プレミアリーグの2020-21シーズンは、マンチェスター・シティの戴冠で幕を閉じた。そして、サウサンプトンにレンタル移籍した南野拓実も、コロナ禍で無観客試合が続いた異例のシーズンを終え、現在は日本代表に招集されている。

 南野の今季成績を振り返ると、シーズン前半は所有権のあるリバプールで9試合(先発は2試合)に出場し、1ゴールを記録。後半戦から加入したレンタル先のサウサンプトンでは10試合(先発は9試合)に出場し、2ゴールを挙げた。在籍2季目となったプレミアリーグで飛躍が期待されたが、十分な結果を残せなかったというのが実情だろう。

プレミアリーグ初得点となった渾身のシュート©Getty Images

サウサンプトンでも常時スタメンではなかった

 特に、出番増と結果を期待されたサウサンプトンでのレンタル移籍は、不完全燃焼に終わった印象が強い。デビュー戦となったニューカッスル戦でGKの肩上を抜く豪快なゴールを決め、出場3試合目のチェルシー戦で鮮やかなキックフェイントから2点目を奪取。ここから勢いに乗ると思われたが、2月20日のチェルシー戦での得点が最後になった。

チェルシー戦のゴールは相手GK、DFにしりもちをつかせる鮮やかな一撃だった©Getty Images

 また、常時先発していたわけではなく、ベンチスタートの試合も少なくなかった。ただし、この点はラルフ・ハーゼンヒュットル監督の起用方針が響いた。

 攻守両面で「アグレッシブなプレー」と「豊富な運動量」を求める戦術は、選手の体力を著しく消耗させる。「1週間に複数の試合をこなすのは不可能。特にミナミノの場合は、シーズン前半戦で出番が少なかった」(ハーゼンヒュットル監督)とし、積極的にローテーションを組み込んだ。実際、チェルシー戦でゴールを決めた3日後のリーズ戦はベンチスタート。それ以降は1週間に1試合のペースで出番が与えられた。

代表戦後ベンチが増えたが……実際の出来はどうだった?

©Takuya Sugiyama

 リズムが狂ったのは、3月に行われた日本代表戦がきっかけだった。代表戦直後のバーンリー戦(4月4日)は「移動と試合で疲れが見える」(ハーゼンヒュットル監督)との理由でベンチ行きを命じられた。このタイミングで故障していた選手が次々と復帰し、結果として3試合連続でベンチスタートになった。

 それでも5月のシーズン終盤4試合で3試合に先発し、最終的に、出場資格のあったリーグ戦17試合のうち10試合に出場した。

 では、パフォーマンスはどうだったか。

 主戦場としたのは4-2-2-2の攻撃的MF。サウサンプトンは「ハイライン&ハイプレス」の戦術で局地的に密集地帯を作り、高い位置でボールを刈り取って一気に攻め込むプレーを得意としている。

 南野は前所属先のザルツブルクで似たような戦術をマスターしており、チームにもスムーズに溶け込んだ。その成果が、加入直後に決めたニューカッスル戦とチェルシー戦のゴールだった。

MFとして攻守のバランスを取る賢さの両面性

 しかし、試合を重ねるごとにゴール前での怖さが萎んでいった。目立ったのは、MFとして攻撃と守備のバランスを意識したプレー。特に4月以降はチーム全体のバランスを考えてのカバーリングが増え、攻撃面でのインパクトが小さくなっていったように思う。前線に飛び出してもパスが出てこなかったり、あるいは相手選手にブロックされ、シュートまでいけないシーンが目についた。

 だが、こうした南野の動きをハーゼンヒュットル監督は「ミナミノは出場した試合で非常に効果的な影響をもたらした。リバプールのようなクラブが彼を獲得した理由がよくわかった」と高く評価している。

ネガティブトランジションの素早さは南野の持ち味だ©Getty Images

 その理由は、サウサンプトンのメンバー表を確認すると朧げながら見えてくる。

 南野がプレーする攻撃的MFには、ネイサン・レドモンドやテオ・ウォルコット、ネイサン・テラ、ムサ・ジェネポ、スチュワート・アームストロングが在籍している。南野とアームストロングを除けば、すべて独力での単独突破を得意とするウィンガータイプの選手ばかりだ。

“ネガトラ”を実行できる南野が先発した時の勝率

 南野は、攻撃から守備の切り替え(ネガティブトランジション)を素早く行なうことができ、豊富な運動量で広いエリアをカバーできる。そして、チャンスと見ればゴール前に顔を出し、決定機を呼び込むことができる。こうしたプレースタイルを、オーストリア人指揮官は「貴重な戦力」として非常に気に入っている様子だった。

 興味深いのは、南野が先発したリーグ戦の勝率だ。

 先発試合では「3勝2分4敗」を記録したのに対し、南野がベンチスタート、もしくは欠場した試合では「1勝7敗」と大きく負け越した。豊富な運動量で前線から最終ラインまで走り回った南野の貢献とハードワークが、見えないところでチームの成績に影響をもたらしたと言っていいだろう。

英全国紙のサッカー部門主筆に評価を聞く

 これらを踏まえた上で、英全国紙サンデー・タイムズでサッカー部門主筆を務めるジョナサン・ノースクロフト記者に南野の評価を聞いた。同記者は「リバプールに戻れるかという観点で評価を下すなら、厳しいものにならざるをえない」と語る。その理由を次のように語った。

