「相手の読み、球際、先を読む力が違うなと感じましたし、本当に気持ちいいくらいの敗戦でしたね」

 8月22日に閉幕したインターハイのサッカー準決勝で、2019年度の選手権決勝カード「青森山田vs静岡学園」の一戦が実現した。

 一昨年度の選手権決勝は、静岡学園が0−2のビハインドからMF松村優太(鹿島アントラーズ)を軸にした攻撃陣が爆発し、逆転勝利で24年ぶり2度目の選手権優勝を達成。しかし、今回はその大逆転劇とは打って変わって、0−4と一方的な試合展開に。それでも敗れた静岡学園の川口修監督は試合後に「清々しい」と振り返った。

 この言葉は決して負け惜しみでも、建前でもなく、川口監督の本心だろう。

松木玖生の脳裏に刻まれる「悪夢」

 あれから1年半、再戦となった夏の大一番で大車輪の活躍を見せたのは、両チームを通じて唯一あの決勝のピッチに立っていた青森山田の10番・松木玖生(3年)だった。

「ミーティングで自分の経験をただ伝えるだけではダメで、それをどうピッチで表現できるかを大事にしていた。試合中もみんなに声をかけ続けました」

 当時、1年生だった松木はボランチとしてスタメン出場していた。前半のうちにDF藤原優大(SC相模原)、MF武田英寿(FC琉球)のゴールで2点先行するという幸先の良いスタートを切ったが、ここから「悪夢」とも言える時間を味わった。

 同点に追いつかれて迎えた85分、静岡学園の左FK。松木はファーサイドをケアすべく、藤原と共にゴール前で構えていた。しかし「相手がFKを蹴った瞬間に一瞬ボールを見失ったんです。その瞬間に『まずい』と思って必死で探したら……(ボールを)見つけた時はもう完全に出遅れていました」

 放物線を描いたボールは松木と藤原の頭上を越え、その先にいた静岡学園DF中谷颯辰(早稲田大)がヘディングシュートをゴールに突き刺した。青森山田は逆転負けを喫し、この大会を準優勝で終えた。

 昨年度の選手権でも全国制覇目前で涙を飲んだ松木だが、目の前で中谷にネットを揺すられた記憶は、今でも鮮明な光景として脳裏に刻まれている。

「ボールがゴールに入った瞬間にスタジアム中が大歓声に包まれて……頭の中が真っ白になりましたし、あの歓声は今でも耳に残っています」

 あの日から、松木の中で静岡学園は“特別な相手”になった。

2019年度選手権決勝、静岡学園DF中谷颯辰の決勝ゴール (c)AFLO

「気持ちの入り方が全然違った」

 今大会は、昨年度のインターハイが中止、選手権では静岡学園が県予選で敗れたことで、待ちに待ったリベンジの機会が訪れる可能性がある。松木は大会前から意気込んでいた。

「(インターハイで)準決勝に進めば静学と戦えるはず。もちろん目指すは優勝のみですが、やはり静学を倒して優勝したい。それくらい僕にとっては悔しい試合でしたし、何がなんでも倒したい相手なんです」

 そんな目論見通り、両校ともに順調に勝ち進み、決勝を前に再戦が実現した。このシチュエーションに、青森山田の背番号10が燃えないはずがない。

「気持ちの入り方が全然違った。1対1でどう剥がされないか、どう連動して守るか。特に向こうは10番(MF古川陽介)と11番(MF川谷凪)の両サイドがストロングだったので、そこをどう抑えるか。(チームメイトに)重要なことは全部伝えました」

 試合前から仲間たちに具体的なアドバイスを送り、さらに名須川真光と渡邊星来の2トップに対しては前線からのプレス、ハードワークを徹底するよう「活を入れました」。

 それは松木が、静岡学園をそこまで追い込まないと勝てない相手だと見ていた以上に「もうあんな思いは二度としたくない」という強い意志の現れでもあったのだ。

 そんな松木の想いはチームメイトに伝播する。今大会、2試合連続8得点など無類の強さで勝ち上がってきた青森山田は、この試合でも立ち上がりからボールを動かしながら、静岡学園に対して全速力のプレスを仕掛け続けた。攻撃の起点となっていた両サイドバックや最終ラインに自由を与えず、チャレンジ&カバーを繰り返した。松木もボランチの位置でセカンドボールを回収し、コンビを組む宇野禅斗とともに2次、3次攻撃につなげていく。

