10000mで27分台の記録をもつ大学生ランナーは、かつては在学中から世界大会に出場するほどの実力をもった選手だけ。ほんの一握りに過ぎなかった。もちろん今も27分台を出すのは簡単なことではないが、現在は以前ほどは珍しいことではなくなったのも事実だろう。

 それでも、その27分台ランナーが、同時期に同じ大学のチームに複数人在籍するのは、かなり珍しい例といっていい。以前には設楽啓太・悠太兄弟が東洋大在学中に27分台をマークしたことがあったが、3選手も在籍しているのは、大学駅伝史上初めてのことだ。これをやってのけたのが早稲田大学だ。昨年12月の日本選手権で、中谷雄飛、太田直希(ともに現4年)が大台に突入すると、今年4月10日には井川龍人(3年)がチーム3人目の27分台ランナーになった。

「確かに初めてのことかもしれませんが、秋になったら、27分台を5人ぐらい抱えるチームが出てくるんじゃないかなと思っています。駒澤さんなんかがそうなると思いますよ」

 相楽豊駅伝監督はいたって冷静に現状をとらえている。たしかに、駒澤大もすでに田澤廉(3年)、鈴木芽吹(2年)の2人の27分台ランナーを擁し、唐澤拓海(2年)もあと一歩まできている。だが、相楽監督の言葉は「でも……」と続く。

「うちはうちで、千明(龍之佑、4年)とか、まだ何人か27分台が行けると思っています」

1月の箱根駅伝では8区を走った千明 ©Nanae Suzuki

 その相楽監督の言葉を裏付けるかのように、5月20日から23日に開催された関東学生陸上競技対校選手権(関東インカレ)では、むしろ27分台トリオ以外の選手の活躍が目立った。

「三浦が出ていない3000m障害は、優勝が絶対条件」

 4日間フル稼働だったのは、2年生の菖蒲敦司。1500mと3000m障害に出場し、それぞれの予選、決勝と4日間で4レースがあり、連日トラックを駆け回った。

 1500mでは、同級生の三浦龍司(順大)にラストスパートで引き離されたが、2位と奮闘。先に仕掛ける積極性も見せた。

1500mでは順大の三浦(中央)に続く2着に入った

 そして、最終日の3000m障害決勝では、疲労を抱えながらも勝負強さを発揮した。

「3000m障害は、三浦が出ていないので、優勝は絶対条件かなとずっと感じていました」

 ラスト700mで先頭に立つと、追い風に乗って後続をぐんぐん引き離し、自己ベストで有言実行のタイトルを手にした。

 昨年度、コロナ禍の自主練習期間でスピードの強化に取り組んだというが、その成果が2年目に発揮されたわけだ。

相楽監督「まずは5000mでしっかり」

「本来は5000mで出場を狙っていたんです」と菖蒲は明かすが、「5000m、10000mは(候補選手が)渋滞していて……」(相楽監督)、菖蒲は高校時代に実績のある3000m障害に回ることになった。さらに、1500mに出場予定だった選手の故障もあって、2種目に挑み、結果を残した。

「元々持っていたスパート力にさらに磨きがかかったし、本人もかなり自信を持ってきているので、まずは5000mでしっかり形として出してもらいたい。

 長い距離も、3月の学生ハーフで15kmまでは先頭集団でレースができた。それ以降は足が止まっちゃったんだけど、練習量を増やしていけば、長い距離もいけるっていう手応えは本人にもある。1500mからハーフマラソンまでいける選手なので、今後の飛躍を期待したい1人ですね」

 相楽監督も菖蒲の2年目に高い期待を寄せている。

 ルーキーイヤーの昨年度は全日本大学駅伝で5区を走ったが、区間9位と振るわなかった。箱根駅伝は16人のエントリーメンバーには入ったものの、諸冨湧、北村光と同級生が2人も出場するなか、出走は叶わなかった。

 だが、菖蒲はもともと、スピードだけでなく、ロードでも強さを発揮できる選手だ。高校2年時の全国都道府県対抗男子駅伝では、1区で上級生を破って区間賞を獲得した実績がある。そのポテンシャルの高さは折り紙付きだ。トラックの勢いそのままに、今季こそ駅伝でも菖蒲の活躍が見られそうだ。

早大卒オリンピアンに割って入った千明龍之佑

 もう一人、新シーズンに入って絶好調なのが、駅伝主将でもある千明だ。5月4日の法大競技会では、5000mでそれまでの自己記録を一気に約23秒も塗り替え、13分31秒52の好記録をマークした。この記録は伝統ある早大競走部で歴代5位の記録に相当する。ちなみに、歴代1〜4位、6位の早大OBはというと、1位・竹澤健介、2位・大迫傑、3位・渡辺康幸、4位・花田勝彦、6位・瀬古利彦と、全員がオリンピアン。錚々たる顔ぶれの中に、千明は割って入った。

 千明は、単なるスポーツ推薦ではなく、“オリンピックや世界選手権など、国際的な競技大会への出場経験や、同等の競技能力を有していることが条件”という狭き門のトップアスリート推薦で、中谷とともに早大に入学した。忌憚なく言えば、ようやく本領を発揮したに過ぎないのだ。

「ここで結果を残さないとタイムだけと言われてしまう」

「同期の調子が良かったり、井川がタイムを出したり、チーム内で僕をどんどん追い越す存在が出てきたことが、僕自身、普段の生活だったり、練習だったりを見直すきっかけになりました。自分に甘いところも直すように努力したのが大きいと思います」