「守備や豊富な運動量での貢献度は、確かに高かった。しかし、それらを加味しても、ゴール前での危険な動きが足りなかった。特に気になったのは、ゴール付近でのプレー。ボール保持時に相手から激しく体を寄せられると、体勢を崩してしまうことが多かった。また、ポゼッションを失いたくないのか、仕掛けるべき場面で無難な横パスやバックパスが多いのも良い印象を受けなかった。

 しかし、強調しておきたいのはプレースタイルの違いだ。突破力の高いウィンガー、例えばウォルコットやテラとはタイプが違うだけに、彼らと同系列で評価を下すのはナンセンスだろう。そもそも、広範囲のエリアをカバーできる南野とはタイプが違うし、監督が求めているものも異なるからだ。サウサンプトンでの南野のプレーや役割から言えば、ハーゼンヒュットル監督の評価は理にかなっている。

 デビュー3試合で2ゴールを奪ったスタートは素晴らしかった。最高の形で始まったと思うし、ハーゼンヒュットル監督の戦術にもフィットしていた。しかし残念だったのは、繰り返しになるが、ゴール前での怖さが薄れていったこと。結果として、期待していたほどの成功は収められなかった」

サイドから中央エリアに入り込んでいく動きは、南野独特のプレースタイルだったが©Getty Images

「タキはリバプールの長期的構想に入っている」

 ならば、来季の去就はどうなるか。サウサンプトンのハーゼンヒュットル監督は、南野について所有権を持つリバプールとすでに交渉を行なっていると明かしている。「まだ何も決まっていない」と語りながらも、サウサンプトンは完全移籍での獲得、もしくは来季のレンタル続行に強い興味を示している様子だ。

 一方、リバプールのユルゲン・クロップ監督は南野をレンタルに出す際に、サウサンプトン側が要求した買取オプションを拒否している。シーズン中にも「タキは長期的視野に立ったチーム構想に入っている」と強調。現時点で言えば、南野はリバプールに復帰する見通しだ。

リバプールの内部情報に詳しい記者によると……

 ただし、リバプールの内部情報にも詳しいノースクロフト記者によると、「リバプールの補強会議はまだ本格的に始まっていないが、若い新FWの獲得に動くと見ている」という。「今季の後半戦のようにリバプールで出場機会が見込めないのであれば、南野はもう1年出される可能性が高い」とし、次のように言葉を続けた。

「クロップ監督は南野を評価していると繰り返し述べているが、今冬の移籍期間にサウサンプトンにレンタルに出したのは事実。ドイツ人指揮官は『出場機会を増やすため』と説明したが、レギュラーとして起用するにはまだ十分でないと考えていたのは明白だ。

 これまでリバプールでは、モハメド・サラー、サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノの3トップが不動の存在だったが、いずれも年齢が30歳の大台に近づいている。そのため、来シーズンからこの3トップにマイナーチェンジを加えていくと思う。成長著しいディオゴ・ジョタの出番を増やすのはもちろん、オランダ代表FWドニエル・マレン(PSV)のような若いCFを獲得するシナリオも十分に考えられる。ここに、南野は割って入れるか。

 結論から先に言えば、南野はもう1年レンタルに出される可能性が高い。

 サウサンプトンで説得力のある結果を残せなかったのが理由のひとつ。守備が良くても、リバプールのレギュラークラスに入るにはやはり得点力がなければ厳しいからだ。スペインのセビージャも話に出ているが、行き先はおそらくサウサンプトンだろう。やはり、ハーゼンヒュットル監督が高く評価しているのは大きい。ここでもう1年、クロップ監督は南野をレンタルに出し、プレーと成長度合いを確認していくのではないか」

クロップは南野に対して一定して高い評価を与えている©Getty Images

サウサンプトンで主役になり、リバプールで

 今シーズンのサウサンプトンは好スタートを切り、一時は4位につけた。しかし、アグレッシブな戦術が祟り、冬頃から怪我人が続出。ちょうどこのタイミングで獲得したのが南野だった。ハーゼンヒュットル監督は今オフについて聞かれ、「今シーズン、失敗した理由は分かっている。夏の市場で選手層を厚くする必要がある」とし、積極的に補強に動くと力を込めていた。

 思い返せば、サウサンプトンからリバプールに移籍していった選手は実に多い。マネ、ビルヒル・ファンダイク、アダム・ララーナ、デヤン・ロブレン、ナサニエル・クライン。いずれもサウサンプトンで主力としてフル稼働して評価を上げ、リバプールにステップアップしていった。裏を返せば、サウサンプトンで主役になれなければ、リバプールで成功する道も見えてこない。

 もちろん、コロナ禍で補強資金が限られている今夏の移籍市場は不確定要素があまりに多い。補強がうまく進まなければ、リバプールが南野を呼び戻す可能性も十分ある。

 ただし、ひとつだけ確かなのは、来シーズンは南野にとって重要なターニングポイントになること。どこでプレーしようとも、今シーズン以上に奮起と結果が必要になるのは間違いない。

文=田嶋コウスケ

photograph by Getty Images(L/R)/JMPA(C)