雑誌「Sports Graphic Number」と「Number Web」に掲載された記事のなかから、トップアスリートや指導者たちの「名言」を紹介します。今回は悲願のマスターズ制覇を成し遂げた松山英樹にまつわる3つの言葉です。

<名言1>
こんなに練習する選手を見たことがありません。

(目澤秀憲/NumberWeb 2021年4月8日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/847689

◇解説◇
 マスターズ直前、松山英樹はとにかくボールを打ちまくっていた。前週のバレロテキサスオープンの2日目では、午後1時にはプレーを終えていたものの、昼食をスナックで済ませて仮眠を取ると、そこから練習に没頭。自身10回目となるマスターズ直前の様子は、決して「調整」と呼べるものではなかった。

「試合期間中、こんなに練習する選手を見たことがありません」

 2月に松山のもとへ合流した目澤コーチは、その研究熱心ぶりに驚かされたという。

 今年、松山はキャリアで初めてコーチと契約した。重要課題であるパッティングへのアドバイス、さらにはスイング改良を本格化。ドライバーショットではかねて目指してきたドローボールの習得を目論み、“理想とする軌道”を追い求めてきた。目澤はその言葉では表現しづらい感覚を、緻密な分析や理論で裏付けしながら検証し、理想のカタチへの方向付けをアシストしてきた。

 試行錯誤を繰り返しながら迎えた“本番”。松山は、その成果をオーガスタの舞台で遺憾無く発揮した。

 3日目に叩き出した「65」はマスターズで自身が記録した過去最高のスコア。15番では池を恐れず2オンに成功し、自他共に認めるスーパーショットで3日連続のイーグルを奪った。

 いつもと同じルーティンで迎えた最終日はボギースタートとなったが、2番でバーディをすぐに取り戻すと、その後はパーを着実に重ね、かつて8つスコアを落としたこともある「サンデー・バックナイン」を我慢して切り抜けた。

勝利を確実なものとして18番ティショットに臨んだ松山 ©︎Getty Images

 多くの日本人ゴルファーたちがたどり着けなかった頂点に立った瞬間、目に涙を浮かべた松山。まぎれもなく、努力が生んだ快挙だった。

<名言2>
オーガスタの皆さんに感謝します。Thank you.

(松山英樹/NumberWeb 2020年4月10日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/843164

◇解説◇
 2011年4月、初めて聖地オーガスタの地に足を踏み入れた19歳は、名だたる世界のトッププレイヤーの中で27位タイに食い込み、日本人初となるローアマチュアを獲得した。ホールアウト直後は「こんなに疲れた1週間もなかった」と本音をのぞかせたが、すぐに「また回りたいなあ。今から回れないかな」と名残惜しそうに戦いを振り返っていた。

 東日本大震災から1カ月あまり。大学生活を仙台で過ごした青年は、さまざまな思いを背負ってオーガスタにやってきた。初日のスタート前には東北地方を余震が襲っていたが、それでも「逆に頑張ろうと思って集中できた」とウエアに日の丸を縫い付け、キャディバックには「まけるな日本」のバッジをつけて大会に臨んでいた。

「被災地はまだ大変ではありますが、マスターズでのプレーが少しでも希望と喜びを与えられたと思います。オーガスタの皆さんに感謝します」

 日本人で初めてマスターズの表彰式に立った松山は、通訳を介して日本語で感謝の弁を述べた。最後に「Thank you.」と付け加えると、出席者から一斉にスタンディングオベーション。驚きを隠せない表情で何度も何度もお辞儀を繰り返した。

スタンディングオベーションにお辞儀で応える当時19歳の松山英樹 ©︎AFLO

 あれから10年、悲願のメジャー初優勝を成し遂げた29歳は、正真正銘の勝者として表彰式に帰ってきた。あの日と同じように、オーガスタの西日が松山を照らしていた。

<名言3>
彼のゴルフはすごくマスターズに向いている。4大メジャーの中ではオーガスタが一番合っていると思う。
(丸山茂樹/NumberWeb 2015年4月8日配信)

https://number.bunshun.jp/articles/-/823088

 2015年マスターズで単独5位に入った松山英樹。その戦いを前に活躍を予言していたのが、丸山だ。

「彼のゴルフはすごくマスターズに向いている」

 当時から米ツアーを席巻するプレイヤーたちはすでに“飛距離”を兼ね備えている者ばかりだったが、丸山がこう言い切ることができた理由は、ピンポイントで落とす正確無比なアプローチがある。長年、解説を務める芹澤信雄にも「ついに日本人でもグリーンジャケットを着るチャンスがやってきた」と言わしめるその技術に、小技で鳴らしてきた丸山も当時から舌を巻いていた。

「やっぱり『球が高い』というのがいい。アイアンショットが、この何十年の日本人選手の中でずば抜けて上手い」

自身も挑戦してきたからこそ、松山英樹の技術に期待を寄せていた丸山茂樹(写真は2013年プレジデントカップ) ©︎Getty Images

 あれから6年、自身が立てた“予定”よりも少し時間を要したかもしれないが、自身10回目のマスターズでグリーンジャケットを羽織った。ようやくたどり着いた「メジャー初優勝」の舞台は、やっぱりオーガスタだった。

文=NumberWeb編集部

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