 試合は早速、動いた。

 前半14分、右サイドを突破したMF藤森颯太のクロスを松木がダイレクトで蹴り込んで先制に成功。それでも気を緩めない青森山田は、「僕と禅斗でもう一度攻守を引き締め直そうとした」(松木)とプレス強度を上げ、35分には松木が起点となって名須川の追加点が生まれた。

「(一昨年度の)選手権の時も前半は2−0だったので、少し重なった部分もあった。でも仲間の顔を見ても気持ちが入っていたし、いけると思った」

 頼れる10番の言葉どおり、青森山田の“圧”は前半以上に力強さを増していく。

 守備では自陣ゴール前までボールを運ばせず、逆に後半39分には松木が自ら得た右FKを自慢の左足でゴールに叩き込んだ。後半アディショナルタイムにも1点を追加した青森山田は、4−0と大差をつけてインターハイ決勝に駒を進めた。

 試合後、松木は充実した表情を見せた。

「もう出し切りました。仲間も気持ちが入っていて、全員で手にした勝利だと思います」

この日の3点目となった松木のFK (c)Takahito Ando

 攻撃サッカーを掲げる静岡学園を前後半シュートゼロに抑え込み、一方、奪ったゴールは4得点。青森山田・黒田剛監督も「100点満点のゲームだった」と振り返ったように、まさに完勝だった。

「清々しい」

 冒頭の川口監督の言葉の意味も少しはご理解いただけただろうか。川口監督は続ける。

「プレミアリーグで首位を走っているチーム(青森山田)は、毎試合の質と強度が全然違う。マイボールになった時のプレッシングは剥がさないといけませんが、(ボールを)取られた後のうちの守備力の足りなさを痛感しました。選手たちは一度奪われたらそのままゴール前まで持っていかれてしまった現実を目の当たりにして、もう一度すぐに奪い返してマイボールにするかしないかで大きな差が生まれることを、リアルに体感することができた。これからは“基準”を青森山田さんに設定して日頃のトレーニングからやっていかないといけない。その基準を全員で持つことができたことが、我々にとって大きな収穫だと思います」

 静岡学園にとっては、全国トップレベルの現状を突きつけられた格好だ。明確な差が見えたことで、選手たちにとっては反骨心が芽生える良いきっかけになるだろう。そんな川口監督の思いは選手たちにも伝わっている。

「もっとやれると思っていたけど僕らの力不足でした。普段は出ないようなミスが出た。もう一度僕らのサッカーを見つめ直してやらないといけない」(CB伊東進之介)

「日頃の練習から意識と強度を変えないとこの差は埋まらない。選手権で再戦するために全力を尽くしたい」(FW持山匡佑)

 明らかに変化した選手の目を見た川口監督は、潔く本心を口にする。

「最後にこうして青森山田と戦えて良かった。2年前のチームも夏を境にぐっと伸びてきたからこそ、我々は今から選手権に向けて準備をします」

松木にとって初の全国優勝

 静岡学園からリベンジ宣言と大きなエールをもらった青森山田は、米子北との決勝戦では大苦戦を強いられたものの、後半終了間際に同点に追いつき、延長後半ラストプレーで決勝ゴールを奪う劇的な逆転優勝で大会を制した。

 実はこの延長戦、松木の足はずっとつっていた。何度も屈伸しながら最後まで懸命にプレーを続け、タイムアップの瞬間はその場にうずくまって大号泣。意外だが、これが彼自身初となる全国制覇だった。しかし、その喜びの涙だけではなく、準決勝を最高のモチベーションで戦い抜いたという達成感と疲労が、彼の体を支配していたのかもしれない。

仲間たちに支えられる松木 (c)Takahito Ando

 因縁の相手がいるからこそ、選手たちは思いを強くし、成長を遂げていく。松木が2年前に静岡学園から教わったように、静岡学園の選手たちもこの試合から学び、飛躍を遂げるべくリスタートを切っている。無観客のスタジアムから放たれた熱戦は、それぞれの心に宿り、新たな物語を紡いでいくのだろう。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando