「あれは漫才じゃない」――2020年のM-1はなぜあれほどの賛否を呼んだのか? 出場した漫才師たちのインタビューから、その答えに迫っていく。
おいでやす小田(42歳)とこがけん(42歳)、2人のピン芸人がユニットとしてM-1初の決勝進出、そして記憶に残る準優勝。結成2年目のおいでやすこがはあと13回M-1に出場する権利がある。いまや超多忙の2人だが、今年のM-1には出るのだろうか。(全3回の3回目/#1、#3へ)

――決勝1本目のネタは、すごい点数が出ました。審査員の得点はオール90点越えで、合計はそこまでトップの658点。あのときは、喜んでいるというより、小田さんなどはひたすら恐縮しているように見えました。

小田 ただ、驚いていただけだと思うんですけど。あんときの記憶、ないですから。

こが 僕は乱視で、はっきりは見えてなかったんですけど、90点台は数字が金色(それ以外は銀色)じゃないですか。パッと見たとき、全部、金色だったんです。それでマジで興奮しましたね。

――お二人の漫才のおもしろさは何なのだろうとずっと考えていたのですが、審査員の塙(宣之)さんが「十何年漫才をやってるような人にはできない、シンプルなツッコミが逆に気持ちよかった」みたいな話をされていて。そういうことかと、ものすごく腑に落ちました。

小田 さすがですよね。あの場で、一瞬で見抜かれましたよね。

――つまり、お二人は、ある意味、やむを得ずだけれども、意図的に漫才素人である部分を武器にされたわけですよね。

小田 そうです。もう一撃必殺で。将来的な漫才師像なんかもないので、あの一瞬だけに懸けていました。

「フット後藤さんみたいなツッコミになりたかった」

――最近は、ちょっと気の利いたインパクトのある言葉を「パワーワード」と表現して、それをいかに詰め込めるか、みたいな傾向もありますが、そこの呪縛からは完全に自由だったわけですね。

小田 いや、何にでもなれるのなら、そういう方向に行きたかったんですよ。ただ、その才能がなかった。ピン芸人になる前に漫才をやっていた頃は、フットボールアワーの後藤(輝基)さんみたいな例えツッコミの人になりたくて、できもせんのに真似をしていました。それで周りからは「相方はええねんけど、おまえがな……」とずっと言われていました。なので、ピン芸人になってからは、芯を食ったことを言おうとするのを辞めました。

――小田さんのいわゆる「キレ芸」は急に怒り出すので、一瞬、置いていかれる感じがおもしろいですよね。そのあと、何この人? って、笑いがこみ上げてくる。

小田 怒ってる人が芯を食ったこと言ってるのって、違和感あるじゃないですか。漫才師の方のネタを見ていると、よくそう思うんですよ。だって、本来、そんな余裕がないから怒っているわけで。

――言い回しがうま過ぎると、逆にさめてしまうこともありますよね。

小田 でも、それを突き詰められるのなら、後藤さんみたいになれることもある。なので、そっちの道を走破できる力がある人は、そっちに行けばいいんですよ。

かまいたち濱家おススメ「500円ののど飴」

――暫定(順位)ボックスの一番上の席の座り心地はどうでしたか。

こが 宙に浮いているような感覚でしたね。一時期、芸人を辞めていたことがあって、その頃、マヂカルラブリーがめちゃくちゃ好きだったんです。そのマヂカルラブリーよりも自分が上に座っているというのが(おいでやすこがの次に登場したマヂカルラブリーは2位につけた)、マジで変な感じでした。

――そんな中、最終決戦用のもう1本のネタの準備もしなければならなかったわけですね。

小田 僕は本番当日、のど飴をなめ過ぎて、お腹をこわしていたんです。20個ぐらいなめたかな。なので、暫定席とトイレを行ったり来たりしてました。

――やはり、のど飴は必需品なんですね。一番効くのど飴は何ですか?

