ついに、こう発言する球児が現れたか。

 2年ぶりに開催が実現したセンバツ、東海大相模が10年ぶり3度目の優勝を果たした。エース・石田隼都は全試合に登板して無失点。先発したのは2試合のみだが、存在感を見せつけた快投劇だった。

 この石田に代表されるように、今大会は投手陣の活躍が光った。なかでも、準決勝を脇腹痛で回避した天理の193cm右腕・達孝太のピッチングとその思考には高校生が新しいフィールドに足を踏み入れ始めたことを感じずにいられなかった。

「今日が野球人生の最後になってもいい」とは言わない

 達は準決勝後のリモート取材で、登板なく敗退したことをこう振り返ったのだ。

「今日1日だけでよければ投げられました。でも、僕は長く野球をやりたい。メジャーリーグを目指しているので、(無理して)頑張るのはこの試合じゃないと思いました」

 センバツ優勝を前にして登板を回避。その思いの一つに「将来」を語る高校球児がいる。「目の前の試合を全力で」「今日が野球人生の最後になってもいい」。かつての球児が口にしたような熱量優先の発想は今の高校球児には合わないのかもしれない。

 もっとも、将来のメジャーリーグ挑戦を掲げる達は、憧れだけで未来を語っているのではない。メジャーリーグという目標を捉え、海の向こうで展開されている野球がどのようなものか、メジャーで活躍する投手がどのようなピッチングをしているか、情報をつぶさに取り入れて、自身のピッチングにも生かしている。

「目標は、ダルビッシュ有(パドレス)さん、マックス・シャーザー(ナショナルズ)、トレバー・バウアー(ドジャース)です」

 目標に掲げた選手、それぞれのスタイルを熟知している。同じ日本人であるダルビッシュの思考を参考にしつつ、シャーザーからは投球フォームの力感、バウアーからはピッチデザインを取り入れるべく本気で取り組んでいるのだ。

「空振りを取るフォーク」と「カウントを取るフォーク」

 シーズンオフには親に頼み込んで、投球の回転数などを計測する機器・ラプソードを購入。最近流行になっているピッチデザインの書籍を読みあさっては、新しいピッチングを手にしてきた。

 昨秋の近畿大会準々決勝戦、達は大阪桐蔭打線につかまって11失点を喫して敗れているが、オフの間に自身のピッチングを作りあげ、この春の4強進出へとつなげたのだ。

 そんな達が投手としての評価を高めたのがセンバツ2回戦の健大高崎戦だ。

 全国屈指の強力打線を誇る昨秋の関東チャンピオン。ここで達が見せたのはただ持ち味のボールを投げ込むのではない投球スタイルだった。

 回転数のいいストレートを軸としながら、2つのフォークを効果的に使い分け、スライダーを織り交ぜる。

 そこには肉眼では見分けがつかないくらいの繊細な工夫があった。例えば、達のストレートは最速148キロを計測したが、フォーシームのストレートと、シュート成分の強いストレートを投げ分けている。打者がストレートと思っても差し込まれるのは微妙な違いを加えているからだ。

 そして、2種類のフォークは空振りを取るためのものと、カウントを取るためのものとを使い分ける。こちらも投げ方を工夫している。

 達はいう。

「フォークはどちらも握りは一緒にしているのですが、カウントを取るフォークはイメージはカーブみたいな感じで、上に抜くように投げています。カーショウ(ドジャース)が投げているカーブみたいにイメージしています。

 三振を取るフォークはストレートとシュート成分を同じにして偽装をしています。シュート成分を一緒にして落差を少なくすれば、打者はストレートだと思う。ストレートのシュート成分の方は投げ方を少し変えていて、これはダルビッシュさんがいう『ラリアット』投げをしています」

 テクノロジーを駆使して、自身のピッチングスタイルを構築。海の向こうに憧れを持っているからこそ、彼は自分を成長させることができているのである。

定説「ストレートは低め」もう古い?

