そういえばオコエ瑠偉ってどうしているのだろう、とふと思った。彼は少し前まで楽天のリードオフマン候補だった。スケールの大きな選手になるのではないかと期待したものだ。

 2015年8月末から9月上旬まで、関西で開かれた第27回WBSC U18ベースボールワールドカップでは、メディアは1年生で侍ジャパンのメンバーに選ばれた清宮幸太郎を追いかけまわしていたが、このチームの主力は1997年度生まれの高校3年生、1週間前に終わった夏の甲子園で活躍した選手たちだった。

 この秋のドラフトでは、侍ジャパンのメンバーから小笠原慎之介(東海大相模→中日)、高橋純平(県岐阜商→ソフトバンク)、平沢大河(仙台育英→ロッテ)、そしてオコエ瑠偉(関東一→楽天)と4人の選手がドラフト1位で指名された。

ドラフト1位指名で胴上げされるオコエ©Hideki Sugiyama

 筆者は毎日試合に通ったが、とりわけオコエは魅力的だった。外野でボールを追う、しなやかな走りと瞬発力はずば抜けていると思ったものだ。

夏の甲子園で好守を見せたオコエ©Hideki Sugiyama

 さらにこの世代には、高橋樹也(花巻東→広島3位)、成田翔(秋田商→ロッテ3位)など甲子園を沸かせた選手もいた。日本はアメリカに負けて準優勝に終わったが、筆者は1997年度生まれの選手は「オコエ世代」と呼ばれるのだろうと思った。

2020年、規定投球回数に達したのは森下だけ

 しかしそれから6年、今年24歳になる彼らを「世代」で呼ぶ声は聞こえてこない。

 彼らの世代で規定打席に到達した選手はいまだいない。規定投球回数に達したのはU18大会には出ていたもののプロには行かず、明治大に進んで昨年ドラフト1位で広島に入った森下暢仁だけ。オコエ瑠偉は2019年9月26日の西武戦を最後に一軍出場なし。今年は春季キャンプにも参加せず、2月26日に左手関節の手術を受けた。

 また仙台育英高時代は甲子園を沸かせ、このU18大会でベストナイン投手に選ばれた佐藤世那は、6位でオリックスに入ったが、わずか3年で戦力外になった。そこでふと疑問が浮かんだ。

 果たして1997年世代は「はずれ」なのか?

 そもそもプロ野球の「世代」とは何なのだろう?

 プロ野球の各世代は、選手たちが23歳になるシーズンにその全容が見えてくる。まず18歳になる年齢でに高校からドラフトで指名された選手がプロ入りする。これが40%前後、そして4年後、22歳になる年に大学の選手がドラフト指名される。これも40%前後、残りの選手は高校から社会人・独立リーグか、大学から社会人・独立リーグを経て入団するが、全部で10〜20%くらいだ。

 世代全体での選手数は70人から90人程度。この構成はずっと昔から変わっていない。

長嶋&野村、江川&掛布、イチローも当たり年だった

 球史に残る「当たり年」と、主な選手をいくつか挙げておこう。選手は入団前の最終学歴、経歴でまとめた。

 〇1935年度生まれ
 高校:野村克也(峰山)、皆川睦雄(米沢西)、小玉明利(神崎工)、毒島章一(桐生)、梶本隆夫(多治見工)、土橋正幸(日本橋)、仰木彬(東筑)、空谷泰(松山商)
 大学:長嶋茂雄(立教大)、杉浦忠(立教大)、近藤和彦(明治大)、森徹(早稲田大)、岡嶋博治(立命館大)

現役時代の長嶋©︎Masahiko Ishii

 野村、長嶋、皆川、梶本、杉浦の5選手が殿堂入り。仰木も監督として殿堂入り。戦後プロ野球の人気を盤石にした大選手が次々と登場した空前の当たり年だ。

 〇1955年度生まれ
 高校:掛布雅之(習志野)、河埜敬幸(八幡浜工)、藤田学(南宇和)
 大学:平野謙(名古屋商科大)、古屋英夫(亜細亜大)、遠藤一彦(東海大)、江川卓(法政大)、山倉和博(早稲田大)
 社会人:中尾孝義(プリンスホテル)、大野豊(出雲信用組合)

現役時代の掛布©BUNGEISHUNJU

 1973年のドラフトでは高卒で掛布、河埜、藤田らがプロ入りし、1977年ドラフトでは大卒で遠藤、平野、山倉らがプロ入り。「江川事件」で1年遅れて江川卓が入団。さらに社会人で中尾、大野が入団。この世代では大野豊が殿堂入りしている。

 〇1973年度生まれ
 高校:イチロー(愛工大名電)、石井一久(東京学館浦安)、三浦大輔(高田商)、中村紀洋(渋谷)
 大学:清水隆行(東洋大)、門倉健(東北福祉大)
 社会人:小笠原道大(NTT関東)、礒部公一(三菱重工広島)、小坂誠(JR東日本東北)、松中信彦(新日鐵君津)

オリックス時代のイチロー©Kazuaki Nishiyama

 甲子園に出場したものの無名の外野手だったイチローが1994年にブレーク。これを追いかけるように中村、小笠原、松中らがリーグ屈指の打者になった。石井一久、三浦大輔と指導者も出ている。この世代は社会人出身者が多く活躍しているのも特徴だ。

松坂大輔・田中将大・大谷翔平と同世代は誰?

