雑誌「Sports Graphic Number」と「NumberWeb」に掲載された記事のなかから、トップアスリートや指導者たちの「名言」を紹介します。今回は国枝慎吾にまつわる3つの言葉です。

<名言1>
日本には国枝がいるじゃないか。
(ロジャー・フェデラー/Number689号 2007年10月11日発売)
https://number.bunshun.jp/articles/-/10756

◇解説◇
 車いすテニス界の絶対王者、国枝慎吾の偉大さについて語る際の“枕詞”となっているフェデラーのコメントだ。もちろん当時は錦織圭らが台頭しておらず、日本テニスが長く低迷していた頃だったことも念頭に置かなければならない。

2008年の国枝とフェデラー ©Getty Images

 とはいえ、国枝の実績は圧倒的だ。たとえば2007年には車いすテニスで史上初となる年間グランドスラムを達成している。特に全米オープンでは初戦から決勝までの5試合で失ったゲームがわずか7という圧倒的なプレーを見せつけたのだ。一方でその年の春、念願だった世界1位をつかみ取った国枝は一時期モチベーションが低下した時期もあったという。

「テニスが楽しくなかった。でも、自分の腕をどれだけ磨けるかを考えたら、気が楽になった」

 己の力を磨ききることに集中する。スランプを乗り切るどころか、さらに実力を磨き上げていったのだ。

2019年 ©Getty Images

<名言2>
詰め切れないのは、まだやらなきゃいけないことがあるということ。
(国枝慎吾/Number806号 2012年6月21日発売)
https://number.bunshun.jp/articles/-/235374

◇解説◇
 2012年2月、国枝はブログで1つの事実を公表した。右ひじの手術、そして「実はこの2年間ずっと肘が痛いなりにプレーしていた」ことだった。2010年にはシングルス100連勝という途方もない偉業を達成した国枝だが、ロンドンパラリンピックを控えるタイミングで様々な治療を試した。しかし完治には遠く、関節鏡を使った手術に踏み切った。

 取り上げたコメントは復帰3戦目となった全仏で準優勝に終わった時のもの。しかし当時取材した記者によると、冷徹に自分を見つめているように感じたそうだ。勝負勘を取り戻し、精度を上げれば……その手応えは、ロンドンパラリンピックで自身3つ目の金メダルを獲得する布石となった。

勝つだけでなく、魅せながら勝つテニスを

<名言3>
車いすテニスって面白いと感じてもらいたい。だから、勝つだけでなく、魅せながら勝つテニスをしていきたい。
(国枝慎吾/Number728号 2009年4月30日発売)
https://number.bunshun.jp/articles/-/10691

◇解説◇
 国枝は2008年末、ある1つの大きな決断を下していた。職員として勤務していた大学を退職。マネジメント会社のIMGと契約し、テニス1本で生きる道、つまりプロ転向を表明したのだ。

 当時の賞金は健常者の男女シングルスと比べると決して大きな額でなく、国枝も「賞金で生活していくには、全部の大会で優勝するくらいでないと」、「テニス1本で生活するのは厳しい道と覚悟している」と話していたという。それでも彼は、大学職員という安定を捨て、実力勝負の世界に飛び込んだのだ。

 その理由はシンプルだった。

「私がプロとしてやり遂げられたら、障害者スポーツに携わる多くの方々に夢を与えられる。障害を持っている子供たちに『車いすテニスプレーヤーになりたい』と夢を持ってもらえる」

©Naoya Sanuki

 東京パラリンピックの大会期間中も、国枝はメディアを通して「車いすテニス」の楽しさを口にし続け、勝ち続けてきた。

 その真骨頂は4日の決勝戦だった。

©Naoya Sanuki

 エフベリンク(オランダ)戦、9歳年下のビッグサーバー相手に対しても鮮やかなチェアワーク、正確無比なストローク、そして魂のプレーぶりで6-1、6-2とストレート勝ちした。銅メダルに終わったリオの雪辱、そして自身4つ目(シングルスで3、ダブルスで1)となる金メダル獲得を果たした。

石黒賢も号泣するほどの“生ける伝説”

 勝利後に目に涙を浮かべた国枝は、試合直後のインタビューで「リオの後は引退も何度も考えた」と語っていた。不屈の闘志で金メダルを再びつかみ取った姿には、NHKでゲスト出演し、テニス愛が深いことで知られる俳優の石黒賢も号泣するほどだった。

©Getty Images

 パラリンピックでの偉大な実績はもちろんのこと、グランドスラム車いす部門で男子歴代最多となる45回(シングルス24回、ダブルス21回)優勝を成し遂げている37歳の生ける伝説。すでに次の視界は9日開幕の全米オープンに向かっているという。

文=NumberWeb編集部

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