初めての本塁打が甲子園の外野スタンドに飛び込んだのが、大会第5日だった。その後、センバツで生まれた本塁打はランニング本塁打を含めて9本。本塁打数が一ケタだったのは、18年ぶりのこと。これは例を見ないほどの「投手」のレベルの高さによるものだ。

 かれこれ40年以上、センバツを見ているが、こんなに個性豊かで優秀な投手たちが出揃ったセンバツは、記憶を何度確かめても、なかなか思い出せない。

 決して「投高打低」ではない。

 優秀な打者だって何人も出場しているが、時期的にまだ試合慣れしていないのと、振り込み不足もあって、投手のレベルに追いついていけない……というのが、実情であろう。

 140キロ前後のパワーを持った本格派が、一方でカーブ、スライダーで簡単にカウントを奪える技術も兼備している……そんなプロ顔負けみたいな投手が10人以上もいるのだから、打者にとっては始末が悪い。

「投超打高」。こちらのほうが、実情にうんと近いはずだ。

「超重量級大型打線」のなかの小柄な2年生

 バッティングが光る野手がなかなか現れない代わりに、ディフェンス、フィールディングなら、プロ顔負けの遊撃手を2人見つけた。この“逸材”たちをお伝えしないわけにはいけない。

 正直な話、東海大相模・大塚瑠晏遊撃手(3年・168cm68kg・右投左打)がこんなに上手い「ショートストップ」だったという実感が今までなかったのは、昨年のチームの「超重量級大型打線」のほうに目を奪われていたからだ。

 苦しい言い訳だが、それほどに昨年の東海大相模打線の迫力と破壊力はすさまじいものがあった。

 広角長打の山村崇嘉(内野手・西武3位)、雄大な長打力の西川僚祐(外野手・ロッテ5位)、強打と機動力のリードオフマン・鵜沼魁斗(外野手・東海大)……高校生離れしたスラッガーたちが居並ぶ中、唯一小柄な2年生が不動のショートストップを務めていた。

「捕ってください」ボールが寄ってくる

 センバツに出てくるぐらいだから、どこのチームの遊撃手も上手いのだが、大塚の場合は、試合前のシートノックから“雰囲気”が違った。

 右に左に飛んでくるゴロを捕りに行っているように見えるうちは“普通”の遊撃手だ。大塚遊撃手の場合は、打球のほうから彼のグラブにすり寄っていくように見える。捕ってください……と寄ってきたボールをグラブでソフトに吸収して、次の瞬間、もう投げる右手に移し替えている。

 詳しく解説すると大塚の「技術」は、グラブを出すタイミングが遅いことにある。

 カーンといった瞬間にもうポーンとスタートをきって、軽快なフットワークで打球に向かうと、ギリギリまでグラブを使わずに、最後の最後でスッと打球を触りにいく。「捕る」ではない……触りにいくぐらいの感じのソフト感とさりげなさ。

 子供の頃の名残りだろうか、高校生ぐらいだと、まだ早いタイミングでグラブを出した状態で捕りにいく内野手が多いが、これだと打球のちょっとした変化にも対応できず、エラーしやすい。大塚遊撃手は、ギリギリのタイミングまで足と目で打球の様子を見極めてからグラブを使うから、見ていて、打球のイレギュラーバウンドにも気がつかないほどだ。

捕球の「ふくらみ方」がにくい

 1回戦、「東海大対決」になった「甲府」との一戦。

 初回、先頭打者のピッチャー返しを二塁ベース後方に回り込んで吸収すると、体勢をキープしたままでストライクスロー。相手に強い「流れ」が向くのを阻止した。

 レギュラーメンバーががらりと入れ替わったチームで、大舞台の雰囲気を知るのは、左腕のエース・石田隼都(3年・183cm73kg・左投左打)と彼ぐらい。主将にもなったこの大会、甲子園デビューの先発・石川永稀(3年・178cm80kg・右投右打)に再三言葉を投げかけながら、守りの「リーダーシップ」も発揮する。

