東京五輪の開幕が近づいて、有明にある各国メディアの拠点・メディアセンター(東京ビッグサイト)にもようやく五輪らしいムードが漂ってきた。つい1週間前までは閑散としていて、まるでゴーストタウンのようだったが、さまざまな言語が飛び交い、何百とある座席もプラスチック板で仕切られているとはいえ世界中から集まった記者で埋め尽くされている。

 組織委員会の橋本聖子会長らが連日謝罪を繰り返している記者会見場もこの中にある。国内外のいずれの観客も入れずに行われる今回の五輪。マスク越しにさまざまな言語が飛び交い、ここだけはオリンピックという異国に触れられる貴重な場所でもある。

東京五輪プレスセンター

一番の人気スポットは…?

 そんなメディアセンターを入ってすぐ左手に、いつも行列のできている人気スポットがある。東京五輪の公式グッズショップだ。扇子、だるま、リカちゃん人形など「日本ならでは」のお土産が並ぶ中、今回特にユニークなのは商品ではなく販売方式。レジでの対面販売だけでなく自動販売機でもお手軽に買えてしまう。店舗には営業時間や入場制限があるが、自販機は24時間営業で人と密になる心配もない。コロナ禍での五輪にもぴったりはまった。

 店の外にブルーの巨大自販機が5台。しばらく様子を見ていると、モノを売る自販機への物珍しさもあってか、ひっきりなしに人が立ち止まる。どうやら人気はマグカップ。値段も1320円と手頃だし(マグカップとしては高いけど)、メディアセンターには会社によっては個室もあるため、みんな大会期間中にそこで使うのかもしれない。

お店の外に並ぶ巨大な「お土産」自動販売機。 お店の周辺

 マグカップのある自販機に比べて隣の自販機の引きが悪いなあと思って近づいてみると、東京五輪キャラクターのミライトワ、ソメイティのこけしや大会エンブレムと同じ市松模様の五輪カラー招き猫。和全開のグッズがずらっと並んでいた。尖ったセンスの商品自体は意外と悪くないと思ったのだけれど値段を見て驚いた。

 招き猫……1万6500円。

 これは自販機でおいそれと買える値段じゃない。家族へのお土産に考えている海外メディアも、まず家族に相談してからじゃないと買えない金額設定じゃないだろうか。

 近くにいたスタッフに聞いてみたら多くの日本人メディアが自分と同じような反応をするそうだ。

「やっぱり日本人の方は値段を見るとすぐに立ち去っていきます(笑)。でも海外の人は結構買っていますよ」

 確かに黄色と緑色の招き猫はすでに売り切れていた。

個性的な商品たちが並ぶが、値段はお高め。1万6500円の招き猫も、入荷すればすぐに売り切れてしまうという

「あと人気なのはミニカーですね」

 トミカのジャパンタクシー(東京2020モデル)のミニカーは、確かに精巧に作られている。持って帰るにもかさばらなくて良さそうだ。

「今日追加したんだけど、あっという間に売り切れてしまいました。リクエストはしているんですけど、月曜日にならないと入ってこない商品もあるんです」

 と話をしていたら、新たなストックが届いた。さすがに搬入のペースを上げたのだろうか。本格的に競技が始まったら各国メディアも悠長に買い物なんてしていられない。

 組織委員会の人! 今が売り時ですよ! マグカップまだ足りないよ!

なぜか“バーガー祭り”のレストラン

 今大会のメディア関係者は、記者とカメラマンが4600人、映像関連が1万1900人もいるという。彼らの胃袋を満たすレストランはビッグサイトの東棟地下1階にある。

 ここもグッズ同様に日本推し、和食推しなのかと思いきや、こちらは一転して“ダイナー感”の強い作り。メニューを見ても『クラシックバーガー』『フランスバーガー』『スイスバーガー』『東京バーガー』『金メダルバーガー』。一体いくつバーガーあるんだよ! とツッコみたくなるほどのバーガー祭りだ。一体何が違うんですか? と店員さんに聞いてみた。

 彼女の説明によれば、フランスはクランベリーソースにディップするスタイル、スイスは予想通りというべきかスイスチーズが入っている。じゃあ東京はテリヤキ?

「いえ、ゴマだれがかかってるんです。日本人からすると微妙かもしれませんね……」

 値段はクラシック以外どれも1600円。フランス人メディアが「冷たいパン、ゴムみたいな肉、汚い盛り付け」と酷評したことが話題となっていたけど、例年と変わらないように感じた。これまでの大会でも吉野家みたいに安くてうまい食事にありつけたことなんてまずない。

レストランのメニュー表。クラシックバーガー、フランスバーガー、スイスバーガー、東京バーガー、金メダルバーガー……バーガー祭りだ

 ソチ五輪の時には、競技会場ごとに違うメニューがあって、ジャンプ会場では日本人メディアが多いからと味噌汁を用意してくれたことがあった(味噌汁の味は薄かったけどその気遣いが疲れた体に染みた)。ただ、コロナ禍ではビュッフェ形式もできないだろうし、今回はいろいろと難しいところがありそうだ。

