5月29日に行われる今季のCL決勝の「予行演習」では、チェルシーがマンチェスター・シティに逆転勝利を収めた(2−1)。5月8日のプレミアリーグ第35節のことだ。

 シティはほぼ互角だった前半にラヒーム・スターリングのゴールで先制したものの、追加点とすべきPKでセルヒオ・アグエロがパネンカを失敗。後半には監督のジョゼップ・グアルディオラが「あれはPK」と繰り返したとおり、スターリングがPKをもらい損ねる不運にも泣いた。

 一方のチェルシーは、指揮官のトーマス・トゥヘルの「相手ハーフでのボール支配率を高めろ」というハーフタイムでの指示を守り、ハキム・ジエシュが試合を振り出しに戻し、終了間際にマルコス・アロンソがひっくり返した。

 結果としてシティのリーグ優勝決定が持ち越され、チェルシーは僅差のトップ4争いで3位に浮上したように、大詰めの今季プレミアにおける重要な上位対決だった。

マルコス・アロンソの決勝弾で競り勝ち、チェルシーがCL決勝の前哨戦を制した©Getty Images

CL準決勝ではレアルに勝つべくして勝った

 それでも、観る側としては3週間後のCL頂上対決を意識せずにはいられなかった。特にシーズンが後半戦を迎えた今年1月の時点では思ってもみなかった決勝に、「勝てる」という自信まで手にして臨めるチェルシー寄りの視点では、だ。

 クラブのCL歴を比較すると、史上初の決勝進出を果たしたシティに対して、優勝1回を含め3度目の決勝となるチェルシーに分がある。

 とはいえ、グアルディオラ体制5年目のシティが、今季CLでの連勝を7に伸ばした5月4日の準決勝第2レグ(対パリSG、2−0)で見せた強さは圧巻だった。

 今年からマウリシオ・ポチェッティーノが率いるタレント集団を、まるで“並のチーム”のように退けたことで、念願のCL初優勝は固いと思わせた。

 また、プレミアリーグでは4位のチェルシーと19ポイント差。出足が鈍かったシティは昨年12月からのリーグ戦15連勝で首位独走となったが、勢いを強めることになったのはフランク・ランパード前体制下のチェルシーを下した1月上旬の一戦(3−1)だった。

 だが、5月5日のレアル・マドリーとのCL準決勝第2レグに勝つべくして勝った(2−0)、トゥヘル体制5カ月目のチェルシーも強かった。

 そして、中2日で迎えたリーグでの直接対決。直前のCL戦から自軍は5名、敵軍は9名とスタメンの多くを入れ替えての対戦ではあったが、チェルシーにすれば4月17日に終始優勢のまま勝利を収めたFAカップ準決勝(1−0)に続いて、新体制下でのシティ戦2連勝を意味する逆転勝利となった。

攻撃志向のディマッテオが堅守速攻の「モウリーニョ流」に

 CLでのチェルシーに対し、「ひょっとすると」という声は以前から聞かれた。

 ただし、チームの実力というよりは「運命」に基づく見解だ。トップ4争いでの後退、控え組の不満によるムード悪化による若手監督解任という背景が、最終的には悲願の優勝に至った2012年の再現を思わせるからだ。

 準々決勝以降の抽選が行われた3月後半には、運命の色がさらに濃さを増した。

 9年前のチェルシーはアンドレ・ビラスボアスの後任、CL16強第2レグが初陣となったロベルト・ディマッテオの下、8強ではベンフィカ、4強ではバルセロナを下して決勝へと勝ち上がっていた。同じく、今季のチェルシーもポルトガル勢の次はスペイン勢との対戦という決勝へのルートが見込まれる抽選結果となったのだ。

 しかしながら、実際に準々決勝でポルト(計2−1)、準決勝でR・マドリー(計3−1)を下したトゥヘル体制のチェルシーに優勝が期待される最大の理由は、過去との違いにある。

PK戦の末にバイエルンを下し初優勝を成し遂げた11-12シーズン。しかしそのスタイルは守備的だった©Getty Images

 2008年の決勝進出は、ジョゼ・モウリーニョの後を受けたアブラム・グラントが前任者の作り上げたチームの“自動操縦”で辿り着いたと言える。前回の2012年も、本来は攻撃志向のディマッテオが、主軸が得意としていた堅守速攻の「モウリーニョ流」に立ち返り、守勢を受け入れる覚悟を決めたことによる成果だった。

ガリー・ネビルが「ゼイ・ネバー・ダ〜イ!」と絶叫

 当時、グアルディオラが率いていたバルセロナとの対戦は、2試合平均のボール支配率が僅か28%。見事に肉を切らせて骨を断った勝利は劇的、かつ感動的でもあった。だが、決勝でもPK戦に持ち込んでバイエルンを下したチェルシーの戦いぶりに、テレビ解説者のガリー・ネビルが「ゼイ・ネバー・ダ〜イ(絶対に死なな〜い)!」と絶叫したように、最大の勝因は劣勢に耐え続けた「執念」だったと言わざるを得ない。

