ホンダが第9戦オーストリアGPで勝利し、第5戦モナコGPから続けてきた連勝記録を「5」に伸ばした。これは91年の4連勝を30年ぶりに超える快進撃だ。

 その年、 ホンダからエンジンの供給を受けるマクラーレンが、アイルトン・セナを擁して開幕から4連勝を飾り、選手権をリード。ウイリアムズ・ルノーを駆るナイジェル・マンセルを下して、チャンピオンに輝いた。これがホンダにとって、最後のタイトルとなった。

 91年の記録を上回る5連勝を達成したホンダには、早くも30年ぶりのタイトルを期待する声が高まっている。

 3連勝目となった第7戦フランスGPの表彰式には、エリック・ブーリエが参列していた。ブーリエは現在、フランスGPのマネージングディレクターを務めているが、ホンダがF1に復帰した2015年からの3年間、マクラーレンのレーシングディレクターを務めていた人物だ。そのブーリエが表彰台の上から視線を送っていたのが、かつて苦楽を共にしたホンダのスタッフだった。

「ホンダと一緒に仕事できたことを誇りに思っている。われわれとホンダの挑戦は困難の連続だったが、共に歩んだ旅路を私は後悔していない。ホンダが活躍している姿をいまこうして見ることができることを本当にうれしく思っている」(ブーリエ)

マクラーレンとの苦い経験があればこそ

 表彰台の下にいたスタッフの中で、ブーリエと目と目で会話をしていたのが、山本雅史(マネージングディレクター)だ。

「マクラーレンとはいろいろあったけれど、マクラーレンと組んだ3年間で勉強した結果がいまに繋がっていることも事実。レースは継続していくことで強くなる。いまわれわれはレッドブルと組んで勝ち始めていますが、それはマクラーレンから始まって、いまがあると思ってます。前回(19年)、ポール・リカールを訪れたときは勝てなかったので、ホンダF1ラストイヤーの今回、エリックの前で優勝することができて感慨一入です」

 ブーリエもまた、ホンダのタイトル獲得を信じているひとりだ。

「彼らがチャンピオンになることを私は祈っているし、彼らならいずれ成功すると信じている。マクラーレン・ホンダ時代、私は何度も日本を訪れ、青山とさくら(HRD Sakura)で多くのミーティングを行った。われわれの夢はマクラーレン・ホンダ時代には成就できなかったが、ホンダには是非ともメルセデスを倒してもらいたい」

 4連勝目となった第8戦シュタイアーマルクGPの表彰台には、レッドブルのヘルムート・マルコ(モータースポーツアドバイザー)が上がった。

 シュタイアーマルクとは、オーストリアGPが行われるレッドブルリンクがある州の名前。F1ではグランプリに国名を使用できるのは1年に1回だけなので、コロナ禍でオーストリアGPと2週連続で開催されるこのレースには州の名前が冠された。

 オーストリア出身のマルコにとって、レッドブルリンクのレースは特別だ。マルコは50年前の71年にこのサーキット(当時の名称はエステルライヒリンク)でF1デビューを果たした。デビューレースでいきなり11位で完走したマルコだったが、2年目の72年7月に行われたフランスGPのレース中に、前車が巻き上げた小石がヘルメットのバイザーを直撃。視力が大きく低下したマルコは、2度目の母国グランプリまで、あと1カ月というところで、ヘルメットを置いた。

 その後、マルコはゲルハルト・ベルガーなどのマネージャーを務め、05年にレッドブルがF1に参戦すると、モータースポーツアドバイザーとして、レッドブル・ジュニアチームを統率。セバスチャン・ベッテルを発掘し、チャンピオンに育て上げるなどして、レッドブルの意思決定において重要な役割を果たすようになる。そのマルコがレッドブルの王座復活のために白羽の矢を立てたのがホンダだった。

50年目の表彰台

 マルコの決断は間違っていなかった。19年のオーストリアGPでレッドブル・ホンダとして初優勝を遂げると、その後もホンダと共に勝ち星を挙げ、今年のシュタイアーマルクGPでの優勝がレッドブル・ホンダとしての通算10勝目だった。

レッドブル・ホンダはシーズン6勝目。コンストラクターズポイントでは、メルセデスとの差を44に広げトップに立つ

 その記念すべき表彰台にコンストラクター優勝のトロフィを受け取るためにチームを代表して立ったのが、マルコだった。それは、マルコにとって、50年目にして初の母国グランプリでの表彰台だった。

 第9戦オーストリアGPでも勝利し、5連勝を成し遂げたレッドブルが登壇役に指名したのは、ホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターだった。その経緯をマルコは次のように説明した。

「この5連勝は、ホンダの努力がなければ成し遂げられなかった。今年ホンダが投入した新しいパワーユニットは、もはやメルセデスと同等だ。だから、われわれは奇をてらわず、正攻法の車体開発に専念できる。ホンダには本当に感謝している」

 91年の4連勝を超えたホンダに残された連勝記録は、16戦中15勝を挙げた88年の11連勝。もはや夢物語ではない。ついに強いホンダが帰ってきた。

文=尾張正博

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