筆者は関西在住だが、地元ローカルの番組で「そろそろオリックスのことを話題にしたってくれ」という声が上がりつつある。

 関西では佐藤輝明の華々しいデビューもあって、首位を快走する阪神の話題が喧しいが、オリックスだってものすごく元気なのだ。6月23日まで1984年以来37年ぶりという11連勝を記録したが、スポーツ紙のトップにならなかった。ネットでは「何連勝したら載せてくれるねん」という声さえ上がっている。

 昨年8月20日の京セラドーム、西武戦を最後に西村徳文監督が事実上解任され、中嶋聡監督代行にチェンジした。

 筆者はたまたま西村監督最後の試合と、中嶋監督代行最初の試合を観戦した。厳しい表情でメンバー表を交換する西村監督、マスク越しにもわかるほど笑みを浮かべながら照れくさそうにメンバー表を渡す中嶋代行、その対照の妙。大げさに言えば空気が変わっていた。

昨季の西村監督と代行期間、今季成績を比較

 昨年の西村監督と中嶋代行、今季の中嶋監督の成績を並べる。

2020年西村監督時代 開幕から8月20日まで
 53試合16勝33敗4分 率.327 打率.240 38本 防御率4.32

2020年中嶋代行時代 8月21日からシーズン終了まで
 67試合29勝35敗3分 率.453 打率.252 52本 防御率3.70

2021年中嶋監督時代 6月27日まで
 74試合36勝29敗9分 率.554 打率.257 70本 防御率3.44

 チーム成績だけでなく、投打すべての指標が劇的に改善されている。中嶋監督の手腕が高く評価されるゆえんだ。

吉田正尚、山本由伸らがいたのは変わらないが

 もともとオリックスは戦力的に大きく見劣りしていたわけではない。

©Getty Images

 打の吉田正尚、投の山本由伸と日本代表の主力クラスの選手を擁し、素材的には弱いはずがないと見られてきた。問題は投打の柱の周囲に配する選手の用兵、そしてモチベーションではないかと思われた。

 それがどのように改善されたのか。西村采配と中嶋采配の違いを詳しく見てみよう。

野手成績を見て、明らかに伸びた選手は……

<主なレギュラー野手の顔ぶれ>
2020年 西村監督時代 開幕から8月20日まで
捕手 若月健矢 3本 13点 1盗 率.238
一塁 T−岡田 7本 30点 1盗 率.244
二塁 大城滉二 0本 7点 6盗 率.205
三塁 宗佑磨 1本8点 2盗 率.232
遊撃 安達了一 1本10点 4盗 率.299
外野 吉田正尚 7本 32点 3盗 率.369
外野 ロドリゲス 5本 19点 1盗 率.224
外野 小田裕也 0本 4点 1盗 率.234
DH A・ジョーンズ 5本 23点 1盗 率.235

2021年 中嶋監督時代 開幕から6月27日まで
捕手 伏見寅威 2本17点0盗 率.234
一塁 T−岡田 8本35点1盗 率.266
二塁 太田椋 2本8点1盗 率.169
三塁 宗佑磨 5本20点5盗 率.265
遊撃 紅林弘太郎 5本26点1盗 率.235
外野 吉田正尚 15本48点0盗 率.343
外野 杉本裕太郎 15本47点2盗 率.317
外野 福田周平 0本10点3盗 率.326
DH モヤ 7本24点0盗 率.249

 最初に目につくのはラオウこと杉本裕太郎の躍進だ。打線で見ると吉田正尚の後ろを打つ打者を固定できずにいた。アダム・ジョーンズやアデルリン・ロドリゲス、スティーブン・モヤなど外国人選手が試されたがどれもうまくいかず、二軍でくすぶっていた杉本が抜擢され期待に応えた。二軍監督だった中嶋監督の慧眼だろう。

©Kyodo News

 また遊撃では、長きにわたって守備の要として活躍してきた安達了一に代えて19歳の紅林弘太郎を抜擢した。まだ粗削りだが、打者としてもスケールが大きく期待感がある。

 さらにT−岡田、宗佑磨など昨年からのレギュラークラスは、今季の方が成績が上がっている。

頓宮、伏見、若月といる中での捕手起用も興味深い

 そしてあまり目立たないが、捕手の起用は、オリックス急上昇のポイントではないか。

 中嶋監督は打撃の良い頓宮裕真を抜擢するつもりだったようだ。開幕戦はエース山本由伸と頓宮のバッテリーだった。良く知られているように2人は岡山県備前市出身、生家が隣同士で、山本は2歳年長の頓宮とキャッチボールをするような間柄だった。

 そうした誼もあってバッテリーを組ませて伏見と併用した。山本の投球内容は悪くなかったものの、山本−頓宮が3試合連続で勝ち星がつかないとみるや、中嶋監督はスパッとあきらめて山本−伏見のバッテリーに固定した。

 昨年まで、オリックスは打撃の良い若月健矢を正捕手に、伏見を2番手捕手とする布陣だったが、中嶋監督はリード面に着目して伏見を正捕手に固定した。捕手出身監督ならではの玄人好みの用兵だと言えよう。

もとから良かった投手陣も“進化”した点って?