 千明は好調の要因をこう分析するが、昨夏に左脚脛骨を疲労骨折するなど、これまではケガも多かった。箱根以降練習を継続できていることも大きいだろう。

 そして、1年時以来となった関東インカレでは5000mに出場し、激走を見せた。

「これまでの練習通りの記録を出せたことにはホッとしたんですけど、関東インカレでは注目度が上がりましたし、自信よりもプレッシャーのほうが大きかった。ここで結果を残さないとタイムだけと言われてしまうので、勝ちにこだわってレースをしました」

 ハイペースでレースは進み、最後は順大の三浦、駿河台大のジェームズ・ブヌカ(4年)と、激しい2位争いを展開。三浦には競り負けたものの、ブヌカには0秒03の僅差で先着し3位に入った。

5000mで順大の三浦

 ただ、三浦に負けた悔しさは残った。

「自分のスパートの力がまだ足りない。でも、まだ上がいるってことは良いことだと思うので、そこを目指してやっていきたいと思います」

 教育実習を挟み、6月の日本選手権は5000mに出場予定。10000mのレースは少し先になるが、今の勢いからすれば、十分に27分台を狙える力はある。相楽監督の言葉通り、現チーム4人目の27分台の最有力候補だ。

ハーフマラソンでは、佐藤航希が6位入賞

 さらには、ハーフマラソンでは、佐藤航希(2年)が6位入賞と活躍した。日本人先頭集団に付けていた佐藤は、結局日本人トップの4位は逃したが、積極的に集団を先頭で引っ張るなど、攻めのレースを見せた。

 昨年度はケガが相次ぎ、試合にはほとんど出られなかったが、今季は5000mで13分台の自己記録をマークし、シーズンイン。そして、関東インカレでもきっちりと結果を残した。今季の早大は箱根駅伝経験者が10人、全日本の経験者も含めると、学生三大駅伝経験者は実に12人にのぼるが、佐藤は駅伝未経験。2年生ながら今季の新たな戦力と言っていい。

 1年生では、石塚陽士が1500m決勝で6位と健闘。高校時代は、駅伝で約8kmまでの距離しか走ったことはなかったが、三大駅伝出場に意欲を燃やしている。夏合宿から距離を徐々に伸ばしていくといい、秋にはまた違った顔を見せてくれそうだ。

 5000mで高校歴代2位の記録をもつ伊藤大志も関東インカレでエンジデビュー。5000m17位とほろ苦い結果だったが、同種目の日本人ルーキーではトップだった。

27分台トリオ中谷雄飛らの結果は

 一方、肝心の27分台トリオはというと、10000mに中谷と太田が出場し、それぞれ8位、13位。井川は5000mで8位だった。

 中谷は6800mで左脚ふくらはぎに痛みが走り、急に減速。

 それまで余裕をもってレースを進めていただけにもったいなかったが、最後まで走り切った。意外にも、関東インカレで初入賞だった。

あ

「しっかり準備はできていたので、不完全燃焼に終わったのは残念だったが、今後に可能性を感じたレースだったので、プラスにとらえたい」

 結果にはもちろん不満は残るが、どうやら、レースを通してさらなる成長への手応えを掴んだようだった。

 太田は教育実習中で「準備期間が短かった」(相楽監督)という。井川は、連戦の疲労があって惨敗した5月3日の日本選手権・10000mから急ピッチで仕上げたが、下位ながらも入賞という結果に、調子は上向きと言っていい。

 いずれも、持ちタイム通りの力を発揮できたわけではなかったが、その原因は明確。秋にはチームの柱としての活躍を見せてくれることを期待したい。

今季の早大は例年にない長距離層の厚さ

 関東インカレでは、1500m、5000m、10000m、3000m障害、ハーフマラソンの中長距離5種目全てで入賞者を出し、そのうち、3種目は複数入賞した。早大の長距離ブロックは層の薄さを指摘されることもあるが、今季は例年になく、厚みが増しているのは確かだ。

 しかし、相楽監督は課題も口にする。

「例年に比べて、関東インカレでは2部校より1部校のほうが競争が低かったし、その中で、目標の全種目表彰台を達成できなかった。むしろ、自分たちがやりたかったことを順天堂さんにやられちゃった感じがあったし、2部では駒澤さんが強かった。それに比べると、うちはエントリーできなかった主力もいたし、取りこぼしも多かった。その点は課題だと思っています。新戦力が出てきたのは追い風だけど、学生駅伝三冠を目指すチームとしては、結果が行き届いていないし、まだまだ隙があった」

 確かに、順大や駒大と比べると、全種目入賞とはいえ、インパクトは弱かった。

 それでも、チームには勢いが出てきている。

 早大が最後に学生駅伝で優勝したのは、三冠を飾った2010年-11年のこと。実に11年も前だ。もちろんライバル校も強力だが、中谷らが最終学年となる今季は、好機と言っていい。

「4年目にして、勝てるチームができたというか、本当にチャンスが来たんじゃないかなと思っています。すごく楽しみな部分が多いです」

 中谷がこんな言葉を口にするように、選手たちも胸を高鳴らせている。

【新勢力編を読む】「箱根駅伝に出られなかったことが一番悔しかった」 青学大、順大、駒大に次々現れた“下剋上の新勢力”の実力は?へ

文=和田悟志

photograph by Yuki Suenega