今やオリックスだけでなく、侍ジャパンでもエースとなった山本由伸のヒーローインタビューはいつも完璧だ。

 たとえば今季初勝利を完封で飾った4月1日のソフトバンク戦の試合後。

「先週負けていたので、とにかく早く投げたいと、しっかり練習しました。キャッチャーの(伏見)寅威さん、野手の皆さんに助けてもらってできた1勝だと思うので、もっともっと勝ち続けていきたいと思います」

 いつも謙虚に、チームメイトに感謝し、時には相手選手へのリスペクトも口にする。

 もちろんそれは山本の純粋な思いなのだが、この22歳はただの優等生ではない。相当な負けず嫌いで、遊び心にあふれている。

今季初勝利の試合では女房役・伏見(右)へ感謝を述べた山本 ©︎KYODO

19歳宮城を尊敬するも「まだ負けない」

 今年のオリックスでは高卒2年目の左腕・宮城大弥が、山本と並ぶリーグトップの9勝を挙げブレイクしたが、その宮城について聞かれた時のこと。

「2年目の19歳であれだけできるって、なかなかいないと思うので、本当に尊敬してます。リスペクト。素晴らしいです」

 そう讃えたが、「負けていられないという思いもある?」と聞かれると、「まだ負けないでしょ」と負けん気が顔を出した。

 防御率は山本が1.82、宮城が2.10でトップを争っているが、宮城には、「(防御率を)超されたらしゃべらない。無視する」と言い渡しているという。

 時には先輩にちょっかいを出すことも。ある日の練習中、捕手の若月健矢がバント練習をしていると、通りかかった山本が、「若月さん、バントぐらいしっかり決めてくださいよー」と笑顔で茶化していった。その2日後にバッテリーを組んだ際、若月が2点本塁打を放ち援護すると、山本は驚いたような表情で両手を掲げた。

 マウンドでの真剣な表情も、悔しがる姿もすべて含めて、グラウンドにいる山本はいつも楽しそうだ。

 山本は宮崎県都城高校から、2016年のドラフト4位でオリックスに入団。3年目に21歳で最優秀防御率のタイトルを獲得し、昨年は奪三振王に輝いた。5年目の今年は、勝利数、防御率、奪三振数でトップに立っている。今や東京五輪で金メダルを目指す日本のエースである。

 今年7月、その山本に、思い描く理想の試合は? と尋ねた。かつてオリックスのエースだった金子弍大(現・日本ハム)に同じ質問をした際には、「27球で終わる試合」と答えた。

 山本は「なんだろう?」と少し悩んで、「わかんないです。勝てたら嬉しい。勝てる試合が一番いい試合なんで」

 では野球選手として一度はやってみたいということは? と聞くと、こう言った。

「ホームラン打ちたい」

 さらに続ける。

「盗塁したい。無理だけど、無理だからしたいんです。それで、リクエストされたい」

 予想外の答えに面食らった。まるで野球少年がそのまま大きくなって、プロの世界で戦っているよう。語弊があるかもしれないが、山本にとってはプロのグラウンドも野球界も、大きな遊び場なのかもしれない。人生をかけた真剣な遊び場だ。

仕事になっても「そんな変わりはない」

 今季開幕前に「山本投手にとって野球とは?」と聞くと、「僕の好きなこと」と答えた。

「昔は楽しかったけど、それが仕事になると同じようにはいかない」と話す選手も多いが、山本はこう言った。

「お金をもらいながらやるというのはすごい変化なので、もちろん変わった部分もたくさんありますけど、気持ちの面というか、野球との向き合い方に関しては、そんなに変わりないかなと思います」

 常に結果を求められるプロの世界で、楽しめること自体が一つの才能。楽しんでいるからこそ向上心にも限界がない。遊び心と向上心が山本の進化の根底にある。

 山本はプロ入り後、2年目にカットボール、3年目にツーシームというように武器となる球種を増やしていったが、ツーシームの習得は偶然の産物だった。

 テレビで元メジャーの大投手、ランディ・ジョンソンが投げ方を説明しているのをたまたま見て、やってみようと思ったという。当時、こう話していた。

「(国際大会の時に)日本人のバッターは外国人投手のちょっと動く球が打ちにくい、課題だ、みたいによく言われるじゃないですか。ってことは、自分もそれを投げたら打たれない。だからちょっと気になっていました。で、たまたま見たテレビで、ランディ・ジョンソンが投げ方を話してて。握る縫い目だけが違って、腕の振りはストレートと同じだったので、それを見た時に、『これはいけるな』と。その説明が簡単そうだったし、やってみても意外と簡単でした。

