意向で移籍させられることは少なくなった。

 FA制施行後の大型トレードとしては以下の3例を挙げておこう。

〇1993年オフ 西武・秋山幸二31歳、渡辺智男26歳、内山智之25歳⇔ダイエー・佐々木誠28歳、村田勝喜24歳、橋本武広29歳

 秋山幸二(ダイエー/9年)933安打109本塁打454打点 打率.265
 渡辺智男(ダイエー/4年)4勝15敗0SV 169.2回 防御率4.99
 内山智之(ダイエー/4年)12勝16敗0SV 262.1回 防御率4.87

 佐々木誠(西武/5年)557安打60本塁打257打点 打率.275
 村田勝喜(西武/2年)4勝5敗0SV 119回 防御率4.76
 橋本武広(西武/9年)9勝12敗19SV 300回 防御率2.80

 清原和博と「AK砲」を組みパの最強打者と言われた秋山と、南海時代からの名リードオフマンだった佐々木を軸とした大型トレードだった。

ダイエーに移籍した秋山(西武時代の秋山は写真をクリックしていくと見られます)©Kazuaki Nishiyama

 秋山はダイエー移籍後、成績こそ下落したがチームリーダーとして意識改革に貢献し、引退後は監督も務めた。佐々木もベストナイン3回の活躍を見せている。

西武時代の佐々木誠(ダイエー時代は写真をクリックしていくと見られます)©Koji Asakura

 他の選手はどうか。ダイエーの村田は3年連続2ケタ勝利だったが、西武では全く振るわず。橋本はセットアッパーとして西武で長く活躍した。西武の渡辺も先発投手として実績があったが、ダイエー移籍後は不振だった。内山は先発投手として移籍1年目に6勝を挙げた。

糸井らのオリックス移籍、その相手は……

〇2013年1月 日本ハム・糸井嘉男31歳、八木智哉29歳⇔オリックス・木佐貫洋32歳、大引啓次28歳、赤田将吾32歳

 糸井嘉男(オリックス/4年)613安打70本塁打280打点 打率.300
 八木智哉(オリックス/2年)0勝2敗0SV 0HD 14.2回 防御率7.98

 木佐貫洋(日本ハム/3年)10勝11敗0SV 0HD 172回 防御率3.56
 大引啓次(日本ハム/2年)213安打8本塁打79打点 打率.255
 赤田将吾(日本ハム/2年)42安打2本塁打13打点 打率.269

 キャンプイン直前の1月23日に発表された大型トレード。前年から契約交渉が難航していた糸井嘉男の移籍が軸で、比較的年齢が高い選手同士のトレードだった。

オリックス時代の糸井(日本ハム、阪神時代は写真をクリックしていくと見られます)©Hideki Sugiyama

 糸井はオリックスで首位打者、盗塁王を獲得。文句なしの成績で4年目のオフにFAで阪神に移籍した。

 オリックスの正遊撃手だった大引は日本ハムでもレギュラーだったが、2年でヤクルトに移籍。赤田は控え外野手として2年プレーして引退した。

 日本ハムの八木、オリックスの木佐貫はともに新人王を経験した投手だったが、移籍先ではあまり活躍できなかった。

巨人→日本ハム→オリックスと2度のトレードを経験した木佐貫©Tamon Matsuzono

日本ハムは大田泰示らの獲得で“大儲け”

〇2016年オフ 巨人・大田泰示26歳、公文克彦24歳⇔日本ハム・吉川光夫28歳、石川慎吾23歳

 大田泰示(日本ハム/4年)501安打63本塁打250打点 打率.275
 公文克彦(日本ハム/4年)7勝2敗2SV 39HD 172回 防御率3.66

 吉川光夫(巨人/3年)7勝11敗0SV 3HD 146回 防御率4.93
 石川慎吾(巨人/4年)91安打11本塁打37打点 打率.241

 このトレードは圧倒的に巨人が有利だと見られていた。ドラフト1位ながら伸び悩みの野手・大田と一軍実績が乏しい投手・公文を出して、MVPまで取った先発投手の吉川と若手野手の石川を獲得したからだ。

日本ハム時代の大田(巨人時代は写真をクリックしていくと見られます)©Hideki Sugiyama

 しかしふたを開けてみると、日本ハムの大儲けになった。大田は堅実な守備とシュアな打撃で中軸打者となり、公文は一時期「勝利の方程式」を担うセットアッパーになった。

 巨人に移籍した吉川は2年半で日本ハムに復帰するも今オフに金銭トレードで西武に移籍。石川は代打で活躍しているが、大田には遠く及ばない。

 トレードはやってみないとわからない。だから面白いとも言えるのだ。

 実は最後に紹介した2016年オフのトレードは、「元エース級左腕投手⇔伸び悩んでいる大型野手のトレード」という点で、今回の田口と廣岡のトレードに通じる部分がある。

ヤクルト時代の廣岡©Nanae Suzuki

 すでにオープン戦が始まっており、廣岡は3日のヤクルト戦に出場した。新しいユニフォームに袖を通した田口と廣岡はどんなパフォーマンスを見せてくれるだろうか?

文=広尾晃

photograph by Sankei Shimbun