小田 これです(と言って、カバンから小さなジッパータイプの袋を取り出す)。こがけんと、かまいたちの濱家(隆一)に教えてもらったんです。

――見たことのないのど飴ですね。どこで売っているんですか。高そう。

こが 薬局とかですね。コンビニには、なかなか置いてないです。1袋500円です。

最終決戦3組で円陣を組んだ「前年に負けてないよ」

――最終決戦は3番手でした。2番手マヂカルラブリーのつり革のウケ方が1本目以上にすごかったですが、どう受け止めていたのですか。

小田 袖で、むちゃくちゃ笑っていました。手を叩きながら。演者というよりは、客の心境ですね。オモロいわー、って。

――2本目のネタも会場が揺れていました。予選は「ありそうでない歌」のネタ1本で通されていたので、2本目はどうするのかなと思っていたら、もう1本、こんなに完成度の高いネタがちゃんと用意されていたんだと、少し驚きました。

小田 やれることはやりましたね、全部。コロナが流行している中、あんまり大きな声では言えないんですけど、全組が2本目をやり終えたあと、自然とマヂカルラブリー、見取り図、僕ら3組が円陣になって。それぞれにハグをして健闘をたたえ合いました。一昨年の大会が史上最高と言われて、演者の中に、今回も何とかして盛り上げたいという思いがあったと思うんですよ。なので「よかった、よかった、前年に負けてないよ」って。

――でしたら、いよいよファイナルジャッジで、これからチャンピオンが決まりますよ、というときも、清々しいぐらいの気持ちでしたか。

小田 0票で終わりという心の準備はできていました。

こが 僕もそれでぜんぜんいいと思っていました。

――結果、最初の5人は見取り図かマヂカルラブリーで票が割れましたが、最後の2人、松本(人志)さんと上沼(恵美子)さんはおいでやすこがに投票されて。3対2対2という、ある意味、最高のフィナーレでしたよね。

小田 もう、やったー! ですよ。それ以外ないです。

M-1、あと13回出られますが?

――M-1は出ようと思ったら、あと13回出られますが。

小田 いや、10年後、まだ僕らが出ているようではダメでしょう。年齢的なものを考えても、あと1回か2回でしょうね。十分過ぎるほどの恩恵を受けたので、これ以上、M-1に何を望むねんって。ただ、僕らが予選に参加することで、お客さんがちょっとでも集まるのなら、そこは恩返しの意味でも出たいなとは思っているんですけど。

こが 周りの人には、けっこう、もう出なくてええやろうみたいに言われるんですけど。ただ、優勝したいとかはまったく考えてはいません。

小田 けど、「目標は何ですか?」って聞かれたら言いますよ。優勝に決まってるやろ、って。そこはそう言わんと、逆に感じ悪いじゃないですか。

――今はユニットと呼ばれていますが、それがコンビになる可能性もあるのでしょうか。

小田 ユニットは継続しますけど、コンビになることはないと思います。方向性はバラバラなので。将来の夢とかを二人で語り合ったこととかもないですし。なので、方向性の違いを理由に別れるということもないと思います。

――でも、実際のところどうなのでしょう、マヂカルラブリーが優勝して、これだけいろいろな論争が巻き起こりましたけど、お二人が優勝していたら、もっとすごいことになっていたのではないでしょうか。

こが いや、そうなんですよ。1本目が終わってトップに立ったとき、もしかして……って一瞬、思ったんです。でも、直後に打ち消しました。ダメダメダメダメって。

小田 最近、つくづく思うんですよ。準優勝でよかったな、って。M-1チャンピオンって、おれらが背負えるほど軽いもんじゃないですから。

(【最初から読む】「2年前のM-1は漫才師の“劣化版”で失敗した」おいでやすこがが決して“はい、どーもー”を言わない理由 へ)

(写真=石川啓次)

文=中村計

photograph by Keiji Ishikawa