<投手陣の顔ぶれ ※は左腕>
2020年 西村監督時代
・先発
田嶋大樹 9試1勝3敗 55回 率2.89※
山本由伸 8試3勝1敗 53.2回 率3.41
アルバース 8試2勝5敗 40.1回 率4.04※
山崎福也 7試2勝2敗 38.1回 率4.46※
榊原翼 6試1勝2敗 29.1回 率4.59
・救援
ディクソン 18試0勝2敗 7S 3H 15.1回 率1.76
ヒギンス 21試1勝2敗 0S 7H 21回 率1.93
山田修義 25試2勝2敗 0S 8H 22.1回 率3.63※
増井浩俊 11試0勝1敗 0S 5H 9.2回 率3.72
比嘉幹貴 8試0勝0敗 0S 4H 4.2回 率0.00
吉田凌 13試1勝1敗 0S 1H 12.2回 率2.13
齋藤綱記 13試1勝0敗 0S 0H 13回 率4.15※

2021年 中嶋監督時代
・先発
山本由伸 14試7勝5敗 99.2回 率1.90
宮城大弥 12試8勝1敗 79.1回 率1.93※
山岡泰輔 12試3勝4敗 69.1回 率3.89
田嶋大樹 12試4勝4敗 66回 率4.09※
増井浩俊 10試2勝5敗 53回 率4.42
山崎福也 11試3勝5敗 57.2回 率3.75※
・救援
平野佳寿 18試0勝2敗 9S 3H 16.1回 率2.20
富山凌雅 28試2勝0敗 0S 12H 25.2回 率3.51※
山田修義 24試0勝0敗 0S 4H 18.2回 率2.89※
漆原大晟 24試2勝1敗 2S 4H 25.1回 率2.84
ヒギンス 21試1勝1敗 2S 10H 18.1回 率3.93
能見篤史 20試0勝0敗 2S 5H 17.1回 率3.63※
K-鈴木 19試0勝0敗 2S 2H 18.1回 率4.42

 昨年、西村監督時代も田嶋、山本、アルバースと言う先発陣は安定感はあった。しかし打線の援護が少なく、勝ち星にはあまり結びつかなかった。また4番手以降の先発はしっかりしていなかった。

宮城が急成長し、救援も平野佳寿以外に……

 しかし今季は山本に加え、宮城大弥という新星が現れ左右のWエースになった。宮城の捕手は主に伏見が務めているが、そのリードも大きいのではないか。さらに、田嶋、山岡、救援から回った増井も試合を作ることができている。

 救援は、昨年クローザーだったディクソンが新型コロナ禍で来日できず、大ピンチとなった。

©Kiichi Matsumoto

 今季から平野佳寿が復帰したが、平野は4月13日を最後に一旦登録抹消。ここから6月に平野が復帰するまで「勝利の方程式」を作ることができず、苦しいやりくりが続いた。若い富山や漆原、K-鈴木らが起用されたが、必ずしもうまくいかなかった。しかし中嶋監督は失敗した後もこれらの投手にチャンスを与え続け、彼らも中継ぎ投手として一本立ちしつつある。

 このあたりも、二軍監督などでじっくりと選手を見てきた中嶋監督ならではの手腕と言えるかもしれない。

 中嶋聡という野球人は、稀有なキャリアの持ち主である。

山田、松坂、ダルの球を受けた“阪急戦士”

 秋田県立鷹巣農林高から1987年ドラフト3位で阪急ブレーブスに入団。翌1988年5月3日の西武戦では、この年限りで引退する通算284勝の大投手、山田久志の球を受けている。

 西武時代には松坂大輔の球を受け、日本ハムに移籍してからはダルビッシュ有の捕手も務めた。昭和から平成後期まで実働29年、惜しくも大谷翔平の球は受けることはなかったが、山田久志とダルビッシュの球を受けた捕手は、中嶋聡だけ。投手についてここまで精通している指導者は数少ないのではないか。

©KojiAsakura

 オリックスのリーグ優勝は1996年が最後。2014年以来ポストシーズンにも進出していない。勝ち方を忘れたチームと言っては酷だろうが、苦労人中嶋聡監督の手腕が活きるのは、シーズン後半、胸突き八丁が続くこれからだと言ってよいだろう。

文=広尾晃

photograph by Kyodo News