 今年(2019年)は先発(に転向)するというのが(球種を増やす)理由の一つではあるんですけど、もっと原点には、抑えたい、ただいいピッチャーになりたい、野球が上手になりたいっていう気持ちがあるから。だからそれをテレビで見た時にも、試してみようと思ったんですよね」

 好奇心旺盛で貪欲だが、自分に必要なものと、必要ないものを嗅ぎ分ける嗅覚も持っている。さらに、必要だと思ったことは誰に何を言われても変えない芯の強さがある。

©︎JIJI PRESS

周りに流されない力

 山本はプロ入り後、知人に紹介された施設で、それまでとはまったく違う体の使い方に取り組んできた。最初にそこを訪れた時に、「これだな」と感じたという。ウエイトトレーニングはいっさい行わず、体の内を整える独自のトレーニングを積み重ねてきた。槍のような器具を投げる“ジャベリックスロー”もその一環だが、ほとんどが地道なトレーニング。それをコツコツとひたすら続けた。

 プロ2年目の自主トレやキャンプで、ジャベリックスローや新フォームを披露すると、周囲はざわついた。

「やり投げと投球は違う」

 そうした否定的な声が耳に届き、19歳にとってはさすがにこたえたはずだが、それでも自分の信じる道を曲げなかった。

「僕のやっているトレーニングを理解しようともせずに否定されている感じだったので、聞く理由はなかったですね」

 ここが分岐点だったかもしれない。プロの世界では、周りに流されず自分を持っている選手が上にいく。

 2年目はリリーフとして勝ちパターンの8回を支え、3年目は先発ローテーションに入り、最優秀防御率を獲得。結果を出すにつれ否定的な声は消えていった。

 そして日本のエースと言われる存在に。多彩な変化球はどれも一級品で、ストレートの最速は158キロ。特にこの2年は「強いストレート」にこだわってきた。すでに日本の強打者をねじ伏せているストレートだが、山本自身はこう語る。

「まだまだです。ストレートにはいろんな要素があるから。球速もその1つですけど、スピードだけがすべてじゃない。スピン量だったり、角度だったり、リリースの感覚だったり……まだ(理想の)足元ぐらいじゃないですかね」

 野球少年が、球道者の顔をのぞかせた。

世界を相手にしても

 山本の壮大な遊び場は世界へと広がる。

 2019年のプレミア12ではリリーフとして優勝に貢献した。

 そして、エースとして臨むこの東京五輪では、オープニングゲーム・ドミニカ共和国戦の先発を任された。

 金メダルを期待される侍ジャパンの初戦。初回はさすがに顔がこわばり、力みが見えたが、立ち上がりを無失点でしのぐと、次第にいつものように自在にボールを操るようになっていく。普段以上にカーブを使って緩急をつけ、フォークで三振を取る。6回を投げ2安打無失点、9奪三振で役割を果たした。

キャッチャー甲斐拓也にグータッチで迎えられる山本由伸 ©︎Yuichiro Izawa/JMPA

 ただ、山本が投げている間の日本の安打は、オリックスの主砲・吉田正尚の1本だけと、援護に恵まれなかった。7回にリリーフした青柳晃洋(阪神)が2点を奪われ、1-3とリードされて9回裏を迎えたが、ドミニカのミスから畳み掛けた日本が一気に3点を奪い、劇的なサヨナラ勝利を収めた。

 援護がなく重苦しいマウンドだったが、きっと山本は言うだろう。

「勝てたら嬉しい。勝てた試合が一番いい試合」

 エースの力投が実り、劣勢を跳ね返しての逆転勝利は今後に弾みをつけそうだ。

 次に山本が登板するのは、メダルへとつながる大一番。そんな展開を期待したい。

文=米虫紀子

photograph by Masaki Fujioka/JMPA