大学の陸上部員にとって5月の関東インカレは“初夏の総力戦”だ。長距離以外も強化している大学は「総合優勝」「1部残留」「1部昇格」というチームの大きな目標がある。箱根駅伝を目指す大学にとっても現時点での実力をチェックできる。今年は20〜23日に相模原ギオンスタジアムで開催されたが、長距離種目は例年以上に留学生ランナーの姿が目立った。

 男子1部は5000mに4人、10000mに3人、ハーフに3人。同2部は5000mに6人、10000mに5人、ハーフに2人。留学生が過去最多のエントリーをしていたのだ。そして、すべての長距離種目はケニア人選手を軸にレースが進んだ。

イェゴン・ヴィンセントはじめ完勝が続出

 初日のハーフマラソンは非公認(20.8km)で行われ、1部は留学生3人がトップ集団を形成。ライモイ・ヴィンセント(国士大)が1時間1分13秒で制すと、1秒差でチャールズ・ドゥング(日大)、2秒差でポール・オニエゴ(山梨学大)が続いた。日本人トップは四釜峻佑(順大)で1時間2分26秒だった。

 2部はルカ・ムセンビ(東京国際大)を先頭にレースが進み、最後は3人がスパート合戦を繰り広げた。西久保遼(青学大)が1時間2分00秒で競り勝ち、0秒差で花尾恭輔(駒大)、1秒差でムセンビという順位だった。

 1部の10000m(20日)と5000m(23日)は新登場のケニア人留学生が強さを見せた。1年生のサムソン・ディランゴ(流経大)だ。10000mは自己ベストの28分01秒80、5000mは後続に9秒差をつける13分39秒92で完勝した。

東京国際大のイェゴン・ヴィンセントは今年の箱根駅伝2区で圧倒的な走りを見せていた ©JMPA

 2部の長距離種目は今年の箱根駅伝2区で区間記録を打ち立てたイェゴン・ヴィンセント(東京国際大)が別格の走りを披露している。10000mは学生歴代3位の27分30秒24をマーク。2位のフィリップ・ムルワ(創価大)に約26秒、日本人トップの唐澤拓海(駒大)に約35秒という大差をつけた。5000mも強風のなかを独走して、2位のノア・キプリモ(日本薬科大)に約8秒差をつける13分42秒54でフィニッシュした。

関東インカレで起こっている“留学生問題”

 関東インカレは各種目の入賞者に得点(1位8点で2位以下は1点ずつ減少)が与えられ、その総合得点で順位がつく。1部は下位2校が降格となるが、今年は留学生の存在が明暗をわけた。

 降格となった総合15位の城西大は12点、同16位の国際武道大は5点。両校に留学生はいない。一方、総合14位の流経大は16点で1部残留を決めた。得点すべてが新戦力のディランゴがもたらしたものになる。同13位(17点)の駿河台大は1500mと4×400mリレーで入賞しているとはいえ、ジェームズ・ブヌカが長距離2種目で11点を奪ったのが大きかった。

 学生駅伝(出雲、全日本、箱根)では、留学生の出場は1校1人と決められているが、関東インカレに制限はない。複数の留学生を出場させている大学もある。あまり知られていないが、関東インカレでも“留学生問題”は起きている。

「留学生を一度入れるとやめられなくなる」

 そして箱根駅伝をめぐる戦いにおいても、留学生が欠かせない存在になりつつある。昨年10月の予選会では、国士大、山梨学大、拓大、駿河台大、日大、平成国際大、日本薬科大、桜美林大の8校がケニア人留学生を起用。今季は流経大が13年ぶりに留学生を入学させただけでなく、専大と大東大が初めて留学生を招聘しているのだ。

昨年の箱根駅伝予選会では拓殖大学のJ.ラジニが優勝。日本人トップになった順天堂大の三浦龍司は5着に入っている ©JMPA

 今年7年ぶりの箱根出場を果たした専大は大分東明高2年時に5000mでインターハイ2位、国体少年A優勝の実績を持つダンカン・キサイサが入学。3年ぶりの箱根復帰を目指す大東大には仙台育英高、コモディイイダを通じて合計6年間、日本で競技を続けてきたピーター・ムワンギが加入した。両校とも箱根駅伝に50回以上出場して、総合優勝も経験している古豪。もはやケニア人留学生は新興勢力の“専売特許”ではなくなっている。