 その点、今季のチェルシーは攻守に果敢で、「肉は切らせずに骨を断つ」とでも言えるようなスタイルを意識し、内容と結果の両立を狙いながら決勝まで勝ち上がってきた。

 前体制から攻撃と若手起用への積極姿勢を継承しつつ、守備とムードの改善を実現した就任1シーズン目のトゥヘルには、10点満点を与えてもよい。

 R・マドリーとの準決勝は相手にポゼッションを譲ったが、決して受け身だったわけではない。ジネディーヌ・ジダンが3バック採用に打って出たのに対して、チェルシーの3-4-2-1システムは攻守両面で上回った。ベン・チルウェルとセサル・アスピリクエタの両ウイングバックは守備的ではなく、相手をリスペクトする意味の人選だ。

元チームメイトに対峙した経験豊富なアスピリクエタ

 ヨーロピアンカップ時代から通算13回のCL優勝歴を誇るR・マドリーは、欧州における格上。相手のゴールマウスと前線にいたエデン・アザールとティボー・クルトワの前にも、2007年にはアリエン・ロッベンを引き抜かれた過去がある。

 CL優勝争いの常連はリバプールを退けた前ラウンド(計3−1)でも、ホームでの3得点先勝とアウェイでのスコアレスドローを実現したように、180分間のゲームマネジメントに長けている。

 左のウイングバックはランパードとの確執で事実上の戦力外だったアロンソが攻撃的なオプションとして再び戦力化されていたが、鍵はチルウェルが持つ攻守のバランス感覚という判断だ。逆サイドのアスピリクエタは、4バックがメインだったランパード時代は攻撃的なリース・ジェイムズの控えに甘んじていたが、3バックへの変更に伴い、普段は右ストッパーとしてレギュラーに返り咲いていた。

 経験豊富なアスピリクエタの起用には、3バック右サイドのアンドレアス・クリステンセンとともに、第1レグでは30分間弱、第2レグでは約90分間対峙したアザールを、元チームメイトとしてよく理解しているという理由もあったに違いない。

 初戦の前半10分過ぎにはアスピリクエタがクロスを放った。14分にクリスティアン・プリシッチがアウェイゴールを奪った10分後には、相手のゴール前でシュートを放つチルウェルの姿も見られた。リードはカリム・ベンゼマの鮮やかなボレーで帳消しにされたが、チェルシーは同じく監督交代によりスタメンに復帰したCBアントニオ・ルディガーが、89分にドリブルで上がってFKを奪うなど、全員が攻めの姿勢を貫いて第1レグ(1−1)を終えていた。

前体制下では役割が不透明だったベルナーは1トップ、シャドーとして存在感を高めている©Getty Images

貢献度を高め始めた2人のドイツ人

 トゥヘル体制下の通算24試合目にして、18試合目の無失点を記録したR・マドリーとのリターンマッチでは、準決勝のマン・オブ・ザ・マッチと言っていいエンゴロ・カンテが2得点に絡んだ。中盤深部の司令塔タイプとして重宝されるようになったジョルジーニョを相方に、守備範囲の広いボールハンターとしての本領を取り戻したボランチは、リーグ優勝の原動力となり、プレミア年間最優秀選手にも輝いた2017年に匹敵するほどの存在感を見せている。

 CL決勝進出に王手をかけた先制点は、カイ・ハバーツのチップキックがバーに阻まれたリバウンドをティモ・ベルナーが頭で決めた、新戦力コンビによるフィニッシュだった。ランパード前監督が起用方法を決めあぐねていた2人のドイツ人だが、ハバーツは偽9番とセカンドトップ、ベルナーは1トップと2シャドーの1枚で貢献度を高め始めている。

 勝利を決定的にした終盤の2点目は、輝きを増し続けるメイソン・マウントのゴール。22歳のMFが試合後に「5点ぐらい取れた」と言えば、指揮官も「相手に押されることなく追加点を目指してチャンスを作り続けたことが非常に大きい」と納得する完勝だった。

ポジティブなサッカーと自家製戦力というアイデンティティ

 マウントに代表される「生え抜き色」は、前監督のレガシーとして踏襲したトゥヘルが讃えられるべき点であると同時に、かつてのチェルシーとの相違点だ。

 前回CL決勝進出を決めたバルセロナ戦の2試合では、ベンチも含めてジョン・テリーが唯一のユース出身者だった。だが今回、準決勝ではピッチに立ったマウントとジェイムズの他、ベンチにも3人のアカデミー卒業生がいた。

生え抜き選手を起用しながら攻撃的なチームへと変えたトゥヘルの手腕は讃えられるべき点だ©Getty Images

 2021年がCLでのチェルシー戴冠年となれば、2012年に「まぐれだったんだよ」とでも言うかのようにディマッテオの首を切ったロマン・アブラモビッチにとっても、2度目の優勝でありながら喜びは一入なのではないか?

 ポジティブなサッカーと、複数名の自家製戦力というアイデンティティを持つチームによる欧州制覇こそが、ロシア人富豪オーナーの念願であり続けるのだから。

 来たる5月29日の今季CL決勝は、シティに軍配が上がれば記念すべき初優勝となる。しかし、チェルシーも同じことが言える。不屈の精神力に加え、戦術力、攻撃力、ボール支配力でも互角以上に渡り合えるチームで勝ち取った、本格的な初のCL王座として。

文=山中忍

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