関東学生対校選手権、通称・関東インカレは、箱根駅伝と並ぶ非常に重要な大会である。

 冬のロードシーズンを終え、春からのトラックシーズンに向けて練習を積み重ねてきた選手がタイムと勝負の二兎を追う。ここでの結果が、秋の駅伝シーズンでの活躍に繋がっていくのだ。

 今年も男子1部、2部に駅伝の強豪校が参加しているが、トラックシーズンの“中間テスト”ともいえる関東インカレで結果を出し、順調に強化を進め、さらに強みを増しているような大学はあったのだろうか(好調トップ3編/不調だった大学編・ダークホース候補編に続く)。

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1位・駒大)“駅伝未経験の2年生”が「エース鈴木」を撃破

 箱根駅伝覇者・駒澤大学は、格段に強さを増していた。

 昨季の全日本大学駅伝では、最終区で逆転優勝。さらに箱根駅伝でも10区で奇跡の逆転優勝を果たし、まさに「逆転の駒澤」として強さを見せた。今季は、その経験をベースに戦力をさらに上積みしていくことになるが、各学年の選手の成長が著しい。

 関東インカレ前の日本選手権10000mでは、田澤廉(3年)が2位、鈴木芽吹(2年)が3位でフィニッシュし、実業団の選手を相手に堂々としたレースを見せた。タイムも田澤が27分39秒21、鈴木が27分41秒68。それぞれ日本人学生歴代2、3位に入る好記録で、ダブルエース誕生に駒大は沸き立った。

 なかでも、関東インカレでずば抜けた成長を見せたのが、唐澤拓海(2年)だ。

 大会初日での10000mでは藤木宏太(国学大)、近藤幸太郎(青学大)、鈴木聖人(明大)といった強敵に勝ち、留学生2人につづいて3位。5000mでは同期の鈴木にラストで競り勝ち、13分53秒11で3位。長距離2種目で日本人トップという見事な走りっぷりを見せた。5000mのレース後は、「芽吹が僕らの代のトップ選手。勝って、少しだけ自信になりました」と控えめに語っていたが、唐澤はなんと駅伝未経験者。こんなにすごい選手が……という驚きしかない。

©Getty Images

 鈴木が「負けたのは悔しいですが、唐澤が強くなったのは仲間としては心強い。2年生は、かなりレベルが高くなってきました」と語るように、2年生は10000mで27分台を持つ鈴木に加え、28分台が唐澤、白鳥哲汰、花尾恭輔らを含めて6名となり、まさに「黄金世代」になりつつある。

主力の退部・逮捕…それでも総合力は「大学ナンバー1」

 スピードと強さを持つ彼らが駒大の軸になっていくのは間違いなく、上級生、下級生に大きな刺激を与えている。鈴木は、「チームが新しく変わってから当たり前の基準が上がったなと思います。Bチームでも以前のAチームのレベルで練習している。本当にレベルが高くて自分もポイント練習で余裕がなくなってきています」と全体のレベルが相当高くなっているのを強く感じている。

 上級生では昨年箱根8区4位の佃康平(4年)が2部ハーフで7位入賞、9区6位の山野力(3年)が9位と結果を出し、2位の花尾とともに出場選手3人全員が10位以内に入る強さを見せた。2部1500mでは蓮沼直希(4年)が2位に入るなど、今大会は上位入賞者が続出。駒大は2部長距離5種目(1500m、5000m、10000m、3000m障害、ハーフ)でトップだった。

 夏合宿を経て、1年生が伸びてくると、さらに選手層は分厚くなる。大八木弘明監督は3大駅伝のエントリーとオーダーに頭を悩ませそうだが、それも嬉しい悲鳴だろう。関カレ前に部員一名が逮捕され、大会後には箱根4区11位で主力のひとりである酒井亮太(3年)が退部するなど部内が多少揺れているが、チームの総合力は大学ナンバー1。現段階の評価ではあるが、山上り区間がハマってくれば、箱根2連覇も見えてくるだろう。

2位・青学大)「抜群の安定感」と「選手層の厚さ」

 青山学院大学は、今シーズンも抜群の安定感を見せている。

 素晴らしい走りを見せたのは、男子2部ハーフで優勝した西久保遼(3年)だ。ラストスパート勝負になり、花尾(駒大)と同タイム(62分)ながら優勝。「きついレースの中、後半に粘って勝ち切ることができた。今後のいい収穫になりました」とホッとした表情を見せた。

 さらに箱根6区3位の高橋勇輝(4年)が63分11秒で10位、横田俊吾(3年)が63分16秒の11位と健闘し、ロングに強いところを見せた。横田は昨季、箱根9区にエントリーされながら当日変更で飯田貴之(4年)と入れ替わって出走できなかったが、今季はエントリーはもちろん、出走にも絡んできそうだ。

 10000mでは、箱根7区3位と好走し、次代のエース候補である近藤幸太郎(3年)が28分12秒49で6位入賞。4月の学連記録会10000mで28分10秒30の自己ベストを出し、日本選手権10000mB組では28分24秒84で5位に入った。着実にステップアップしており、夏を越えてさらにスケールアップしそうだ。同じく10000mでは箱根4区4位の佐藤一世(2年)が28分50秒56で13位ながら自己ベストを更新した。

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 5000mでは、ルーキーの太田蒼生、若林宏樹、鶴川正也の“ニュー三羽烏”が出場。太田は14分07秒90で10位、若林は2000m付近で日本人トップに立つなど堂々とした走りを見せて12位(14分11秒94)。鶴川はスタート直後先頭に立つなど積極的な姿勢を見せて14分22秒91で16位だった。鈴木芽吹(駒大)ら力のある選手が多数いる中で、優勝争いには加われなかったが、1年生が3人揃って順位をまとめてきたのは、タイムだけではなく、力があることを証明したと言える。

