EXILEや三代目J SOUL BROTHERSをはじめ多数の人気アーティストを擁するLDHに、新たな“所属メンバー”が加わった。

 中村倫也と宇佐美正パトリック。2人は総合格闘家であり、LDHの格闘技部門LDH martial artsの所属選手となったのである。

中村倫也 ©Norihiro Hashimoto

 LDHが格闘技を手がけるのは「自然なこと」とEXILE HIRO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)。もともと格闘技ファンで、LDH martial arts代表取締役CEOの高谷裕之(元DREAMフェザー級王者)も旧知の仲だ。

 都内・代官山にジム「EXFIGHT」を構えるLDH martial artsは、アーティストたちと同様にオーディション(「FIGHTER BATTLE AUDITION」)で選手を募った。その合格者が中村と宇佐美だ。もともと契約選手の中村は契約延長が決まった。合宿やスパーリング対決、対外練習試合を含むオーディションの模様は、ABEMAで『格闘DREAMERS』のタイトルで放送された。

ジムの立地も設備も指導者も一流

 オーディションの総監督は高谷、コーチを務めたのはUFCでタイトルマッチまで勝ち上がった岡見勇信。修斗、PRIDE、DREAMで活躍した石田光洋もジムのトレーナーだ。ジムの立地も設備も指導者も一流。住居や食事、フィジカルトレーニングにサプリメントまでサポートがおよぶというから「LDH契約選手」は、誰もがうらやむ恵まれた立場と言っていい。和術慧舟會HEARTSの大沢ケンジ代表は、指導者・ジム経営者としてLDHの格闘技進出を「黒船」と言う。「一般の若い選手からしたら『格闘DREAMERS』はうらやましくて眩しすぎて見てられないかもしれない」とも。

 番組を見ていて感じたのは、悪い意味での“テレビ的”な盛り上げ、ショーアップとは無縁であるということ。格闘技に真摯に向き合っているのが伝わってきた。

 GENERATIONS from EXILE TRIBE、THE RAMPAGE from EXILE TRIBEという人気グループのメンバーが「格闘サポーター」として登場したが、それも必然性あってのことだ。彼らもオーディションや“修行”期間を経て正式なデビューを勝ち取っている。夢を追う充実感もLDHの審査の厳しさも知っているし、何より参加者の格闘家は彼らの“後輩候補”だ。あらゆる場面に付き添って親身になってアドバイスする姿には「これは単なる“お仕事”の域じゃないな」と思わされた。

EXILE HIRO「昔は格闘技が大好きだったので」

 番組の“ガチ”度について、最終審査の試合を見守ったEXILE HIROは取材陣にこう語っている。

「みんなのそのままの姿を映し出すことで、それがストーリーになると確信していました。自分はあまり出しゃばらず、まず取り組むのは高谷監督、岡見コーチをサポートすること。悩むことなく、あのリアルなスタイルになりました。自分も、最近はそこまで詳しくないですけど昔は格闘技が大好きだったので。ファンの気持ちになるとガチな部分にいってみたいんです」

 あえて「最近はそこまで詳しくない」と前置きするあたりにも“分かってる感”がある。コアなファンは、格闘技(プロレス)好きとしてメディアに登場する有名人に対してある種の警戒心があるのだ。ちょっとした言動から本当に詳しいかどうかを厳しくジャッジする。そんなファン心理を踏まえての「最近はそこまで」なのだ。

 LDHはドラマ/映画シリーズ『HiGH&LOW』のアクション描写でも高い評価を得た。LDH映画部門は三船敏郎のドキュメンタリーも配給しており、あらゆる面で“ガチ”な会社と言わざるを得ない。

漆間将生が格闘技を始めた理由

 “ガチ度”の強いオーディションには、さまざまな個性を持つ選手が集まった。漆間将生が格闘技を始めたきっかけは、父親からのDVだったという。自分と母親、祖母を父の暴力から守るために、彼は強くなるしかなかった。格闘家として成功し、父を見返したいという思いもあった。

