見慣れない数字が並ぶ今季のオリックス。

 7月4日の西武戦の勝利で、パ・リーグ40勝一番乗りを果たし、貯金は11に。その後、9回に失点する嫌なかたちで楽天に連敗したが、まだ2位と2.5ゲーム差の首位にいる(7月7日時点)。

 オリックス躍進の原動力となっているのは、好調な打線と、開幕から軸となってきた2人の若き先発投手、22歳のエース・山本由伸と、19歳の左腕・宮城大弥である。この2人が現在、パ・リーグの防御率と勝利数トップの座を争っている。

 若い2人の能力が優れていることは言うまでもないが、投手の長所を活かし、新たな一面を引き出してピッチングの幅を広げる捕手・伏見寅威のリードも光る。3勝無敗で6月の月間MVPに輝いた山本は、「何球も先まで読んで配球してくれているなと感じます。トライさんの技ですね」と感謝する。

カーブで幅を広げる伏見

 昨年から先発マスクを被る機会が増えた伏見のリードで印象的なのは、カーブの使い方だ。

 現在、奪三振数も115でパ・リーグトップの山本は、今年、カーブで三振を取る場面が増えている。例えば、7回まで完全投球を見せた6月11日の広島戦では、自己最多の15三振を積み重ねたが、そのうち約半分がカーブで奪ったものだった。試合後、山本はこう語っていた。

「カーブっていうのはすごく特徴があるというか、僕のピッチングでは、投げる場面が大事なボールになるんですけど、それをトライさんがうまく使って、フォークフォークにならないようにリードしてくれて、カーブで結構三振も取れました。本当にいいリードをしていただいたので、おかげさまですね。最近カーブの状態がよくなっていて、たぶんトライさんもそれに気づいて、カーブで行ったのかなと。トライさんの察知能力ですね」

山本由伸をグータッチで盛り立てる捕手・伏見寅威 (c)Sankei Shimbun

 現在、1.94の山本に次ぐ2位の防御率1.96で、両リーグトップの9勝(1敗)を挙げている宮城に対しても、伏見は100キロ前後のゆるいカーブを要所で使って緩急を際立たせ、打者を翻弄している。

 伏見にとって、カーブとは。

「前後のつながりを切るというようなイメージですね。僕はそう思って使っています。例えば、まっすぐまっすぐで行って、フォーク行って、みたいに、速いボールを続けるとイメージがだいたいついてきちゃうんですよ。でも間に、カーブみたいな球でピヨーンって、ストライクや空振りを取ったら、バッターはその次の球、何がくるのかすごく迷うんですよね。速い球か、もういっちょ遅い球か、曲げるのか……とか、選択肢が一気にボーンと増える。そんなイメージです」

 その考え方の原点は、山崎福也にあるという。山崎は大きく縦に割れるカーブを武器とする左腕だ。

「僕が最初に組み始めたのがサチヤだったんで。彼はカーブが特徴というか、軸というか。だから『カーブってこういう効果があるんだな』とか、『こういう時に使ったら効果的なんだな』と感じて勉強していくうちに、ですね。まあでも宮城や由伸のカーブはもう、いいから使う、という感じですけどね」

 伏見が先発でマスクを被る機会が増えたのは、昨年8月21日に中嶋聡監督が監督代行に就任してからだが、それ以前も山崎の登板日には先発を任されることが多かった。そこで得た気づきを活かし、先発定着につなげた。

DHや内野手としてプレーした時期も

 今季は、序盤戦は頓宮裕真が先発する機会も多く、現在は田嶋大樹など先発投手によって若月健矢が先発を任される試合もあるが、伏見がもっとも多くマスクを被っている。それはプロ9年目にして初めてのことだ。

 伏見は東海大学から2012年のドラフト3位でオリックスに入団した。東海大時代は菅野智之(巨人)ともバッテリーを組んだ、世代を代表する捕手だった。しかしオリックスでは、入団当時は伊藤光(現・DeNA)が正捕手を務めており、その後、若月が先発に定着。伏見は勝負強い打撃を評価されていたが、捕手としての出場機会には恵まれず、DHや一塁手、三塁手として出場していた時期もあった。

 その頃は、まずは一軍に居場所を築くため、「キャッチャーとして出たい」というこだわりを封印し、その日求められた役割に徹していると語っていた。

 そんな中、2019年6月18日の巨人戦で、左アキレス腱断裂の大怪我を負った。

 その時、聞こえてきたのは「もうキャッチャーはできないでしょ」という声だったという。

 それが伏見の反骨心に火をつけた。

「何をわかってそういうことを言うのかなと。すごく嫌な気持ちになりました。でも、そういう声が自分の中でモチベーションになったというか、『こういう人たちを見返してやるんだ』という気持ちでモチベーションを保っていました。

 キャッチャーとして入団して、でもそれまでキャッチャーとして誇れるものは何もなかった。そういう意味でも、絶対キャッチャーとして復活するんだ、試合に出るんだという気持ちは一層強くなりました」

掴んだキャッチャーとしての自信

 気の遠くなるようなリハビリを乗り越え、怪我から1年以上経った昨年7月9日の日本ハム戦で、伏見は捕手としてスタメン復帰を果たす。8月以降は先発マスクを被る試合が増えていった。

 昨シーズン後、伏見はこう語っていた。

「今までは、キャッチャーで出ることがあまりなかったので、正直、自分に自信を持てないところがあったし、僕がキャッチャーだと試合に勝てないみたいな、イメージというか、そういう評価をされていたと思うんですけど、今年はキャッチャーとして試合に出て、勝ったというところで、すごく自信になりました」

 昨年終盤、捕手として先発出場を重ねる日々の中、伏見は「夢の中にいるみたい。現実とは思えない。1年前には全然想像できなかった」と話していた。

 今年はさらに、中心になってマスクを被りながら、交流戦で優勝し、パ・リーグ首位を走っている。

 夢じゃない、その現実を今はしっかりと噛みしめている。

「すごく楽しい。しんどいけど楽しい。充実していますね」

 かつてベンチを温めることが多かった伏見は、ベンチの中で積極的に声を出し、オリックスでは貴重なムードメーカーとしての役割も大きかったが、「最近は(声は)サボリ気味です」と笑う。

「勝ってるからっていうのもあるんですけど、最近はチームの雰囲気がすごくいいんで。別に僕が声を出さなくても、パッと周りを見たら、みんなワイワイやっているので」

 それこそ好調なチームの証。今年はグラウンドの要として、伏見寅威が輝きを増していく。

文=米虫紀子

photograph by KYODO