 青学はロングに強い印象があるが、今大会ではミドルもまずまずの結果を出した。1500mでは山内健登(2年)がラスト400mでラストスパートをかけて一時はトップに立ったが、惜しくも6位入賞に終わった。3000m障害では持ちタイムトップの小原響(2年)が優勝を狙ったが、マークや暑さ、風にも苦しみ、それでも5位に入賞した。

 今回、出場がなかった上級生は、5月の日体大記録会5000mで主将の飯田が13分58秒32で自己ベストを更新。絆記録会では、岸本大紀(3年)が5000mで13分58秒18の自己ベストを出しており、調子を上げている。昨季は故障で1年を棒に振ったエースが回復してくれば他校にとっては脅威、チームにとってはこれほど心強い選手はいない。

 4月のトラックシーズンの幕開けから関東インカレまで28もの自己ベストが生まれ、チーム全体が活気づいている。田澤(駒大)のようなスーパーな選手、ゲームチェンジャーと呼べる選手はまだ存在しないが、選手層の厚さでは、駒大と双璧をなしており、2年ぶりの箱根王座奪回に向けて今のところ順調だ。

3位・早大)27分台の選手が3名の快挙

 早稲田大学は今シーズン、怖い存在になりそうだ。

 昨年12月の日本選手権10000mで中谷雄飛(4年)が27分54秒06、太田直希(4年)が27分55秒59とともに27分台を出すと、トラックシーズン幕開け直後の4月、井川龍人(3年)が27分59秒74と自己ベストを10秒以上も縮めるタイムを出した。早大は同一チームで初めて10000m27分台の選手3名を擁することになり、駒大や青学大、東洋大が成し得なかった快挙を達成した。

 その刺激を受け、いい状態で関東インカレに突入したが、目立ったのはエース格の3人ではなく、菖蒲敦司(2年)だった。

 1500m決勝では、ラスト200mで三浦龍司(順大)に先行するもホームストレートでかわされ、2秒の差をつけられて2位。だが、3000m障害では先行する服部壮馬(順大)をラストスパートで追い抜き、8分45秒95で優勝。スピードとタフさが求められる2種目で存在感を示した。

 菖蒲は、昨季の全日本大学駅伝5区で駅伝デビューを果たしたが、箱根駅伝は未経験。「5000m、10000mで結果を出したいと思っているので3障は今回まで」と視線をすでにロングと箱根駅伝に向けている。箱根5区19位の諸冨湧(2年)は(1部)3000m障害で7位、箱根6区8位の北村光(2年)は8位と、ともに粘り強さを発揮し、好調をアピールした。

 1500mでは、高校歴代4位タイの3分44秒62を持つ石塚陽士(1年)が3分58秒38で6位入賞を果たした。1年生ながら物怖じせずに積極的に走る姿勢は、今後の伸びしろを感じさせた。

左から©Yuki Suenaga

 ハーフでは、佐藤航希(2年)が62分53秒で6位入賞。「日本人トップになる」という強い気持ちで臨んだが達成できず、悔しさを見せたが、よみうりランド内の起伏のある厳しいコースでの結果だけに、秋の駅伝に向けて大きなアピールになっただろう。

 10000mは、エースの中谷、太田が出走したが、中谷は足のトラブルで終盤トップ争いから脱落し、28分38秒45で8位。太田は28分47秒39で13位に終わり、ともに入賞はならなかった。中谷は「足に痛みが出て、連戦で疲れている中でのレースだったけど、余裕はあった」と悪い中でも自分なりの手応えを感じているようだった。全日本1区6位の辻文哉(2年)は29分29秒02の21位だったが、順位ほど走りは悪くはなく、これから箱根エントリーに絡んできそうな気配だ。

 5000mは、主将の千明龍之佑(4年)がラスト1周で三浦(順大)の前を走り、日本人トップを目指したがホームストレートで惜しくも敗れた。それでも13分49秒32の3位と気を吐き、中谷、太田とともに早大の柱になったことを証明した。また、同じ5000mに高校歴代2位・U18日本記録の13分36秒57を持つ超大物ルーキーの伊藤大志(1年)が出走したが、14分18秒83で17位だった。「ラストスパートに課題が」と語るように、現状を把握できたことは大きな収穫になったはずだ。

昨季は箱根6位「予想以上に選手が成長している」

 早大は、千明、中谷、太田の4年生トリオに井川が引っ張る形になるだろうが、早大浮沈のキーを握るのは、2年生だろう。今回活躍した菖蒲、諸冨、北村が長い距離にフィットし、佐藤、辻が秋までにさらに成長していければ、相楽豊監督の選択肢が一気に広がる。ここに箱根デビュー戦で9区4位と好走した小指卓也(3年)、4区3位とレースを作った鈴木創士(3年)、さらにスピ―ドがある半澤黎斗(4年)、山口賢助(4年)が絡んでくると、選手層は相当分厚くなる。

 千明は、1部長距離5種目で2位になったことについて「今回はチームとしてすごく自信があったんですけど、少し物足りない結果で終わってしまった」と、好タイム続出の流れと結果がかみ合わなかったことに悔しさを見せた。だが、その悔しさ自体が、早稲田全体のレベルが上がっていることを示すもの。昨季、6位に終わった箱根駅伝の後、相楽監督は「勝てるだけの全体の力がまだ足りない。全学年でのレベルアップが必要です」と語っていたが、予想以上に選手が成長しているのではないか。

 昨季は、4区の鈴木が3位まで順位を上げたが、そこからさらに順位を上げていけるだけの力が整いつつあるようだ。

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文=佐藤俊

photograph by Yuki Suenaga