 ちなみにこのレストランの支払いは現金NG、VISAカードオンリー。今回の東京五輪で多くの人の知るところとなったけど、オリンピックはスポンサーフレンドリーなイベントだ。これも五輪らしいところで、特別な感じはしない。……と感じる自分にはすでに“五輪ムーブメント”が染みついているのだろうか。

レストランの入り口には「VISA CARD ONLY」の張り紙が

 大会も始まることだし景気よく金メダルバーガーを頼んでみる。金メダルバーガーはなぜかベーコン入り。目玉焼きがたくさん置いてあったので、それを金メダルに見立てるのかなと思ったら「いや、これはフランスバーガー用です。でも、欲しかったらどうぞ」とスタッフのおじさんが目玉焼きを特別にトッピングしてくれた。うーん、ちょっと金メダル感出てきたか……? おじさんの心遣いに感謝しつつ、味は、まあ……ゴムってことはないと思うんだけどな。

五輪プレスセンターのレストランで食べられる「金メダルバーガー(1600円)」。ちなみに目玉焼きは特別にトッピングしてもらったものなので、“金メダル”ではない

とにかく熱すぎる観客席で“実験”してみた

 そんな風にメディアセンターの熱気が高まるとともに外気温も高まっている。とにかく暑い。

 過去最高に熱い(気温的に)大会になると言われている今大会は、寒すぎて熱々のカップラーメンがすぐに凍ってしまった3年前の平昌冬季五輪とは真逆のコンディションだ。この凄まじい暑さをわかりやすく表現できないものかと考えていたら、以前テニスの全豪オープンを取材しに行く前にカメラマンから言われた言葉を思い出した。

「本当に暑いから気をつけた方がいいよ。目玉焼きが焼けるから」

 確かに昔の全豪オープンではジョコビッチがコート上で卵を焼いている写真があったような。ということで思いついたのが「目玉焼きチャレンジ」。

 仮設スタンドは鉄板でできていて熱々、座席もちんちんに熱くなっている。これは焼けるかもしれない。

無観客実施で使用予定のないスタンドにフライパン(しっかりフライパン返しも用意)を設置。目玉焼きチャレンジを試みた

 ……結果からいうと、焼けませんでした、目玉焼き。

 10分、20分と待ってみたものの、“火力”が足りなかったようで、白身が少し蒸発した程度で固まる気配はなかった。まな板の上の鯉、フライパンの上の卵。しかし卵よりも先にこっちが焼き上がってしまいそうだったので実験は終了した。

 ただ、よくわかったことが1つある。今回の無観客での開催はとても残念だったけれど、屋外競技、しかも日の当たる席は熱すぎてそもそも座れない。素手では10秒も触っていられないほどだ。水分補給や待避所などをしっかり担保できない限り、子どもたちの学校観戦なんてもってのほか。本当に危ない。

 我々、取材者は最初の受付時にメディアキットを受け取るが、その中に持ち運びのできる遮熱クッションが入っている。確かにこれがなければとても長居はできそうにない。

地獄のバス待ち「おい!次のバスはいつ来るんだよ!」

 ところで、メディアセンターは各地の競技会場までバスで繋ぐ巨大なハブステーションにもなっている。

 ただ、この発着場がとにかく遠い。会場行きのバスに乗るために小さなシャトルバスに乗り、そこから観光バスに乗りかえるのだ。この乗り継ぎに失敗するとゆうに1時間ぐらいは時間を費やしてしまう。炎天下の中のバス待ちはなかなかに辛い。

バスを待つ人々。屋根はあるものの待っている人全員を覆うほどではない

 発着場近くの交差点の一角にはカメラを構えた一群が待ち構えていた。声をかけてみると、どうやら全国から集まった観光バスを写真に収めようというバス好きの方々らしい。そういうジャンルがあるのか分からないが、“撮り鉄“ならぬ“撮りバス“の人たちなのだ。

 会場までのバスも行きはまだいい。それよりも帰りが問題だ。各会場から観光バスが次々に戻ってくるのに、そこで待っているのは路線サイズの小さなバス。すぐ長蛇の列になってしまう。しかも日本人らしい几帳面さなのか、五輪らしい融通の利かなさなのか、とっくに満員なのにバスは定時まで出発しないのだ。

メディアセンターから会場に行くにも一苦労。マイクロバスで

「おい! 次のバスはいつ来るんだよ!」

 重たいガラガラを引いたカメラマンたちが声を上げる。スタッフが「10分後です」と答えると「Why?」と両手を挙げた。競技が本格的に始まったら混乱必至。ここも少しずつヒートアップし始めている。

 ぎらぎらの日差しを浴びながら日陰もない場所で何十分も待つのは自殺行為。仕方ないので、あっち〜と言いながら20分かけて歩いて帰る。失った水分を取り戻すため、メディアセンターの自販機でコーラを買う。280円也。

 各会場に設置された自販機ではさらに20円増しの300円になっていた。どうして? 輸送費がかかっているのだろうか?

暑すぎて自販機で飲み物を買おうとするが、1本300円!? 驚きを隠せない。

 あれもこれも、もやもやとした胸のつかえがとれないまま、東京五輪が始まっていく。

(写真=雨宮圭吾)

文=雨宮圭吾

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