毎朝のニュースを心待ちにするのは何年振りかと思う。イチローがデビューした2001年の春、MLB最多安打記録に迫った2004年の秋、ファンは「今朝、イチロー打った?」が合言葉になったものだ。「今朝、大谷打った?」はそれ以来だ。

 違うのは「イチロー打った?」が安打なのに対し、「大谷翔平打った?」はホームランということだ。

今季の試合前に談笑するイチローと大谷©Getty Images

開幕直後に今季の成績を予想してみたが……

 筆者はこの春、二刀流・大谷翔平の成績を予想した。

・投手成績
23登板8勝4敗127回13被本塁打
70与四球160奪三振 防御率4.00
・打撃成績
140試合608打数180安打35本塁打
80打点15盗塁60四球 打率.296

 現地時間7月4日時点での大谷の成績は以下の通り。

・投手成績
12登板3勝1敗60回6被本塁打
35与四球83奪三振 防御率3.60
・打撃成績
78試合277打数77安打31本塁打
67打点12盗塁36四球 打率.278

 エンゼルスは83試合を消化したところだから、162試合に換算すると……。

・投手成績
23登板6勝2敗117回12被本塁打
68与四球162奪三振 防御率3.62
・打撃成績
152試合541打数150安打61本塁打
131打点23盗塁70四球 打率.278

 ということになる。

「投手成績はともかく、打撃成績は大外れじゃないか!」と言われるかもしれないが、筆者にも「常識」というものがある。さすがにどんなに景気を良くしようとしても「今年は二刀流の大谷が60本塁打打ちそうだ」という予想はできない。今季の大谷翔平はそれほど常識外れなのだ。

6月は全安打のうち半分が本塁打。さらに7月は……

 最近の大谷は異常なペースでホームランを打っている。

<大谷の月次での安打数、打率と安打数に占める本塁打率(HR/H)>
4月 
92打数26安打8本塁打 打率.283 HR/H 30.8%
5月 
94打数23安打7本塁打 打率.245 HR/H 30.4%
6月 
81打数25安打13本塁打 打率.309 HR/H 52.0%
7月(4日まで)
10打数3安打3本塁打 打率.300 HR/H 100.0%

 6月、大谷は日本人としてはイチロー、松井秀喜に次ぐ史上3人目の「月間MVP」に輝いた。HR/Hは驚異的な52%を記録したが、7月に入ると大谷は安打がすべてホームランになった。

9打席弱に1本塁打している異常さ

<両リーグの1本塁打に要する打数(AB/HR)10傑>
1.大谷翔平(エンゼルス)8.94 277打数/31本
2.タティースJr(パドレス)9.35 243打数/26本
3.シュワーバー(ナショナルズ)10.60 265打数/25本
4.ゲレーロJr(ブルージェイズ)11.04 298打数/27本
5.アクーニャ(ブレーブス)12.13 279打数/23本
6.マンシー(ドジャース)12.83 231打数/18本
7.ギャロ(レンジャーズ)13.10 262打数/20本
8.デュバル(マーリンズ)13.53 257打数/19本
9.クルーズ(ツインズ)14.00 252打数/18本
10.クロフォード(ジャイアンツ)14.24 242打数/17本

 個人的には松坂世代のネルソン・クルーズが衰え知らずで活躍しているのはすごいと思うが、それはともかく大谷翔平は「本塁打を打つ」ことではMLBでも群を抜いている。

 今の大谷は「本塁打しか打たん」のであり、今季のホームラン王は「大谷しか勝たん」という状態になりつつある。

ああああああああ

 そろそろMLBの歴史的なホームラン記録との比較も必要になってきそうだ。

 初めて60本塁打をマークした1927年のベーブ・ルース(ヤンキース)、ルースの記録を抜いた1961年のロジャー・マリス(ヤンキース)、初めて70本に達した1998年のマーク・マグワイア(カージナルス)、MLB記録の73本塁打を記録した2001年のバリー・ボンズ(ジャイアンツ)、そして今年の大谷翔平の本塁打のペースを10試合刻みで見ていこう。なおいずれも選手の出場試合数である。

