箱根駅伝は人を成長させる大会などと言われることもあるが、それは出場した選手に限ったことではなく、その舞台に立てなかった選手にも同じことが言えるかもしれない。5月の関東インカレでは毎年そんなことを思わされる。今年もやはり大会初日のハーフマラソンからそんな印象を持つことになった。

 上級生を“新戦力”と称するのはおこがましいかもしれないが、今年の箱根駅伝に不出場だった選手の関東インカレでの活躍を振り返りたい。

「青学の代表としてライバル校には絶対に勝つ」

 関東インカレで長距離種目の花形といえば5000mや10000mだろう。ハーフマラソンには、ロードに強い選手はもちろんだが、時間をかけて地道に取り組んできた上級生がエントリーされるケースも多い。

 対校戦の関東インカレは、1部校と2部校とに分かれるが、こと長距離種目に関しては、1部校と2部校とで大差はない。年によっては2部校のほうがレベルが高いこともあるほどだ。現に今年は、今年の箱根駅伝を制した駒澤大をはじめ、創価大、青山学院大、帝京大、國學院大、東京国際大と、箱根のシード校の半数以上が2部校にいる。シードを落としはしたが、好選手がそろう明大も今年は2部校だった。

 その2部のハーフマラソンで優勝を飾ったのが、青山学院大の西久保遼(3年)だ。西久保は、佐賀・鳥栖工高時代から駅伝では全国大会で活躍し、大学1年時には5000mで13分台に突入している。しかし、強豪・青山学院大ではなかなか活躍の機会はなく、これまで学生三大駅伝ではエントリーメンバーにさえ一度も入ることができずにいた。昨年度は貧血にも苦しんだ。それでも、練習は継続し、3年目の今季、ブレイクしようとしている。4月には10000mで28分21秒39と、チーム2番目のタイムを叩き出し、それまでの自己記録を一気に55秒も更新していた。

「駒澤さんも調子がどんどん上がってきているので、その対抗として“カンカレ(「関東インカレ」のこと)”で強さを見せるのは大事。ライバル校の選手に負けることは絶対にダメなので、青学の代表として絶対に勝つっていうイメージをもって走りました」

駒大の花尾に勝ち切った青学大

 そのライバル校の花尾恭輔(駒大2年)をゴール直前にかわし、東京国際大の留学生、ルカ・ムセンビ(3年)や、今年の箱根5区区間賞の細谷翔馬(帝京大4年)をも破って、西久保は初タイトルを手にした。過去にハーフマラソンを制した青学大の選手には神野大地や2年連続優勝の池田生成がおり、池田は4年目に箱根駅伝の9区で活躍した。西久保にも、池田のような燻し銀の走りを期待したい。

順大に山上り候補の1人が?

 1部のハーフマラソンで日本人トップの4位に入った四釜峻佑(順大3年)も、青学大の西久保と同様に、これまで大学駅伝で出番がなかった選手だ。昨年はチャンスもあったが、箱根駅伝予選会でチーム最下位の75位に終わり(75位も決して悪い成績ではない)、本選ではエントリーさえも叶わなかった。

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 四釜は、今年4月に3日間にわたって行われた山形県縦断駅伝競走では、2区間で区間新・区間賞に輝いており、勢いがあった。

 1部のレースは留学生3人が飛び出し優勝争いを繰り広げたが、四釜は第2集団でレースを進め、終盤に後続を振り切って日本人1位を勝ち取った。

「まだ箱根駅伝にエントリーすらされたことがないので、今年は走ってチームに貢献したい」

 四釜はこう話すが、大きなアピールになった。よみうりランドの特設コースは、アップダウンの激しい周回コースだったが、起伏が得意という四釜には分があった。今年の箱根5区を走った先輩の津田将希(4年)も7位に入賞したが、津田を上回る成績に、早計ではあるが、四釜も山上り候補の1人と見ていいのではないだろうか。

「箱根駅伝に出られなかったことが一番悔しかった」

 今回の関東インカレで最大のブレイクを果たしたのは、駒大の唐澤拓海(2年)だった。埼玉・花咲徳栄高時代から全国都道府県対抗駅伝の区間賞などの実績がある選手だったが、大学1年目は「スタミナが全くなかった」と長い距離への移行に苦戦した。箱根駅伝は6区の控えとして16人のエントリーメンバーに入ったが、結局出番はなかった。

「箱根駅伝に出られなかったことが一番悔しかった。その分、絶対に誰にも負けないっていう気持ちで、練習に取り組んでいます」

 2月、3月は徹底的に走り込んで、課題のスタミナ強化に努めた。その結果、持ち味のスピードを試合で生かせるようになった。そして、今季は春先からの絶好調を維持し、関東インカレでは2部の5000m、10000mで両種目とも、各校のエース格の選手とハイレベルなレースを展開し、日本人トップの3位を奪った。5000mでは、同級生で1年時から主力として活躍する鈴木芽吹にも競り勝った。

駒大の

「箱根王者として日本人トップは取らないといけないという思いがありました」

 すでに主力としての自覚は十分。田澤廉、鈴木とともに、駅伝でも頼もしい活躍を見せてくれそうだ。

今季も1年生が豊作で下からの突き上げも激しく

 1部校では、1500m2位、3000m障害優勝と2種目で活躍した菖蒲敦司やハーフマラソン6位の佐藤航希(ともに早大2年)も、やはり箱根駅伝を走れなかった悔しさから奮起した選手たちだ。今季はともに5000mでも13分台の自己記録をマークするなど好調だ。早大は3、4年生に実力者がそろうが、下からの突き上げも激しくなりそうだ。

 今季も1年生が豊作で、さっそく関東インカレで活躍を見せた選手もいた。

 1部3000m障害で順大の服部壮馬が2位と健闘。1部1500mでも、中野倫希(中大)が5位、石塚陽士(早大)が6位と2人の1年生が入賞した。

 2部5000mでは、中央学院大の吉田礼志が、並みいる実力者を相手に7位に割って入った。同種目では青学大の1年生トリオ(鶴川正也、若林宏樹、太田蒼生)が注目されていたが、いずれも入賞はならなかった。

 また、今季の1年生では、5000mの高校記録保持者の石田洸介(東洋大)が最注目だが、1月に左足の足底付近をケガした影響で出遅れており、関東インカレも出場が見送られた。順調にいけば、6月の日本選手権が大学デビュー戦になる見込みだという。

 4月にいきなり10000mで28分38秒88という好記録を叩き出した平林清澄(國學院大)も、6月の全日本大学駅伝関東選考会に備えて、関東インカレには出場しなかった。

 一夏を越えれば、各校にまた新たな戦力が出てくると思うが、春先から頭角を現した選手の成り行きも見守っていきたい。これもまた大学駅伝の楽しみ方の1つだろう。

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文=和田悟志

photograph by Yuki Suenega