 〇1980年度生まれ
 高校:松坂大輔(横浜)、藤川球児(高知商)、東出輝裕(敦賀気比)
 大学:和田毅(早稲田大)、村田修一(日本大)、永川勝浩(亜細亜大)、木佐貫洋(亜細亜大)、小谷野栄一(創価大)、新垣渚(九州共立大)
 社会人:杉内俊哉(三菱重工長崎)、渡辺直人(三菱ふそう川崎)

横浜高校時代の松坂大輔©BUNGEISHUNJU

 松坂大輔を筆頭に甲子園で活躍した選手が多く、松坂をフラッグシップとする「松坂世代」と呼ばれた。プロ野球で「世代論」が大きな話題になったのはこの時期からだ。ただ大きな期待があったにも関わらず2000本安打、200勝に到達した選手は出ていない。今季では松坂と和田が現役である。

〇1988年度生まれ
 高校:田中将大(駒大苫小牧)、坂本勇人(光星学院)、前田健太(PL学園)、福田秀平(多摩大聖ヶ丘)、梶谷隆幸(開星)、曾澤翼(水戸短大附)
 大学:柳田悠岐(広島経済大)、澤村拓一(中央大)、秋山翔吾(八戸大)、大野雄大(佛教大)、斎藤佑樹(早稲田大)
 社会人:宮崎敏郎(セガサミー)、石山泰稚(ヤマハ)、石川歩(東京ガス)、増田達至(NTT西日本)

斎藤と田中の高校日本代表時代©Takuya Sugiyama

 2006年夏の甲子園での田中将大、斎藤佑樹の熱闘が大きな話題となった。田中は1年目から2けた勝利を挙げたが、数年遅れで柳田、秋山らが台頭した。当初は「ハンカチ世代」と呼ばれたが、今この名を目にすることは少ない。

〇1994年度生まれ
 高校:大谷翔平(花巻東)、藤浪晋太郎(大阪桐蔭)、田村龍弘(光星学院)、鈴木誠也(二松学舎大附)
 大学:佐野恵太(明治大)、濱口遥大(神奈川大)、吉川尚輝(中京学院大)、松原聖弥(明星大)、大山悠輔(白鴎大)、柳裕也(明治大)
 社会人:西川龍馬(王子)、近本光司(大阪ガス)、木浪聖也(ホンダ)

春のセンバツで実現した藤浪(大阪桐蔭)vs大谷(花巻東)©Kyodo News

 甲子園で活躍した藤浪、大谷という超大型選手が活躍し、その後は鈴木、佐野、大山と強打者たちがじわじわと台頭している。

高卒選手が早々に活躍→大卒・社会人が……

 こうして「当たり年」の世代を見て行くと、まず甲子園で活躍した選手が高卒でプロ入り早々から活躍、大卒の同世代が入団する前にスター選手になり、遅れて入る大卒選手は彼らを目標にプロで活躍し始める。そのあとから社会人選手が追いかけるという図式が見えてくる。

 高卒選手が第一段ロケットとなって初速を上げて、第二段ロケットの大卒選手が加速すると言い換えてもいいだろう。

 そういう意味では、1997年世代は、オコエ瑠偉など第一段ロケットとなる高卒選手が不発だったために、大卒選手が入った昨年の時点で「世代としての盛り上がり」を作ることができていないと言える。

97年世代にも魅力的な選手は結構いるのだ!

 しかし、子細に見れば今年度の時点で69人いる1997年世代にも魅力的な選手は結構いるのだ。

 3月1日にヤクルトから巨人に電撃移籍した廣岡大志は4月13日の中日戦で、エース大野雄大から決勝ホームラン。巨人ファンに名刺代わりの一発を打った。

大野雄大から決勝HRを放った廣岡©Nanae Suzuki

 昨年9月、育成から支配下登録された大下誠一郎はユニフォームが間に合わなかったため打撃投手の背番号「102」のユニフォームを借りて出場したが、その試合で決勝本塁打。ずば抜けた大声で、今や「オリのヤジ将軍」になっている。

 前述のとおり、森下は高校3年生の段階でU18に選ばれたものの、先発したのはチェコ戦だけ。「二番手クラス」とみなされ明治大に進み、大学屈指の投手になって広島に入り、昨年は新人王。今季はすでにエース格だ。

 東北福祉大からドラフト3位でソフトバンクに入った津森宥紀は今季、流れるようなサイドスローでセットアッパーとして活躍。勝利の方程式に組み込まれつつある。

 中日の小笠原慎之介は高卒1年目から一軍で投げていたが5勝どまり。しかし今季は先発3試合で防御率1.45、ようやく安定感が出てきた。

 オコエ瑠偉だって、今年7月の誕生日でまだ24歳。ここからV字回復の可能性はある。

高卒選手の大半が1500安打、150勝を達成するだけに

 高卒選手はプロのキャリア開始が大卒より4年早い。このために2000本安打、150勝などの大記録の大半は高卒選手が達成する。その点でいえば、高卒が現在まで不発だった1997年度生まれは、すでに世代としては「はずれ年」と見られる可能性が高い。

 世代論としてはそうだが、選手個々の可能性は閉ざされたわけではない。彼らの成長、躍進を気長に見て行きたい。

文=広尾晃

photograph by Kyodo News/Hideki Sugiyama