 7〜8年ほど前、強豪校のある監督は、「留学生を一度入れるとやめられなくなる」とこぼしていたが、本当にその通りになった。

 10月の予選会ではケニア人留学生の争いがさらに激化するはずだ。本戦では留学生ひとりのパワーで上位を奪うのは簡単ではない。しかし、予選会では留学生がタイムを稼ぎ、日本人が集団走で手堅くまとめるという戦術が顕著になるだろう。そうなると留学生のいない大学は予選会を突破するのが難しくなり、留学生を入学させるチームがさらに増えるのではないだろうか。

「学ぶ」よりも「稼ぐ」意識が強い

 かつての山梨学大はケニア人留学生と日本人選手が互いに学び、チーム一丸となって、箱根駅伝で3度の総合優勝に輝いた。近年では、東京五輪の男子10000m日本代表に内定している伊藤達彦(Honda)が東京国際大在学時に練習で留学生に挑み続けて急成長した。一方、実際に取材をすると、3〜4年生になっても日本語でコミュニケーションをとるのが難しい選手も多くいる。

 ケニアから来日する選手の大半は、わずかな奨学金を貯金して、家族に仕送りをしている。彼らは日本で「学ぶ」ということよりも「稼ぐ」という意識の方が強い。コロナ禍で選手を現地で見極めることができないという理由もあるだろうが、近年は日本の実業団を経由して入学するケニア人選手が増えているのも気になる。

 大東大のムワンギだけでなく、1部で長距離2冠を達成したディランゴも実業団のサンベルクスを経て、26歳で流経大に入学した選手だ。現在3年生のチャールズ・ドゥングも小森コーポレーションを経て23歳で日大に入学している。

留学生にとって箱根駅伝は特別ではない

 このような状況を冷ややかな目で見ている関係者は少なくない。ケニア人選手を抱えるチームのある監督は、「実業団あがりの選手が大学に行ってもあまりモチベーションは上がらないんじゃないでしょうか。実業団はお金をもらって競技をしますが、大学ではそれほど対価をもらえませんからね。日本での生活経験があるので受け入れる側は楽でしょうけど、しっかりと面倒を見てあげないと頑張れないと思います」と話している。走力のある留学生を獲得したからといって、チームが強くなるとは限らないようだ。

 留学生のなかには1年目に強烈なインパクトを残しても、年々パフォーマンスを下げていく選手がいる。日本では絶大な人気を誇る箱根駅伝だが、ケニア人にとっては特別なものではない。創価大や東京国際大のように日本人選手が区間賞争いをするようなチームでないと箱根駅伝で勝負するのは難しい。留学生の存在をうまくいかして、チームをどう強化していくのか。指揮官たちの“指導力”が問われている。

留学生の増加はプラスの面が大きいから

 一方でケニア人留学生が増加したことは学生長距離界にプラスの面が大きい。国際大会に出場しなくても、強い外国人選手と戦うことができる。それが全体のレベルアップにつながっているからだ。

 今回の関東インカレでも「ケニア人留学生が相手でも1番を狙っていました」という石原翔太郎(東海大)が1部10000mで攻め込んだ。終盤はトップを奪う見せ場を作り、U20日本歴代2位の28分05秒91をマークして2位に入った。2部10000mも3位の唐澤拓海(駒大)が28分05秒76、4位の鈴木聖人(明大)は28分09秒24、5位の藤木宏太(國學院大)が28分10秒30をマークするなど日本人選手は過去最高レベルのタイムを残した。

1年生で箱根駅伝に出場し、3区で区間賞を獲得した東海大の石原翔太郎は、その後も好調を維持している ©Yuki Suenaga

 強い留学生の存在があるからこそ普段から“世界”を意識できる。箱根駅伝だけで終わらないためにも、日本人選手にはどんどんケニア人選手にチャレンジしてほしいと思う。

文=酒井政人

photograph by L:Yuki Suenaga R:JMPA