 東海大相模・石田、天理・達以外に評価を上げたのは、準決勝を右肘痛で降板した中京大中京の畔柳亨丞、そして市立和歌山の小園健太だ。彼らの思考もまた面白い。

 石田、畔柳に共通したのは持ち味であるストレートを意識的に高めに投げていたことだ。

 野球界は長くボールを低めに集めることが正しいとされてきた。もちろん、低い球は長打にされにくいから効果的なのだが、どの球種も低めに投げると、打者の目線はおのずと低くなる。一方、最近の打者は上から叩きつけるという打撃をする選手が少なくなっている。これはメジャーで流行り始めた「フライボール革命」の影響も多分にあるが、そこにストレートを高めに投げ込むと“打者の上をいく”のだ。

 畔柳はいう。

「最初は半々だったんです。意識的に投げていたわけではなくて、高めにいってしまっていた。それが空振りを取れていたので、高めを効果的に使っていくようにしました」

 高めに意識的に投げていくことで打者の目線が上がり、変化球ではワンバウンドさせなくても空振りを取れる。畔柳は1回戦で12奪三振完封、2回戦、準々決勝ではそれぞれ7三振ずつを取っている。

 1、2回戦は救援、準々決勝、準決勝は先発完投。決勝戦は救援。すべての試合を無失点に抑えた東海大相模・石田も高めを有効に使っていた。畔柳と同じく戦いながら見出した配球だった。決勝戦ではサヨナラ打を放ち、エースを攻守で支えた捕手の小島大河は言う。

「石田は非常にいい真っ直ぐを投げるんですけど、相手バッターを見ていると、高めのストレートに苦しんでいた。これは使えるなと思いました。大会を通して使うことにしました」

小園が使う「ピッチトンネル」理論とは?

 そして、1回戦の県立岐阜商を4安打完封に封じた小園は現代的なピッチングスタイルが持ち味だ。

 最速152キロのストレートのほか、スライダー、カットボール、2つのツーシームを投げ込む。小園がうまいのは、これらの球種の球速帯を近づけていることだ。

 小園はいう。

「高校1年夏の大会で、僕が決勝点を浴びて試合に負けました。その時まではストレート主体のピッチングだったんですけど、そうなると真っ直ぐに頼らざるをえないので狙われてしまう。何かを変えないといけないと思い始めて、ツーシームを覚えるようになって、そこからピッチングが変わりました」

 今大会、三振をバッタバッタととることはできなかったものの、打者に球種の判別をつけさせない投球で戸惑わせ続けた。

 近年、メジャーやプロ野球の投手たちはテクノロジーを駆使したピッチングをデザインするようになった。

「ピッチトンネル」と呼ばれる理論だ。打者が球種の判別ができるのは打者から9メートルほどの位置だと言われていて、そこにトンネルを描いて、投手はどの球種もこのトンネルを通過するように投げる。トンネルまでは同じ球種に見えるので、打者はトンネルを抜けてからしかボールを判別できず、そこからの変化に対応できない――。

 小園自身はテクノロジーを使うことはない。しかし彼の中で打者を打ち取るためのイメージが、「記事で見かけただけ」というピッチトンネルで構成されている。

「多くのバッターはストレートを狙っているので、そこでツーシームを投げるとバッターの反応が変わってくる。カットボールも投げるようになったんですけど、小さい変化が効果的なのかな、と。バッターからすればツーシームがくるとわかっても、カットボールも頭にある。対角の変化を持つことによって(打者が)ストレートに詰まることが増えてきました」

指導者まかせではなく、個人で考える高校生たち

 情報が溢れる今の時代、スマホを持つリスクを大人たちは口にするが、使い方を間違えなければ、貴重な情報が簡単に得られる。達ら高校生投手たちはアンテナを張り巡らしてたくさんのことを得ようとしている。メジャーの情報やダルビッシュの発信。野球本を読み漁ること。それらは彼らにとっての成長要因なのだ。

 指導者の裁量のみによって成長が左右されるのではなく、個人で成功を掴み取っていく時代。そこではプロの選手の多くがパーソナルトレーナーを雇って高みを目指しているように、個人としての思考力こそが成長の要因になる。高校球児の思考力がそれほどのレベルまで高まってきているのかもしれない。

文=氏原英明

photograph by JIJI PRESS