85年の歴史で、アジア人として初めてマスターズを制した松山英樹。これまで多くの先人たちが阻まれてきた高い壁を超えて、グリーンジャケットに袖を通した。自身も11回の出場を誇り(最高位は2002年の14位タイ)、若手時代から松山の成長を見守ってきた丸山茂樹に、その思いを聞いた。

 こんな偉業を、そして歴史的瞬間を、生きている間に見られるとは思っていませんでした。本当に途轍もないことをしてくれた。感動でいっぱいです。

 表彰式で英樹が両手を挙げて喜んでいる笑顔を見たら泣けてきましたよ。あれが本当の英樹の笑顔ですもん。世間の人は英樹のあんな笑顔をあまり見たことがないと思いますが、一緒に食事している時も、酔っぱらっているときもああいう顔をするんです。年齢的にも親心に近いものを彼には感じてしまいますね。

 そうこうしているうちに表彰式を終えた本人から電話がかかってきたんです。「ありがとうございます。やりました!」と言われて、電話を切るときに画面を見たら2分17秒も話したみたいなんですが、一体何をそんなに話したのか。すっかり気持ちが高ぶっていて……。話し終えた瞬間にまた涙があふれてきました。

「アプローチを教えてください」

 英樹との出会いは彼がプロに転向した2013年、7月の国内ツアー「セガサミーカップ」でした。開幕前々日に練習ラウンドをしたんです。「アプローチを教えてください」と彼の方から来てくれて、僕は9ホールで切り上げるつもりが、結局18ホール一緒に回ったんですよ。

2013年セガサミーカップの練習ラウンドで丸山にアドバイスを求める松山 ⒸSankei Shimbun

 ことアプローチに関して言えば、世界アマチュアランキングにふさわしい技術レベルだったかと言えば、少し疑問符が付きます。ただし、ショット力は抜群のものがあって、小技がうまくなったら無敵だなと感じたものです。実際にそこからぐんぐんアプローチもうまくなっていった。いろいろなところから吸収して足りないところを補い、大きなパワーに結びつける能力がすごく高かった。

 昨年末までコーチをつけてこなかったのも、そんな彼の特性が1つの要因でしょう。いろいろな人に意見を聞くのはタダですからね。それで自分がいいと思えば取り入れればいいし、おかしいなと思えば取り除けばいい。コーチからの一方通行でやっていないんです。きっと今の目澤秀憲コーチとの関係性もそういうものだと思います。

 首位で迎えた最終日、4打差あるとはいえ、プレッシャーは並大抵ではなかったはずです。だから1番のティーショットがとても大きな比重を持つと思っていました。そうしたら、やっぱりミスが出た。そしてボギースタート。

 しかし、その流れの中で2番パー5のティーショットで踏ん張った。フェアウェーをとらえ、なおかつバーディーを奪えたことで、少し落ち着きを取り戻せたのではないでしょうか。

 続く3、4、5番というのはこの日の序盤の難所、他の上位勢も苦労して軒並みスコアを落としていたホールです。英樹はそこをすべてパーで切り抜けた。見ている側としては「なんかいけるかな?」と何の根拠もない期待が湧き上がってきました。

 後半のアーメンコーナーも紙一重のショットが続きましたが、13番でもグリーン奥からの見事な寄せでバーディーにつなげた。ピンチで自分を救えるアプローチを身につけていたということです。根拠のない自信はさらに膨らみました。「これはいっただろ!」って(笑)。

アザレアが咲き誇る13番ホールを歩く松山と早藤キャディ (c)Getty Images

「英樹も極限の状況で戦っていた」

 ただ、その後の展開も一筋縄ではいきませんでした。15番でグリーンをオーバーして池に入れてボギー。どうなることかと思ったら、4連続バーディーで追い上げてきていた同組のザンダー(・シャウフェレ)が16番で池ポチャのトリプルボギー。こんな展開になるのかと、英樹に関してというよりも、1つの試合の展開として衝撃的でした。

 18番のティーショットがフェアウェーの真ん中にいったときは「9割5分は勝った」と思いました。それでも2打目で右にプッシュしてバンカーに入れるとは思いませんでしたね。それだけ英樹も極限の状況で戦っていたのだと思います。

『ショット・オブ・ザ・デイ』を選ぶとしたら……優勝への分岐点となったのは5番で沈めた5mのパーパットだったんじゃないでしょうか。

 英樹自身は「ミスパットだった」と話していたようなので、思ったよりも強く打ってしまったのかもしれません。でも、試合の流れが落ち着く前にあれを外してボギーとしていたらどんな展開になっていたか分からない。大きな一打でした。

 ああいうピンチをしのぐと、英樹ぐらい百戦錬磨の選手であれば「ちょっとのミスがあっても自分で自分を救えるな」と感じるものです。もちろん実際の頭の中は緊張で真っ白だったとは思いますが、試合の流れや展望が自分にとって良い方向に流れていることは分かる。それが支えにもなります。

丸山が「ショット・オブ・ザ・デイ」に挙げた5番でグリーンの芝目を読む松山(c)Getty Images

 3日目には大きく左に曲げて林に入ったボールが出てきたり、4日間通じて相当なラッキーもありました。そして、そのラッキーを英樹はスコアにつなげていった。「女神が微笑む」なんて使い古された常套句はあまり使いたくありませんが、試合の流れはずっと松山英樹にあったのかなと。

伊澤利光、片山晋呉との共通点

 英樹とオーガスタとの相性は抜群にいいと思います。マスターズで好成績を残した日本人には共通点があって、伊澤(利光・01年4位タイ)さんにしても、(片山)晋呉(09年4位)にしても、アドレスの取り方が上手な選手なんです。

松山が優勝するまでのマスターズ日本人最高位の成績を残していた伊澤、片山(写真は2001年)(c)Getty Images

 海外の選手を見ても、しっかりとコースに対して“パラレルに”ボールを飛ばせる人に合うコースだと感じるんですよね。ホールに対してショットの軌跡がどんな線を描くのか。僕なんかはパラレルではなくクロス系。野球に例えれば、右打者が右を向いてちょっと引っ掛ける感じでしょうか。

 オーガスタは結構左から木がぐわっと圧力をかけてくるホールが多いんです。あれが視界に入らない、気にならない人が強い。僕はあれが視界に入ってきて苦手でした。フェードを打つにしても、ボールを切るように打つのではなく押し出す。プッシュしながらフェードが打てるような選手がいいということです。ちょっとマニアックな話ですね。

 英樹の持ち味であるアイアンショットの精度もオーガスタ攻略には欠かせない武器です。PGAツアーでもトップクラスのアイアンの距離感は、今回の勝因の1つに挙げられます。

 ボール、ライの状況、空気、ホールの特性を読む力、その上でしっかりと狙った距離に打っていける技術力。それが体に染みついていて再現能力がものすごく高い。

丸山が以前から称賛していた松山のアイアンショット (c)Getty Images

 加えて今大会はパッティングも冴えていました。一番よくなった点は、打つ際の一定のリズムです。それによって安定感が出てきた。最終日の5番のパーセーブのように、要所でパットが決まってくれれば自分のミスを帳消しにできるのですごく楽なんです。

 これだけのゴルフができるようになり、オーガスタを勝てたということは相当な自信を得たに違いありません。『メジャーを勝てる』というお墨付きをもらったわけですから、必ずまたどこかで勝ってくれると信じています。

 それにしてもプロゴルファーって星の数ほど存在してきた中で、メジャーチャンピオンになれたのは150人ちょっと(戦後)。そこに英樹は入った。どれだけの確率なんでしょう。半端ないですよね。

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文=雨宮圭吾

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