いよいよ開幕した2021年のプロ野球。開幕3試合で見えたルーキーやベテラン涌井秀章の興味深い記録をご紹介します!(全2回/阪神佐藤・楽天早川らルーキーが活躍編はこちら)

 3月26日、開幕戦の涌井秀章は堂々たるピッチングだった。いつも通りクールな表情で強打者を次々と料理し、7回無失点で降板した。そのマウンドからは「名人芸」という言葉が浮かぶ。涌井は開幕投手として球史に残る快投を演じて見せた。

 涌井秀章は、今回の日本ハム戦で10回目の開幕投手。これは史上5位タイだ。また西武、ロッテに続き楽天と3球団で開幕投手を務め、これも史上3人目の記録である。

 これまでの2人は以下の通り。【】カッコ内は所属球団。

内藤幸三
1936年秋【金鯱】●
1942年【朝日】(勝敗つかず)
1944年【朝日】●
1950年【広島】●

渡辺秀武
1971年【巨人】●
1974年【日本ハム】(勝敗つかず)
1977年【大洋】〇

 内藤は開幕投手を4回任されて0勝3敗。渡辺は3回務めて1勝1敗だった。一方で涌井は、3球団で開幕勝利投手になった。これは史上初だ。

過去10回の涌井の戦績と対戦相手を見てみると

2008年、西武時代の涌井©Tamon Matsuzono

 涌井の10回の開幕投手の戦績/対戦相手の開幕投手を見ていこう。

【西武時代】
2008年3月20日 オリックス戦:金子千尋
●8回3安打4奪三振4四球 自責点1
2009年4月3日 ロッテ戦:清水直行
〇6回7安打4奪三振4四球 自責点2
2010年3月20日 ロッテ戦:成瀬善久
〇8回7安打11奪三振4四死球 自責点1
2011年4月12日 日本ハム戦:ダルビッシュ有
〇8回9安打7奪三振0四球 自責点3
2012年3月30日 日本ハム戦:斎藤佑樹
●4回6安打2奪三振5四球 自責点5
【ロッテ時代】
2015年3月27日 ソフトバンク戦:攝津正
〇6回6安打4奪三振4四死球 自責点0
2016年3月25日 日本ハム戦:大谷翔平
〇7回4安打7奪三振1四死球 自責点0
2017年3月31日 ソフトバンク戦:和田毅
●7.1回7被安打4奪三振1四球 自責点2
2018年3月30日 楽天戦:則本昂大
7回6安打4奪三振3四球 自責点0
【楽天時代】
2021年3月26日 日本ハム戦:上沢直之
〇7回4安打5奪三振3四球 自責点0

ダル、大谷らに投げ勝つ一方で斎藤佑樹に……

 開幕戦は、どのチームもエースが登板する。涌井秀章は金子千尋、ダルビッシュ有、清水直行、成瀬善久、攝津正、大谷翔平、則本昂大とパ各球団の錚々たるエース級と一騎討ちを演じてきた。その上で6勝3敗は見事の一語だ。

2016年開幕戦では大谷翔平相手に投げ勝った©Nanae Suzuki

 投球内容を見ても、10登板のうち9試合がQS(クオリティ・スタート。先発で6回以上投げて自責点3以下、先発投手の最低限の責任)。QSをクリアできなかったのは2012年だけ。この年は日本ハム斎藤佑樹との投げ合いになったが4回で降板。なお斎藤はこの試合、9回1失点で完投しており、現時点でキャリア唯一の開幕勝利投手となった。

これまでの“開幕投手常連”と成績を比べてみる

<開幕戦先発回数とその成績、※〇は通算勝敗>
・14回
金田正一(1952年〜65年 国鉄、巨人)〇400勝298敗
4勝8敗
鈴木啓示(1967年〜85年 近鉄)〇317勝238敗
9勝2敗 防御率2.52
・13回
村田兆治(1975年〜90年 ロッテ)〇215勝177敗
6勝6敗 防御率3.41
・12回
山田久志(1975年〜86年 阪急)〇284勝166敗
8勝2敗 防御率2.36
・10回
東尾修(1975年〜87年 太平洋・クラウン・西武)〇251勝247敗
2勝7敗 防御率4.93
涌井秀章(2008年〜21年 西武、ロッテ、楽天)〇145勝132敗
6勝3敗 防御率1.84

・9回
北別府学(1982年〜94年 広島)〇213勝141敗
6勝2敗 防御率3.16
平松政次(1970年〜80年 大洋・横浜大洋)〇201勝196敗
5勝4敗 防御率1.85
石川雅規(2005年〜20年 ヤクルト)〇173勝171敗
5勝3敗 防御率3.44
星野伸之(1990年〜2000年 オリックス、阪神)〇176勝140敗
2勝5敗 防御率3.72
松岡弘(1971年〜81年 ヤクルト)〇191勝190敗
3勝4敗 防御率5.19
※金田正一は自責点が不明な試合があるため、防御率を算出せず。

 金田正一、鈴木啓示と両リーグを代表する左腕エースが14回で並んでいるが、金田は4勝8敗と大きく負け越し。下位に沈むことが多かった国鉄は、開幕戦で巨人と当たることが多く、苦戦していた。

 対照的に鈴木啓示は長年、絶対的なエースとして君臨し、14登板で9回完投するなど、開幕戦最多の9勝を挙げている。

涌井の防御率1.84は誰よりも安定感がある

 涌井は6勝だが、防御率1.84は大洋、平松政次の1.85を抜いて1位となった。涌井の通算勝利数は、10傑の投手では最も少ない145勝。開幕戦に特化して強い投手だと言ってよいだろう。

 2013年西武での最終年、涌井の成績は5勝7敗7セーブ、防御率3.90。大きな期待ができる成績ではないままロッテに移籍したが、入団2年目に15勝で最多勝を挙げた。そしてロッテ最終年の涌井は3勝7敗、防御率4.50と、これまた衰えを感じさせる成績だったが、楽天入団1年目の昨年、11勝でまたも最多勝。チームを移籍するたびに「再生」する。まさに不死鳥のようだ。

松坂やダルと比較され続け、田中将大が戻ってきたが

 涌井秀章は、何かと比較されることが多い投手だ。西武ライオンズでは6歳年長で同じ横浜高校出身の松坂大輔の「後継者」という見方が強かった。2006年限りで松坂がMLBに移籍すると、1年おいて2008年から西武の開幕投手を担うようになった。

 また、同じ1986年生まれで、2005年に揃ってドラフト1巡目でプロ入りしたダルビッシュ有とは互いを「ライバル」と意識する関係だった。

ダルビッシュと涌井は2009年WBCでチームメートだった©Takuya Sugiyama

 涌井は何度も浮き沈みを繰り返しながら、「3球団で最多勝」「3球団で開幕勝利投手」など先輩やライバルもできなかった快記録を達成したのだ。

 今季の楽天は、MLBから復帰した田中将大、則本昂大、岸孝之、大学ナンバー1左腕の評判が高い早川隆久と、豪華なローテーション投手で話題になった。昨年の最多勝、涌井はやや影が薄かったが、開幕戦の快投で、一気に注目された。

 恐らくは心の底に「俺を忘れてもらっちゃ困る」という「強い反発心」があるのだろう。今季の涌井から目が離せない。

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文=広尾晃

photograph by Sankei Shimbun