稲葉篤紀監督にとって、侍ジャパンのナインは「麾下の選手」ではあるが、その実は「預かっている選手」でもある。「すべての選手に五輪での試合経験を収獲にして原隊に戻ってほしい」と思っていることが、その采配から痛いほどわかる。

 2日の日本―アメリカ戦でも、本当に勝負に徹する指揮官であれば、打ち込まれた田中将大からの継投は(岩崎優を挟んで)青柳晃洋ではなく伊藤大海だったはずだし、その後の投手起用も今季のペナントレースで結果を残していない千賀滉大や大野雄大ではなかったと思う。

 捕手も絶好調の甲斐拓也をスタメンから外し、梅野隆太郎を初めて起用したが「好調のときはチームをいじらない」と言う原則からすれば――定跡ではない選択だった。

©Shinya Mano/JMPA

 しかし、そうした稲葉監督の「配慮」「温情」が、チームに一体感を持たせたのではないかと思う。

 5-6で迎えた9回裏、アメリカはスコット・マクガフをマウンドに上げた。ヤクルトのクローザーであり、日本にしてみれば一番いやな投手だったが、1死から鈴木誠也が粘って歩く。この選手も無安打ながら4番を任され、この日の試合で本塁打を打って面目を施していた。好調の浅村栄斗の右前打でチャンスを広げ、同点につなげた。

タイブレークは“バントができない”チームが不利

 この大会では10回から無死一、二塁でのタイブレークとなるが、バントができないチームは決定的に不利になる。それを意識してかドミニカ共和国などもバントを使っていたが、アメリカの先頭打者はトッド・フレージャー。オールスター2回出場、今年春までメジャーでプレーしていたチーム一の大物だ。

 マイク・ソーシア監督はフレージャーにバントを命じることはできなかっただろうし、代打も送れなかった。そもそもバントが得意な選手がいなかったのかもしれないが、アメリカは無得点のまま日本の攻撃となった。

 稲葉監督はここで村上宗隆に代えて栗原凌也を送る。テレビの解説で宮本慎也氏が「こんなしびれる場面でのバントなんて、僕も経験ない」と言っていたが、栗原は1球で送りバントを決める。ソーシア監督は内野に5人を置く布陣で守ったが途中出場の甲斐拓也がこれも初球を右に運んでサヨナラ勝ち。

©Shinya Mano/JMPA

「全員に見せ場を作りたい」と言う稲葉采配が、うまく転がったと言うべきだろう。

 さて、次戦は8月4日の韓国戦だ。

 韓国は1日のドミニカ共和国戦で劇的な逆転サヨナラ勝ちをしてから勢いに乗り、2日のイスラエル戦は11-1とコールドで大勝した。宿敵日本との戦いになれば、韓国はいつも以上に闘志を燃やす。この戦いも非常に熱いものになるはずだ。

五輪とWBC、プレミア12の戦績を振り返ってみる

 五輪とWBC、プレミア12での日韓戦の戦績を振り返っておこう。

<五輪 日本3勝 韓国4勝>
1984年ロサンゼルス
予選リーグ 〇日本2-0韓国●
1988年ソウル
準決勝 〇日本3-1韓国●
1996年アトランタ
予選リーグ 〇日本14-4韓国●
2000年シドニー
予選リーグ ●日本6-7韓国〇
3位決定戦 ●日本1-3韓国〇
2008年北京
予選リーグ ●日本3-5韓国〇
決勝トーナメント ●日本2-6韓国〇

北京五輪準決勝ではイ・スンヨプに痛恨の一打を浴びた©JMPA

 五輪では公開競技の時代から日本が3連勝していたが、2000年のシドニー五輪以降、韓国が4連勝。4日の試合は、13年ぶりの対戦となる。なお1992年のバルセロナ五輪野球競技には韓国は出場していない。

<WBC 日本4勝 韓国4勝>
2006年 第1回
1次ラウンド ●日本2-3韓国〇
2次ラウンド ●日本1-2韓国〇
準決勝 〇日本6-0韓国●

2006WBC、福留の劇的なホームラン©Getty Images

2009年 第2回
1次ラウンド 〇日本14-2韓国●
1次ラウンド ●日本0-1韓国〇
2次ラウンド ●日本1-4韓国〇
2次ラウンド 〇日本6-2韓国●
決勝 〇日本5-3韓国●

日本野球史に語り継がれる2009WBC決勝、イチローのタイムリー©Naoya Sanuki

 WBCでは第1回、第2回と韓国との激戦が、連覇日本の最大のハイライトだった。両大会ともに死闘を演じた。しかし2013年の第3回、2017年の第4回では、韓国が日本と対戦する前のラウンドで敗退したために、対戦はなかった。

<WBSCプレミア12 日本3勝 韓国1勝>
2015年 第1回
オープニングラウンド 〇日本5-0韓国●
準決勝 ●日本3-4韓国〇
2019年 第2回
スーパーラウンド 〇日本10-8韓国●
決勝 〇日本5-3韓国●

 2015年の第1回では、韓国が準決勝で日本を下し、決勝でもアメリカを下して優勝している。2020年東京五輪の予選を兼ねた2019年のプレミア12では日本はスーパーラウンド、決勝でともに韓国を下して優勝した。しかしともに2点差の接戦であり、実力は伯仲している。

 このプレミア12の顔ぶれの大部分が、今回の東京五輪でも選出されている。この結果が大いに参考になるはずだ。

 五輪、WBC、プレミア12を通じた対戦成績は日本10勝、韓国9勝、まさに好敵手と言ってよい。

左腕ぞろいの投手陣と打撃好調のキム・ヒョンスに要注意

 日本は韓国代表の左腕投手に苦しめられてきた。2006年、2009年WBCのポン・ジュングン、2009年WBCのリュ・ヒョンジンなど、速球の勢いがあり落差のある変化球を繰り出す投手を打ちあぐんできた。

 今回は、ロッテ・ジャイアンツのキム・ジンウク、起亜タイガースのイ・ウィリと昨年のドラフトで入団した新人左腕を2人も擁している。日本にとってはデータがほとんどない投手だ。さらに韓国を代表する左腕セットアッパーであるLGツインズのチャ・ウチャンもいる。

 先発はアメリカ戦で先発し負け投手になった右腕のコ・ヨンピョ。おそらく継投策が基本になるはずで、韓国はピンチになれば、こうした左腕投手を惜しげもなく投入するはずだ。

 打線ではチームリーダーでMLBでもプレーしたキム・ヒョンスが、3試合目のドミニカ共和国戦で4安打を打ち、4試合目のイスラエル戦でも1本塁打を含む3安打と絶好調、調子に乗れば手が付けられない。

「次の手」を想定しつつ冷静に勝利を

 日本の先発は、侍ジャパンのエースと言っても良い山本由伸だろう。初戦では立ち上がりに緊張していたが、2戦目は落ち着いて投げることができるはずだ。

山本由伸ならきっちりと試合を作ってくれるはず©Masaki Fujioka/JMPA

 韓国の強力打線は畳みかけて攻撃してくる。序盤で大量得点されないように引き締めてかかる必要があるだろう。

 敗者復活式のトーナメントでは、同じチームと2回対戦する可能性が高い。韓国ともそうなることを想定すべきだろう。4日の対戦では、手の内をすべて見せるのではなく「次の手」を想定して戦うべきだ。

 過去の戦績を見ると、日韓戦は対戦を重ね、データが増えるとともにじりじりと日本が優勢になることが多かった。今回も日本は冷静に戦うことが求められよう。

文=広尾晃

photograph by Shinya Mano/JMPA