 だが試合で結果を出していくと仲間が増え「お前はここで収まる人間じゃない」と背中を押された。目標は「世界」になった。地元の鹿児島から昨年、上京。人生をかけてこのオーディションに臨んだ。

 最終審査試合は、前半がオーディション参加者同士の対戦、後半は“外敵”選手を迎えての対抗戦だった。アマチュアで実績のある漆間は後半戦に出場。対戦したのは大沢の愛弟子、吉村海飛だ。高校時代に極真空手日本一、アマチュアMMAで7連続KO勝利中の吉村の参戦について、大沢は「いいんですか?」と語っている。「勝っちゃいますけど番組的にいいんですか?」ということだろう。

 漆間はどれだけ殴られても前に出てテイクダウンを狙った。「これしかない」と思い定めた、気持ちの伝わる闘いだったがスプリット・デシジョンで敗退。

漆間蒋生(右)

 番組内で注目度が高くても試合に勝てるとは限らない。最終審査のマッチメイクもまた“ガチ”だった。「そこは(高谷たちに)お任せしてますから」とEXILE HIRO。そして「勝ち負けは大事なんですけど、負け方にも物語が生まれる。そこから這い上がってくるのも強さだと思います」と付け加えた。高谷は「性格的にそういうマッチメイクしか思い浮かばなかったですね。自分が見たいというのもありましたし、選手にそれだけのポテンシャルがあると思った。ギリギリの一番いいマッチメイクじゃないかと」。

「僕と倫也くんならUFCチャンピオンになれる」

 対抗戦は『格闘DREAMERS』側の2連敗から、セミとメインで連勝という劇的な結末になった。セミで勝ったのが契約を勝ち取った宇佐美正パトリック。アマチュアボクシングで高校6冠を獲得した強豪だったが、東京五輪の予選は3位で出場権を逃した。夢を失ったところで知ったのがこのオーディションだった。

「僕は『格闘DREAMERS』に新しい夢をもらったので。恩返しがしたいんです。LDHの名に恥じないように結果を出したい。僕と倫也くんだったら日本人初のUFCチャンピオンになれると思ってます」

宇佐美正パトリック

 その宇佐美も「倫也さんはモノが違う」と言う中村は、最初から契約が決まっていた。一般参加者に混じってのオーディションは「第一の試練」としてだという。

 レスリングで全日本2連覇、U-23世界大会優勝という図抜けた実績を持つ中村は、MMA転向を表明した時から大型ルーキーとしてスポットを浴びていた。

 父の経営する会社が修斗の大宮ジムのオーナー、修斗のスポンサーでもあった。中村にとってジムは遊び場。「遊んでくれるお兄ちゃんたち」が、後楽園ホールで時に血を流しながら闘う姿に憧れた。その「お兄ちゃんたち」とはエンセン井上であり朝日昇。レスリングを習うきっかけは、山本美憂が大宮ジムで指導を始めたことだった。

「だから僕はMMAと向き合ってきた年月が違うんです」

 レスリングで五輪を目指しながら、MMA転向のタイミングを今か今かと待っていた。“オリンピックに出られなかったからプロに”ではない。初めからMMAファイターになりたくてレスリングをやってきたのだ。

「ポテンシャルがないと分かれば契約終了もある」

 最終審査の最終試合。それは番組のクライマックスでもある。「負けたら他の選手に契約を譲らなきゃいけない」と試合前の中村。高谷は「大丈夫だと思いますけど」としながら「もし世界を目指すポテンシャルがないと分かれば契約終了もある」と語っていた。

 だが試合が始まってみれば完全な杞憂だった。同じレスリング出身で、MMAでのキャリアでは上回る新井拓巳を相手に試合開始42秒での勝利。しかもノックアウトだ。意識していたというジャブを丁寧に突き、カーフキックで転倒させると左ストレートを軸にラッシュをかけて倒し切った。右足を前に出した構えはレスリングの「右」。打撃系格闘技ではそれがサウスポーの構えになるからフィニッシュブローは左だ。左で強打を放つことにやりにくさもないという。

