何とかやりくりをして凌いでいる。

 開幕から続く巨人の打撃不振。ただでさえ打てない試合が続く中で丸佳浩外野手、ゼラス・ウィーラー内野手ら主力を含む4選手の新型コロナウイルス感染での戦線離脱が追い討ちをかけた。

「こんなに打てないのは初めてだよ。3点を取るのに四苦八苦しているんだから」

 原辰徳監督から、珍しくこんな“グチ”が飛び出すのも分からなくもない。

 開幕2戦目の3月27日のDeNA戦で10得点したのを最後に、翌28日の同カードから4月10日の広島戦までチームワーストの12試合連続3得点以下の試合が続いた。

原監督の選手起用で、どうしても不可解だったこと

 投手陣の踏ん張りで何とか2位はキープ(14日試合終了時点)しているものの、チーム打率は中日とデッドヒートを演じながらかろうじてのリーグ5位。相手投手と選手の状態を見ながら、あるときはベテランの亀井善行外野手を5番で使い、またあるときはシーズン直前の緊急トレードで獲得した廣岡大志内野手を1番に、走り屋の増田大輝内野手を8番で先発に抜擢した。

 そうして日替わりオーダーを組みながら、耐えて凌いできているのが、ここまでの巨人の戦いだった。

 例によって原監督の采配力で、勝率5割からずるずると後退せずに踏ん張ってきたとも言える内容である。ただ、そんな原監督の選手起用で、どうしても不可解だったことがある。

 4月13日の中日戦で梶谷隆幸外野手を「3番」に据えた先発オーダーを組んだことだった。

 もちろん普通の状態なら、梶谷の名前が3番にあることは決して不思議ではない。ただ、そこまでの梶谷は、開幕直後から深い打撃不振の沼にハマって、一向に脱出の気配が見えていなかったのだ。

 実際に梶谷が構想通りの1番を打ったのは開幕から4月6日の阪神戦までの10試合だけ。その後はコロナ禍による選手の離脱もあって、2番を1試合、3番を3試合任された。ただその間もスランプの沼から脱出できなかったばかりか、むしろどんどん深刻化していっているようにも見えた。

 その結果が11日の広島戦での6番降格だったのである。

 打順を下げて負担を軽減しようというのが首脳陣の意図だったはずだ。しかし効果は見られなかった。この試合では打線が久々に12安打9得点と爆発。ようやくワースト記録にストップをかけたのだが、梶谷だけは蚊帳の外の5打数無安打に終わっている。

 この時点で今季成績は59打数9安打の打率1割5分3厘。規定打席到達選手の中では最下位となっていた。

スランプの沼から脱出できない梶谷を3番に起用

 そんな中で突然、原監督は移動日を挟んだ13日の中日戦で、梶谷を3番に起用したのである。

 独特の直感?

 それとも何か理由があったのか……。

「実は……」

 その裏側を明らかにしたのは、原監督自身だった。

「あの試合(中日戦)で、最初は梶谷を先発から外すはずだったんです」

前日夜にグループLINEでスタメンを告知

 巨人には首脳陣と一軍選手全員が参加するグループLINEがある。試合前日の夜には、このLINEを通じて翌日の先発オーダーが選手にも伝えられている。これは翌日の自分の役割を知ることで、選手が早めに準備ができるようにという配慮で、原監督が3度目の復帰を果たした2019年から始まったシステムだった。

 そしていつも通りに12日の夜には、翌13日のスターティングオーダーがLINEを通じて選手にも告知されていた。

 空回りが続く打線を何とか活性化させようと、中日の先発左腕・大野雄大投手を想定して組まれたオーダーには石川慎吾外野手、廣岡らが抜擢されていた。ただその時点で、その中に梶谷の名前はなかったのである。

「僕の目には梶谷はずっと足踏みをしているように映っていたんです」

「最初に選手に伝えたオーダーの3番は亀ちゃんでした」

 原監督は言う。

「もちろん打てなくて苦しんで、彼は彼なりに様々な努力をしてきた。ただ、僕にはやっていることはルーティンも何も、あまり変わっていないように見えていた。我々は今日より明日、明日より明後日という繰り返し。日々前に踏み出して成長するしかない。そうして成長していくためには、もっと彼自身がもがかないとダメだと思っていたんですね。それで一度、この節目のところで先発を外そうと決断したわけです。だから最初に選手に伝えたオーダーの3番は亀ちゃん(亀井)でした」

 ただ、そこで終わらないのが原流でもある。

監督室に梶谷を呼んでサシで話をした

 翌日の練習前に梶谷本人を東京ドームの監督室に呼んだ。監督室で監督とサシで話すのはもちろん、監督室に入ったのも梶谷は初めてだったという。そしてそこで先発を落とす理由を説明し、原監督が自分の口で梶谷にどんな姿を求めているのかを直接、伝えた。

「僕は『お前さんの今の姿を見ていると足踏みをしているように見える。でも、俺たちはもっともがいている姿が見たいんだ。もがいて、もがいて、その中から一歩でも前に進むことが必要なんじゃないか』という話をしました」

 原監督は言う。

 そして最後に梶谷にこう問いかけた。

梶谷が絞り出すように語った一言とは?

「率直にいま、(先発を外れることを)どう思っている?」

 そこで梶谷が絞り出すように語ったのが「試合に出たいです」という一言だった。

「ヨシッ、分かった!」

 その言葉を聞き、そう語る顔を見て原監督は、その瞬間に梶谷を先発で使う決断をしたのだという。

「亀ちゃんもああいう人間だから、先発を外れてもらう話をしたら、すぐに僕の意図を理解してくれた。コーチは『(梶谷を)何番で使いますか?』って聞いてきたから、『そのまま3番でいこう!』って言いました」

 こんな紆余曲折を経てたどり着いたのが、あの日のオーダーだったのである。

 そしてその中日戦で「3番・梶谷」のバットが、いきなり快音を発した。

14日には右中間に2号2ランを放った

 初回に巡ってきた無死一、三塁のチャンスで左の大野からセンターに先制タイムリー。さらに3回にも中前安打を放って今季初のマルチ安打を記録した。翌14日の同カードでは、3回に3点を奪ってなお1死二塁のチャンスに、中日先発の勝野昌慶投手の143kmのストレートを弾き返して右中間に2号2ランを放った。

中日・勝野から2ランを放った梶谷 (C)KYODO

 原監督の“3番抜擢”を、自らのバットで綺麗に完結させてみせたのである。

「昨日くらいからね、非常にこう、少し吹っ切れたところもあるように見えますね」

 本塁打を放った14日の試合後のインタビューで語った原監督は、梶谷の現状をこう分析する。

「今日は練習でも非常に良かったし、やはり練習の形がしっかりしていれば、いい結果も出てきますね」

 復活への手応えを感じているのだ。

 フリーエージェントで巨人移籍1年目に、いきなり目の前に突きつけられたスタメン落ちという現実。ただ、その現実に葛藤し、もがいてもがいた梶谷は、最後に「試合に出たい」という一言を絞り出した。

 その一言が復活へと踏み出す一歩へと繋がっていったのである。

 これが不可思議にも思えた梶谷“3番抜擢”の舞台裏だった。

文=鷲田康

photograph by KYODO