 その後、三遊間にポンポンと弾んできた高いゴロに、ふくらみながら回り込んで、スナップスローで刺したプレー。大塚はその「ふくらみ方」がにくい。投げる方向へ「動線」を作りながら打球に入ってくるから、送球動作に無理がなく、安心して送球を見ていられる。

 また、三塁寄りのかなり強い打球に、サッと正面に体を持っていく敏捷性。初動の反応が速く、正面への入り方に余裕があるので、送球姿勢が「かかと体重」にならない。瞬時に体重移動がなされ、矢のような送球がファーストミットに突き刺さる。こんなにフィールディングのバリエーションを数多く持ったショートストップも、高校生にはなかなかいない。

 なぜさっきから、大塚のことを繰り返し「ショートストップ」と呼んでいるのか……それには理由がある。春先、まだ数試合しか実戦経験もない中で、「夏」みたいな高難度のプレーを繰り返し、打球が外野に抜けるのを許さない。そういう遊撃手を、私は特に「ショートストップ」と呼んで、敬意を表したいのだ。

 チームは優勝したものの、残念ながら大塚は準決勝を前に急性胃腸炎で入院してしまった。あらためて、この夏の活躍を期待したい。

ちょっとナマイキそうなプレーも“アリ”

 第5日第1試合、東海大菅生の左腕エース・本田峻也投手(3年・179cm73kg・左投左打)のインステップからのミラクル投球を楽しみにしていたら、「肩の違和感」で登板回避だという。ガッカリしていたら、試合前のシートノックでとんでもない選手を見つけて、胸が躍った。

 対戦相手の聖カタリナ学園・川口翔大遊撃手(3年・175cm75kg・右投左打)だ。大塚遊撃手とタイプは違うが、立派な「ショートストップ」だ。

 シートノックから、見せつけてくれる。

 三遊間深い位置からのダイレクトスローを、一直線に一塁手のミットに叩きつけて強肩をアピールすれば、併殺プレーの送球が逸れると軟体動物的な身のこなしでグラブに収め、ストライクの一塁転送で併殺プレーを完成させてしまう。

 ただ者じゃないぞ……とときめきながら始まった実戦の中でも、思わずオオッと声をあげてしまうようなプレーを、次々と披露してくれる。

 イニング開始前の投球練習……最後の1球で捕手が二塁送球したボールが、川口遊撃手の左腰のあたりに届くと、グラブを風車のようにクルッと回して、その“回転”の中にボールを吸収してしまった。

 見る人によっては、自分の上手さをひけらかすようなプレーだと言って嫌うかもしれないが、本当に「上手いヤツ」はどんどんやればよいと、私は思う。

 併殺時、二塁送球直前の両足の踏み換えなどキレッキレのフットワークだし、投手からの二塁送球が逸れて、走者が三塁へスタートをきりかけると、走者と目を合わせ、動きを目で殺しておいてから逸れたボールを追うあたり、優先順位の判断が一瞬のうちにできている。

 いちばん驚いたのは、無死二塁でのプレーだ。

 センターフライのカットプレーが乱れて三塁へスタートをきったランナーを刺すべく、川口遊撃手がとっさに拾って投げた送球が、走者が滑り込んでくる“そこ”にピシャリ。捕球とタッチプレーが同時になって、よもやの「アウト!」。

 本来の守備範囲に飛んできた“普通”のゴロをさばくスタンダードな動きも、アッと驚くようなアクロバティックなプレーも、ちょっとナマイキそうにも見える気取ったプレーも、どれもこれも、サラッとやりこなす。

 好みが分かれる選手かもしれないが、人が出来ないことを難なくやってしまうのは、間違いなく飛び抜けた「能力」があるからだ。こういう華やかなプレースタイルの遊撃手が、もっと高校野球にいてよいと思う。

文=安倍昌彦

photograph by KYODO