高校野球の監督といえば、かつてはチームの走攻守すべての部分のみならず、精神面の指導も任された「全権監督」が主流だった。

 しかし、「言い方に語弊はあるかもしれませんが、餅は餅屋です」と話すのは関東学園大学附属高校(群馬県)の羽鳥達郎監督だ。

 自身の経験論だけに縛られず、外部の指導者の知見を存分に取り入れることで、35年ぶりの甲子園出場も視界に入るまでに躍進を見せている。

 羽鳥監督は1988年生まれの現在32歳。現役時代は捕手として埼玉県立の伊奈学園総合高から高校でプレー。その後、一浪を経て早稲田大に入学。1学年上(同い年)には斎藤佑樹(日本ハム)らプロに行く投手が3名おり、さらに3学年下には有原航平(レンジャーズ)もいた。後にプロの道へ進む彼らからブルペン捕手として信頼を掴むと、4年時には就任した岡村猛監督から、その泥臭い姿勢を買われ、代打として早慶戦など6試合に出場した。

 ちょうどその頃、関東学園大附から早稲田大に「教員志望の適任者がいないか」との相談があった。もともと教員志望だった羽鳥は迷わず手を挙げて、新卒で赴任。その年の秋から野球部の監督に就任した。

就任10年目を迎える関東学園大附・羽鳥達郎監督 ©Yu Takagi

 館林市にある同校は1986年にセンバツ甲子園に出場、OBに岡島豪郎(楽天)らがいるが、羽鳥監督が就任した当時はチームは低迷しており、生活指導に手を焼く部員が多かったという。だが選手たちの心情の理解に努めながら、強豪校に飛び込んで練習試合を組むなど積極的に働きかけをしたことで徐々に強化が実り、部員たちの意識も自然と高くなっていった。

 そして赴任10年目となった今春は群馬大会を制すなど目に見える結果も掴み、2013年以降、前橋育英・健大高崎・桐生第一の“3強”によって占められている牙城を崩す存在として注目されている。

 際立つのは投手力だ。事実、関東大会でも桐光学園高(神奈川)を相手に0−1という接戦に持ち込んでいる。

 春の県大会でエースナンバーを付けた石原勇斗(3年)は身長168センチと小柄ながら最速144キロのストレートとキレのある変化球を投じ、東京の強豪大学への進学が決まっている。関東大会でエースナンバーを付けた篠原正紀(3年)は肩甲骨を柔らかく使い最速146キロを計測しプロ志望、2年生の堀越蒼空(あおい)も142キロを計測していて既にプロ注目の存在だ。

 石原は「(関東学園大附に)来て良かったと心の底から思えます。群馬で投手が一番伸びる高校です」と胸を張って答える。

 この投手育成力には羽鳥監督の“ある人物”への弟子入りが大きな要因となっている。

前橋商業に競り負けて感じたこと

 きっかけは2年前の夏だった。準決勝まで勝ち進んだものの、井上温大(巨人)を擁する前橋商業に2−3と競り負けた。

「ある程度、勝負できる投手は作れていたのですが、相手を圧倒するほどの投手を育てないと甲子園には行けないと思いました」(羽鳥監督)

 そこで羽鳥監督は投球フォームや練習法の前提にある根本的な体の仕組みに興味を持つようになった。さまざまな学習をする中で、一番しっくりと来たのが北川雄介トレーナーの指導理論だった。

 きっかけは昨年に同校からプロ志望届を提出した西濱勇星(投手・群馬ダイヤモンドペガサス)に「北川さんを呼んでいいですか?」と提案されたことだった。独自で積み上げた理論をもとに「筋肉や関節の動きやすい状態を作ること」に長け、プロアマ問わず多くの選手に慕われる北川氏の指導に触れた羽鳥監督は感銘を受け、“弟子入り”までしたという。

ああああああああ

「選手に“こうやってやれ”と言っても可動域が狭かったり感覚がないと、言われてもできないんです。でも、北川さんは“この動作をするためには、こういうことが必要だ”と根本的なことを理解させてくれる。それに、その指導法を“先生でもできるようになりますよ”と、教えてくれるんです」

 現在も定期的に練習に参加を依頼し、時には北川氏のもとに選手を連れて行く。監督自身も指導を伝授されたことで、同氏がいない時でも投手に対して適切な指導ができている。

 熱意のあまり、ついつい意固地なる指導者も少なくない中、羽鳥監督は第三者の助言について聞いても「抵抗は全くありません」ときっぱり答える。もともと選手には「YouTubeで野球の動画を観ろ」と伝えており、その中で「今、それをやるべきか」を対話しながら練習に取り組む。

 また、北川氏と出会う前も、選手が外部の指導を受けに行くことには寛容で「行っておいで。そこで教わったものを俺にも教えてね」と許可していたほどだ。

「指導者が成長していかないとチームは成長していきません。だから学びへの意欲が尽きることはありません。自分自身は大した選手ではなかったですし、オタク気質なのでトコトン突き詰めたいんです」

北川トレーナーの施術を習う羽鳥監督 ©Yu Takagi

打線の軸となる2人の捕手も育成

 もちろん、チームの強さは投手力だけではない。自身も経験豊富な捕手についての育成には最も自信を持っており、近年では、後逸が極めて少なく、送球やリードが良い捕手を毎年のように育成。今年の3年生では、福岡莉空と根岸拳心の2人はどちらがマスクを被っても遜色のないレベルにまで育て上げた(外野守備も上手い根岸は右翼手に回ることが多い)。

 また打線もこの2人が中心となっており、群馬大会では桐生第一を12−0で破るなど6試合43得点を挙げており、戦力は充実している。

「指導者になったばかりの頃は“挨拶と返事ができる人は世の中で通用する”とばかり言っていました。でも最近は“コミュニケーションとセルフマネジメントができることが大事だ”と言っています。140キロ以上の球を投げる能力は一般社会では使わないけど、その過程でどう考えて、どのように取捨選択をして努力をしたのかという能力が、世の中に出た時に必要になってくる。社会の歯車にただなるのではなくてそういう部分ができないと、今の時代は出世もできないし給料も上がらない。だから、自分や周りの環境をマネジメントする能力を身に付けることが大事なんです」

 監督の考えを押し付けるだけではなく、選手に考えさせ、監督自身も学び続ける関東学園大附。彼らの躍進には、新たな潮流を生み出す可能性が大いに秘められている。

★石原投手、篠原投手のピッチングフォームを見る!

文=高木遊

photograph by Yu Takagi