ルース、マグワイア、ボンズらと比較してみる

10試合目
1927年ルース 1本
1961年マリス 1本
1998年マグワイア 4本
2001年ボンズ 4本
2021年大谷翔平 3本

20試合目
1927年ルース 6本
1961年マリス 3本
1998年マグワイア 9本
2001年ボンズ 10本
2021年大谷翔平 7本

30試合目
1927年ルース 9本
1961年マリス 6本
1998年マグワイア 12本
2001年ボンズ 14本
2021年大谷翔平 10本

40試合目
1927年ルース 13本
1961年マリス 12本
1998年マグワイア 17本
2001年ボンズ 22本
2021年大谷翔平 14本

50試合目
1927年ルース 18本
1961年マリス 17本
1998年マグワイア 27本
2001年ボンズ 29本
2021年大谷翔平 15本

60試合目
1927年ルース 24本
1961年マリス 23本
1998年マグワイア 31本
2001年ボンズ 33本
2021年大谷翔平 17本

70試合目
1927年ルース 26本
1961年マリス 27本
1998年マグワイア 34本
2001年ボンズ 39本
2021年大谷翔平 24本

 そして大谷は7月4日には78試合目だったが……

78試合目では
1927年ルース 29本
1961年マリス 32本
1998年マグワイア 37本
2001年ボンズ 39本
2021年大谷翔平 31本

100試合目
1927年ルース 34本
1961年マリス 40本
1998年マグワイア 45本
2001年ボンズ 45本

150試合目
1927年ルース 60本
1961年マリス 58本
1998年マグワイア 65本
2001年ボンズ 70本

78試合目でついにルースのペースを抜いた

泳ぎながらもグリーンモンスター超えした11号など、序盤からスゴい本塁打は多かったが……©Getty Images

 シーズン当初の大谷翔平の本塁打ペースは、歴史的な記録と比較できそうなものではなかったが、70試合を超えたあたりでペースが急速に上がり78試合目では大谷はルースのペースを抜き、マリスに並びつつある。

 マグワイアとボンズの記録には及ばないが、この2人はステロイド剤やヒト成長ホルモンなどの薬物を使用してプレーしていたことが分かっている。2007年12月にMLB選手の薬物使用の実態を詳細に報告した「ミッチェルレポート」が発表されてから、MLBでも薬物使用は厳しく禁じられた。

 2008年以降のMLBでシーズン50本塁打を打ったのは以下の5人だ。

59本 スタントン(2017年マーリンズ)
54本 バティスタ(2010年ブルージェイズ)
53本 デービス(2013年オリオールズ)
53本 アロンソ(2019年メッツ)
52本 ジャッジ(2017年ヤンキース)

夢の60本塁打へ考えられる障壁は……

 2017年頃から「フライボール革命」によって本塁打数は急増しているが、これは「本塁打を打つ選手が増えた」という革命であって、トップクラスの選手の本塁打数が激増しているわけではない。

 もし、今季の大谷翔平が60本を打てば薬物使用禁止キャンペーンが行われた2008年以降で、初めて60本を打った選手ということになる。

 もちろん、それは簡単な話ではない。7月3日の試合では大谷は2敬遠を含む3四球。勝負してもらえなくなった。バッティングチャンスはさらに少なくなるだろう。また大谷は塁に出れば嬉しそうに走り回っているが、野手のアタックも強くなるだろうし、死球禍の恐れも増えるだろう。怪我のリスクはさらに高まる。

©Getty Images

 ただ、今年の大谷はいい大人たちの予想をすいすいと上回ってきた。

 例の涼しげな笑顔を見せつつ、凄い記録を達成する可能性は大いにあるのではないか。

文=広尾晃

photograph by USA TODAY Sports/REUTERS/AFLO