中村倫也

「体の使い方に関しては、レスリング時代からかなり研究してきたので」

 大物。逸材。あるいは出自も含め“MMAの申し子”と呼ぶべきか。レスリングベースにして打撃も圧倒的。思い切りのよさもあり、デビュー当時の山本“KID”徳郁を思わせる試合だった。そう本人に言うと「それが一番嬉しい褒め言葉です」。

白濱亜嵐「所属だもん。誇らしいよ」

 オーディション参加は試練であると同時に大きな刺激にもなった。目標はと聞けばみんなが「世界一」、「UFCチャンピオン」と答える。無謀すぎて笑われるような夢を堂々と語る仲間たちがいてよかったと中村は言う。彼らに溶け込みながら、契約選手として引っ張らなければという思いもあった。

「これが所属(の実力)です」

 試合を終えた中村は会心の笑顔を見せる。傍にいたのは白濱亜嵐だ。

「(自分たちと同じLDH)所属だもん。誇らしいよ」

白濱亜嵐(左)

 最終審査試合では、THE RAMPAGEとGENERATIONSのメンバーが交替でセコンドにもついていた。判定では手を合わせて祈り、KOには立ち上がってガッツポーズ。選手たちに対して「男として尊敬の思いしかない」とRIKU(THE RAMPAGE)は言った。

 選手たちの頑張りに胸を打たれたのはEXILE HIROも同じだったようだ。試合後すぐ、合格者を決める会議が始まる。選手と取材陣は結果が出るのを待っていたが、収録再開時間は2度の延長となった。中村と宇佐美の合格は文句なしだったが、それ以外の選手を簡単に「失格」と判断できなかったのだ。

「今までにない集団になってもらえたら」

 協議の末に決まったのは、5名を「仮契約」とすること。EXILE HIROはこれまでの経験から「チームの強さ」を重視しているという。

「チームって凄く人を育てるし、チームのためにと思ってやると最終的に本人も強くなるんです。お互い切磋琢磨して、今までにない集団になってもらえたら」

 「LDH FIGHTER BATTLE AUDITION Ⅱ」の開催発表とともに『格闘DREAMERS』シーズン2放送も決定。プロデビューなど契約選手の活動や仮契約者の再チャレンジ、新たな参加者を追っていく。その先、来年春ごろには興行開催も計画しているという。

「選手のみなさんが集中して格闘技に打ち込んで、引退した後も安心できる仕組み作りをしていきたい。そういう意味でも興行は大切なんです」(EXILE HIRO)

 育成から試合、それに(たとえば指導者などの)セカンドキャリア。入口から出口まで、格闘技界、格闘家の人生にまるごとコミットしようというわけだ。「芸能事務所に何ができる」と思ってしまう格闘技ファンもいるはずだが、そこも視野に入っている。

コア層も切り捨てるつもりはない

「シーズン2もしっかりしたドキュメンタリーにしたいですね。その延長線上に興行がある。LDHが関わる格闘技イベントなので、今までにないスタイルで、いろいろなジャンルのファンに楽しんでもらえるような興行を作れたら。興行の中でどうLDHらしさを出すのかは模索中です。格闘技ファンのみなさんにも喜んでもらいたいですし、格闘技ファン以外のファン層も呼び込みたい」

 たとえば一般層向けと格闘技ファン向け、系統を分けてのイベント作りもありうるとEXILE HIRO。できるだけたくさんの人に見てほしいという思いは、ライブと変わらないのだろう。その「たくさん」には当然コア層も入る。切り捨てるつもりなどないわけだ。一方、番組ハッシュタグをツイッターで追うと、LDHのファンが格闘家たちのドラマに夢中になっていた。

 番組を見て試合を取材した立場としては“LDHの格闘技”がコアな格闘技ファン層に嫌われることはなさそうな気がする。むしろ格闘技マニアがTHE RAMPAGEやGENERATIONSを好きになる可能性だってあるかもしれない。それくらい、LDHの“ガチ度”は格闘技と相性がいい。

文=橋本宗洋

photograph by AbemaTV.inc/荒金大介